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「性転換する海洋生物」―オーシャン・ニュースレター― [2024年04月17日(Wed)]

「性転換する海洋生物」
―オーシャン・ニュースレター―


オーシャン・ニュースレターは、私が日本造船振興会の理事長当時、海洋問題が将来必ず国際問題になると予想し、海洋に関する総合的な議論の場を提供しようと考えて月二回の発行を始めたが、当時は海洋問題に関心のある学者、研究者の所在も不明で、送付先は極めて少数であった。しかし海洋基本法の制定に努力する過程で多くの読者を獲得することに成功した。

現在は笹川平和財団・海洋政策研究所が毎月5日と20日に発行し、多くの専門家のご努力で、既に567号が発行されている。多様な海洋問題が毎号三本の原稿として掲載されている。毎号の記事も興味深いが、「事務局だより」も私の好きなところです。

3月20日号の「性転換する海洋生物」と題した岩田恵理・岡山理科大学獣医学部教授の記事を参考までに掲載しました。

*******************

※ウェブサイト 

性転換する海洋生物─性という戦略
岩田恵理


 海洋生物の性決定のシステムは、XY染色体を基盤とした強固な性決定システムを持つわれわれヒトとは異なり多様である。
中でも魚類では、性転換する種が複数報告されている。
魚類の性転換は決して珍しい現象ではなく、彼らの生存戦略からすれば非常に理にかなったことである。

クマノミの社会順位と性転換
 XY染色体を基盤とした強固な性決定システムを持つわれわれヒトと異なり、海洋生物の性決定のシステムはさまざまである。その中でも、魚類では性成熟後に自らの性別を変更、つまり性転換を行う種が複数報告されている。魚類の性転換は決して珍しい現象ではなく、彼らの生存戦略からすれば非常に理にかなったことである。
 クマノミ類は主にインド太平洋熱帯域のサンゴ礁に生息する熱帯魚である。現在、全世界で28種類のクマノミ類が報告されているが、そのうちの6種が日本列島沿岸に生息する(図1)。クマノミ類はイソギンチャクと共生する魚類として有名であるが、1つのイソギンチャクの中に住んでいるクマノミ類の間には血縁関係はない。群れのクマノミ類は、身体の大きい順に社会順位(優劣)を形成している。つまり1番大きい個体が1番強く優位であり、2番目に大きい個体が第2位、3番目に大きい個体が第3位といったように、体長によって群れの中の順位が決まっている。
 一般にクマノミ類の群れの構成メンバー間では、威嚇・服従行動が日常的に繰り返されている。これらの行動は、群れの中での秩序を保つために大事なのはもちろん、彼らの繁殖にとっても非常に重要な役割を果たしている。彼らの性別は遺伝情報ではなく、群れの中の社会順位により決定するのである。性成熟前のクマノミ類の生殖腺は、1つの臓器の中に卵巣の部分と精巣の部分の両方が存在する。クマノミ類の場合、外側が未熟な卵巣組織、内側が精子を認める精巣組織である。群れの中の社会順位が2位に確定すると、卵巣の部分が少なくなり精巣の部分が増え、雄としての機能を持つようになる。1位となるとその生殖腺の精巣の部分は徐々に退縮し、卵巣の部分だけとなり卵胞が成熟し、雌として機能するようになる(図2)。群れの中ではこの2匹だけが繁殖ペアとなり、定期的に産卵放精を繰り返すことになるが、3個体以下の個体は未成熟な両性生殖腺を持ったまま過ごす。しかし、上位の個体が捕食者に食べられてしまったり、台風で飛ばされていなくなってしまったりなどの不慮の事態が起こると、下位の個体の社会順位が繰り上がることになる。例えば、雌がいなくなれば、雄は2位から1位に昇格するので雌へと「性転換」をする。その結果3位個体は2位になり、性的に未成熟な状態から雄になれるのである。
 クマノミ類がこのような生態を持つことは非常に理にかなっている。クマノミ類は遊泳力が弱い。3位以下の個体が繁殖のチャンスを求めてイソギンチャクを移動することは相当に難しいため、1つのイソギンチャクの中で上位に繰り上がる機会を待つことになる。一方、上位の繁殖ペアは、同じ個体同士で定期的に産卵放精を繰り返すことになる。この場合、魚類にとっては雌の体が大きい方が都合が良い。精子を1つ作るよりも、卵黄豊富な卵を1つ作る方がコストがかかるからである。また、クマノミ類はイソギンチャクの脇の岩場に産卵し、卵がかえるまで新鮮な海水をかけたり掃除をしたりなどの「育卵」を行うが、この役目は雄である。雄が一生懸命卵の面倒を見ている間、雌は次回の産卵に備えてひたすら食べて体力を回復する。つまりクマノミ類はイソギンチャクに住む群れを1つの繁殖ユニットと捉え、そのユニットが繁殖を継続できるような社会システムを持つということである。

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日本で見ることのできるクマノミ6種


さまざまな性転換魚
 クマノミ類とは逆に、雌から雄に性転換をするのがベラの仲間である。ベラ類の多くは大きな雄が縄張りを構え、雌を複数囲い込んで、ハーレム型の群れを形成する。ハーレム雄が死んでしまったりいなくなってしまったりした場合、ハーレムの中にいた身体の一番大きい雌が性転換して雄になることが知られている。ハーレム型の繁殖戦略を持つ魚類にとっては、ハーレムを守る雄の体が一番大きくて強い方が都合がよいのである。
 さらに、一生のうちに雄雌を何度も行ったり来たりする魚種も知られている。日本では伊豆から沖縄にかけての岩場に広く生息するオキナワベニハゼである。オキナワベニハゼは繁殖期に2匹が出会うと、大きな個体が雄、小さな個体が雌と状況に応じ性転換を行って繁殖をする。性転換に要する期間はとても短く、4日程度である。遠くまで移動のできない小さなハゼが、効率よく繁殖するためにそのつど雄雌を切り替えて貴重な出会いを無駄にしないようにすることは、至極理にかなった方法である。
 また、社会順位だけではなく、他の環境要因によって性転換する例もある。クロダイやハタの仲間は、幼魚の頃は両性生殖腺を持ち、その後いったん雌として性成熟する。その後、体長が一定の大きさに達すると雌から雄へと性転換することが知られている。つまり、年齢によって性別が変わってゆくのである。

生存戦略としての性転換
 魚類では繁殖を成功させるため、つまり生存戦略として自らの性を変えてゆくことは決して珍しい現象ではない。現在、性成熟後に性転換をする魚は、全世界で500種ほど報告されている。しかし、海の中にいるすべての魚の行動をつぶさに観察することは、われわれヒトには難しいので、恐らくもっと多くの魚が性転換をする能力を持っていると考えられる。
 私たち脊椎動物の祖先は海で生まれた魚類である。魚類はさまざまな性決定の仕組みを持つに至ったが、その後陸上に進出を果たし、さらに進化してゆく過程で徐々に仕組みは洗練され、現生の哺乳類に見られるようなXY染色体を基盤とした強固な性決定システムができ上がったのだろう。
 実は哺乳類のような性決定をする動物種は殊の外少ない。特に海洋生物はめちゃくちゃで本当に面白い。多くの動物種を見渡してみれば、性は揺らいで当たり前であるということがお伝えできれば幸いである。(了)

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コメント
記事、非常に勉強になりました。
僕は、リチャード・ドーキンスの『利己的な遺伝子』から、それを継いだスティーブンピンカー博士の本を最近読みました。
それらの本は、原則に、「生物の進化においては、ランダマイズされた中で、環境に適応する種が生き残る」というものを見出しました。

既にご存じとは思いますが、進化心理学という言葉で、研究が進んでいるようです。本を読みますと、陸上での生物が対象になっていることが多いです。(研究する人間自身が陸上で活動をするので、当たり前のことだと思いますが。)今回の記事は、人間が研究対象としがたい海洋における生物の研究、海洋における生物に的を当てた進化心理学の発展に一石を投じる視点かと思いました。

感想になります。
失礼致します。
Posted by: 内田  at 2024年04月20日(Sat) 15:57