「週刊読書人」―新刊紹介「戦後日中関係秘史」― [2020年09月25日(Fri)]
|
「週刊読書人」 ―新刊紹介「戦後日中関係秘史」― 本書を読んで欲しい人がいる。政治家、財界人、ジャーナリスト、歴史研究家。いまリーダーたる人たちはもちろん、その世界を志す人にこの中から何かを読み取ってもらいたいとつくづく思う。 本書では「新しい日中関係を考える研究者の会」が2016年から2019年にかけて、日中関係のキーパーソン10名にじっくりと聞き取りを行っている。知名度のある人もいるが、現場そのものに関わっていた人も多く、ニュースなどでは窺い知ることのできない事実を体の中に抱え持った10名である。これまで明かされたことのない秘話の数々には単に歴史上の事実を知るだけでは果たせない驚きの真実がある。 研究者は多くの資料に基づいて正確に歴史の事実を解明していくことが使命ではあるが、歴史の契機に関わった人がそこにいるならば、誰よりも先にその人が語ることのできる事実を洗いざらい聞き取っておきたいと願うのが本能であろう。「その時のことを、この人に、いま聞いておく」というオーラルヒストリーの真髄がこの本には詰め込まれている。 例えば、証言者の一人笹川陽平氏(日本財団会長)は、民間レベルで秘密裏に粘り強く交渉を進め、導入は日本との連携によるものとほぼ決まっていた中国の新幹線が、下ごしらえができたところで乗り出してきた国交省や経団連の手柄争いによって、最後の最後で計画を壊してしまったことについて、忸怩たる思いと漏らしている。中国側代表の朱鎔基とのやり取り、中国の微妙な国民感情など心に留めておくべきことは多い。この中国新幹線については川崎重工の独断による技術移転、日本チームの連携不足によるミスなど、おそらく公式には知らされていない。書籍だからこそ率直な事実が記録されたと言えそうである。 戦後の日本は日中戦争で犯した中国への多大な「迷惑」に対する、関係の修復や構築に、語り尽くせぬ苦労があった。しかし、隣国である中国の復興に心を砕いた日本人の真の心はなかなか知ることはできずにいる。周恩来、ケ小平、廖承志、日本側では藤山愛一郎、田中角栄、稲山嘉寛という名前のよく知られた人だけでなく、一般的には知られていない人たちが数え切れないほど本書には登場する。この本を読むことで、戦後75年の間、日中間の政治、経済、文化など多くの分野で、我々の見えないところで語り合い、交渉し、糸を繋いできた、その本質を改めて知る思いがする。 いまや中国はアメリカをも凌ぐほど世界に影響を与える強大な国家となってきている。しかし、ここに至る礎を築くためには隣国として日本が力を尽くしてきたこともあったのである。そしてそこには信念と愛情に溢れる両国の指導者たちがいたことを、いま、忘れずに残しておきたい。中国と日本の若い人にこの本を読むことをお勧めする。 (46判・326頁・2700円+税・岩波書店) ※2020年9月4日付「週刊読書人」です。 |






