産経新聞【正論】レアアースを外交力強化の柱に [2023年02月27日(Mon)]
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一レアアースを外交力強化の柱に― 産経新聞【正論】 2023年2月16日 日本最東端の小笠原諸島・南鳥島近海にレアアース(希土類)を豊富に含む「レアアース泥」が大量に堆積していることが明らかになって10年。レアアースは電気自動車やスマートフォンなどさまざまなハイテク商品に使用され、国際社会の需要が一層高まる中、最大の生産国・中国が輸出管理を強める姿勢を見せている。 ≪「資源貧国」から脱する可能性≫ そんな中で採鉱事業が軌道に乗れば、わが国は“資源貧国”から脱し、戦後長く取り組みの弱さが指摘されてきた外交力を強化し、安全保障を強靱(きょうじん)化する道にもつながる。 レアアース泥は南鳥島の排他的経済水域(EEZ)内だけでなく、その周辺の公海にも分布し、近接海域での海底調査など中国の活発な動きも伝えられている。政府には機を逸することなく、早期の実用化に向けた取り組みを一段と強化されるよう望みたい。 レアアースは地球上にわずかしか存在しないレアメタルの一種。中国が圧倒的な生産国で、沖縄県・尖閣諸島沖で日本の巡視船と中国漁船の衝突事件が起きた平成22年当時は世界の生産量の97%を占めた。中国が漁船船長の即時釈放を強要して日本への輸出を事実上ストップし、日本経済が大混乱に陥ったのは記憶に新しい。 その後、各国も対応を強化。米地質調査所(USGS)の推計によると、2018(平成30)年の世界の生産量は17万トン。中国が全体の約7割(12万トン)を占め、以下オーストラリアの2万トン、米国の1万5000トンが続いた。世界の推定埋蔵量は1億2000万トン。こちらもトップは中国で4400万トン、ブラジル、ベトナムが各2200万トンなどとなっている。 日本はほぼ全量を輸入に頼り、うち6割を占める中国への依存をどう脱却するか、経済安全保障上も喫緊のテーマとなっている。中国との対立を深める米国も、USGSによる埋蔵量の推計が140万トンにとどまることもあって、バイデン米大統領は21年の就任直後、半導体など3品目と併せレアアースのサプライチェーンを強化する方針を打ち出している。 ≪数百年分の量が海底に眠る≫ そんな中、平成24年から翌年にかけ南鳥島の近海やEEZの約6000メートルの海底に、レアアースを豊富に含む「泥」が大量に堆積していることが東京大学や海洋研究開発機構(JAMSTEC)などの調査で明らかになった。 英科学誌「ネイチャー・ジオサイエンス」に発表された論文などによると、発見されたレアアース泥は中国の陸上レアアースに比べ、20〜30倍の濃度を持ち、埋蔵量は日本のレアアースの年間使用量(約1.4万トン)の数百年分に上ると推計されている。 JAMSTECによると6000メートルの深海から堆積物を大量に海上に引き上げる技術はこれまで世界になく、仮に成功してもコストをどう抑えるか難問もある。 そんな中で昨年秋、JAMSTECの地球深部探査船「ちきゅう」が茨城県沖の2470メートルの深海に「揚泥管」を伸ばし、1日70トンの泥の吸い上げに成功した。 揚泥管の長さをさらに3000メートル余伸ばせば、南鳥島での採鉱が可能になる段階まで来ている。ただし、試掘が始まるのは来年とも5年以内とも報じられ、早期の実用化には一層積極的で迅速な対応が求められる。 5月に日本が議長国を務める先進7カ国首脳会議(G7サミット)が広島で開催され、ウクライナ戦争や懸念されるロシアの核兵器使用への対策が主要テーマとなる。 同時に温暖化に伴う海面上昇や酸性化、マイクロプラスチック汚染、漁業資源枯渇などの課題が山積する「海洋」もテーマになろう。サミットを主導する海洋国家日本の責任でもある。レアアースは直接のテーマになりにくいが、海洋の適正利用に関わる問題だ。 ≪輸出国に転ずれば存在感増す≫ 政府は将来に高い可能性を持つレアアース泥の開発を、府省庁の壁を越えて科学技術のイノベーションを目指す国家プロジェクト(SIP)の一つに選定し、令和4年度の第2次補正予算にも関連予算60億円を盛り込んでいる。 同時に昨年12月に閣議決定した新たな国家安全保障戦略で「総合的な国力の主な要素」として防衛力、経済力など5項目を挙げ、トップに外交力を据えている。安全保障の要である外交力を強化することで安全保障の強靱化を図る決意と理解する。 レアアースの活用はそれを実現する格好のテーマであり、実用化が視野に入れば、企業の参入も進む。まずは試掘を一刻も早く実施すべきである。岸田文雄首相は衆参両院本会議での施政方針演説で「われわれは歴史の分岐点に立っている」と語った。 レアアース泥の開発が進み、わが国が輸入国から輸出国に転ずれば、激動する国際社会の中で日本の存在感は確実に高まる。その可能性を信じて、日本財団としても可能な限り協力したいと考えている。 (ささかわ ようへい) |






