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「海洋酸性化適応プロジェクト」記者発表―沿岸域での直接的被害、現時点では確認されず― [2022年03月29日(Tue)]

「海洋酸性化適応プロジェクト」記者発表
―沿岸域での直接的被害、現時点では確認されず―


温暖化に伴い海洋が吸収する二酸化炭素(CO₂)が増加することで海洋の酸性化が進み、炭酸カルシウムで殻をつくるカキやホタテ、エビ・カニ類などの成長に悪影響が出るー。そんな恐れが高まる中、日本財団は2020年4月、「海洋酸性化適応プロジェクト」を立ち上げ、NPO法人「里海づくり研究会議」(岡山市:松田治理事長)と協力して国内で初となる沿岸域での影響調査を進め3月17日、東京赤坂の日本財団ビルで記者発表を行った。

調査はカキ養殖が盛んな岡山県備前市の日生沖、宮城県南三陸町の志津川湾、広島県廿日市市の広島湾をモデル海域に、河口部や沖合、養殖場付近など環境が異なる複数ヵ所で実施し、得られた結果を発表した。調査項目は広範にわたるが、例えば水素イオン濃度(pH)。海水の表層は通常pH8.1前後の弱アルカリ性の状態にあるが、日生沖と志津川湾では7.4、7.7のpHも観測され、一時的に水質が酸性化するケースがあることが確認された。

また生物が殻を作るための指標となるアラゴナイト飽和度(Ω:オメガ)を観測したところ、3ヵ所ともカキの幼生に対する影響が出始めるとされる「1.5」が初めて観測された。しかし、カキの浮遊幼生の異常形態など直接的な影響は確認されなかった。こうした結果について松田理事長は、「今後、水産生物に影響が出ても不思議ではないし、出る可能性は十分ある」と評価した上で、酸性化だけでなく海水温の上昇や貧酸素化、貧栄養化が今後、複合的に進む恐れがあると指摘された。

温暖化も海の酸性化もCO₂を削減しない限り解決しない。以前、新聞投稿でも指摘したが、人々の関心は陸の異常気象に比べ、海洋酸性化など海の異変には関心が今一つ希薄な状態にある。しかし、海の劣化は想像以上に深刻化しており、このままでは手遅れになりかねない。そのためにもデータの充実や「官、産、学、民」の一層の協力と連携が急務である。

そんな思いで本プロジェクトもモニタリング地点の拡充や内外の研究機関との幅広いデータ交換の促進など長期的な視野って一段と強化していきたいと考えている。

以下、記者発表での筆者の挨拶の概略です。

********************

22.03.17 「海洋酸性化適応プロジェクト」・記者発表.JPG
記者発表で挨拶


日本財団は活動の大きな一つとして、海洋の持続的可能性の問題に世界的規模で取り組んでいます。我々は地球から7500万キロも離れた火星の表面について詳しい情報を持ちながら、地球に関しては、地表はともかく海底については、どんな形をしているか、ほとんど分からない状況にあります。そんな訳で海底地図の作成を進め、やっと15%を超えるところまできました。何とか早く100%作り上げたいと考えています。

地球人口100億人時代の到来が予測される中、私は「海洋の存在なくして人類の生存なし」と考えています。海洋汚染が500年後、1000年後、人類の生存にどう影響するのかを考えますと、地球がどういうものか、半分しか分かっていない現状では全体が極めて分かりにくいということになります。500年、1000年なんていうのは、宇宙時間でいえば瞬きするような短い時間です。

地球温暖化が進む中、海洋は脱炭素にも大きな影響力を持っています。我々はそういう視点に立って海洋学者の世界的なネットワークを組み、時々刻々と変わる海洋の状況を精査し、エビデンスを取る努力をしてきました。今回のプロジェクトは広島大学名誉教授の松田先生が理事長をされていますNPO法人「里海づくり研究会議」に協力いただき、九州大学や岡山大学の専門家にも参加いただいています。

海洋酸性化はいまや世界的に大きな問題になりつつありますが、今回のプロジェクトは日本の沿岸域をテーマにしています。漁業関係者から、牡蠣などの殻が少し薄くなってきたのではないかといった指摘が出る中で、そうした疑問に答えるには、きちっとした科学的なエビデンスが必要ということで、後ほど結果を、お話しいただきますが、今回初めて、この問題について松田先生を中心に科学的な調査をしていただきました。

私は4年前にもこの場で、カナダのブリティシュコロンビア大学やワシントン大学、その他世界の有力大学の学者さんたちと記者会見しました。20、30年後には日本産の寿司ネタが無くなるのではないか。特に甲殻類、あるいは貝類が無くなり、いずれ天丼なんかも深海魚になってしまうのではないか。冗談半分ですが、海の温度が1度違うと魚の居場所はどんどん変わり今や石川県名物のブリが北海道でとれるようです。

このように気候変動、酸性化によって海洋生物の行動が敏感に変わる状況は目に見えない世界です。しっかりとしたエビデンスをもって説明をしないと説得力のない話になります。日本は海洋国家であると同時に、主食とは言いませんが魚類を世界で一番多く食べる国です。海の酸性化には十二分な監視と対策を練っていく必要があると強く思うわけです。

備えあれば憂いなしです。今後どのような対策を立てていくか、学者先生の力をお借りしなければいけないテーマです。岡山県、広島県辺りは牡蠣養殖が盛んで、全国的にも養殖漁業が大きなウエイトを占める時代になってきています。海の酸性化が将来、カキやホタテの養殖に影響をきたすのではないか、今回初めて、そういう兆候がエビデンスとして皆さんに披露されることになります。赤潮が原因と言われているようですが、北海道ではウニや昆布の成長が悪く、鮭も採れなくなっているようです。正直言って、我々は地球の7割を占める海のことをあまりに知らなすぎます。

海洋立国日本と言いながら海に関する情報が欠如している中で、今回の研究の結果、日本の近海にも酸性化の予兆が出てきている、牡蠣や甲殻類の生存が危ぶまれる兆候が出てきているということのようです。気候変動に伴う大きな問題であると同時に、我々の食生活を直撃する問題でございます。研究成果を是非、お聞き及びいただきたく思います。ありがとうございました。
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笹川 様
記者発表会でご一緒させていただいた里海づくり研究会議の松田治です。記者発表会と日本財団・「沿環連」の合同シンポジウムでは大変お世話になりありがとうございました。私はこれまでに、「沿環連」のシンポジウムに何回か参加したことがありますが、今回のように600人以上が参加した例は全くありませんでした。海洋酸性化とあわせて日本財団の影響力の大きさを改めて認識いたしました。
会長のご挨拶にあるように「海洋立国日本と言いながら海に関する情報が欠如している中で、今回の研究の結果、日本の近海にも酸性化の予兆が出てきている」ことは間違いありません。今回の記者発表やシンポジウムの後には、個人的にも「非常に有意義なシンポジウムだった」とか「良い議論が聞けた」というような多くのご意見をいただきました。私どもは、これから多くの組織・分野と協力しながら、海洋酸性化に関するエビデンスを集積し、適応策の検討を進める予定ですので、引き続きよろしくお願いいたします。
Posted by: 松田 治  at 2022年03月30日(Wed) 09:29

発表者の一人です。コロナの影響で実に1年半ぶりに上京しましたが、笹川会長にもお目に掛かれましたし、得られた情報量の多さはやはり対面ならではと改めて感じました。海洋酸性化モニタリングは少数精鋭の研究者の努力もあり国内でも近年その実施例が増えて来ていますが、立ち上げの時点から漁業関係者と協働して実際の貝類養殖海域でしかも複数の地点で実施された例としては本邦初です。実施主体が研究機関や大学でないのも恐らく初めての事例だと思います。関係各位のご努力もさることながら、観測機器が比較的高額なので、財団のご支援なしには到底実施に至っていないプロジェクトです。改めて感謝申し上げます。海洋酸性化はSDGでは目標14 (14.3)に属しますが、目標14は他の目標との兼ね合いで社会の関心度が大きく変わると感じています。現状ではコロナ然り国際情勢然りで大変難しい状況にありますが、一刻も早く世の中に平穏が訪れて欲しいと願っています。海洋酸性化も世界的なCO2増加によってもたらされる部分と、今回ご紹介したように局所的な海洋環境要因によってもたらされる部分の両方があり、前者もそうですが後者もClimate changeによって今後増大すると懸念される極端現象によって振れ幅が大きくなると考えられ、相当に喫緊の問題と考えています。引き続きご支援の程宜しくお願い申し上げます。
Posted by: 藤井賢彦  at 2022年03月29日(Tue) 23:54

笹川様

すばらしいプロジェクトを立ち上げていただきまして、ありがとうございます。これまで日本では大学等の研究セクターが主体の酸性化モニタリングが主体でしたが、こうして漁業現場に近い民間の方々が自ら現地でモニタリングを実施し、生物への影響まで含めて理解・評価ができるようになったことは、文字通り画期的なことで、今後このような活動が全国の津々浦々に普及していくことを願ってやみません。我々研究者もこの新しい流れに全力でご協力していきたいと思っております。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
Posted by: 小埜恒夫  at 2022年03月29日(Tue) 12:51