「ちょっといい話」その116―世界王者の少年院訪問― [2019年10月24日(Thu)]
「ちょっといい話」その116 ―世界王者の少年院訪問― 日本財団では「HEROs」という名で、スポーツ選手に社会貢献活動に参加していただいている。 その有力メンバーである世界ボクシング協会(WBA)ミドル級王者で、2012年ロンドン五輪金メダリストの村田諒太選手(33)=帝拳ジム所属=が、先ごろ、千葉県八街市の八街少年院を慰問し、更生を目指す約60人の少年たちと交流してくれた。 村田選手はチャンピオンベルトを肩にかけて講演会場に姿を現し、ボクシングとの出会いや荒れていた時期などのエピソードを飾りのない言葉で語った。栄光(勝利)の体験ではなく、むしろ挫折(敗北)の体験から多くを学んだという。 高校のデビュー戦では敗北した。「かっこ悪くてやめたかったけど、3カ月続けたら1年のインターハイで準優勝できた。これが最初の成功体験。我慢が必要だと学んだ」 3年間で、インターハイと国体、選抜大会で計五つのタイトルを獲得し、社会人も出場する全日本選手権では準優勝。だが、鳴り物入りで進んだ大学も初戦は負けた。 「僕はエリートじゃない。君たちも負けたからって諦めないでほしい。ボクシングをやめなかったことが僕の一番の誇り」 ロンドン五輪後にプロに転向。2017年の世界王座決定戦で判定負けしてベルトを逃すが、5カ月後の再戦で世界王者になる。さらに、防衛後の2018年10月に王座を陥落するが、2019年7月に同じ相手との再戦に勝ち、王座に返り咲いた。 村田選手は少年院の若者たちに繰り返し強調した。 「君たちの人生のリ・マッチ(再戦)は永遠にある。そのリ・マッチに勝って!」 村田選手の話には説得力があり、同行した法務省の幹部は勿論、日本財団職員も涙、涙であったそうだ。また、お礼の言葉を述べた少年の代表は、事前に用意していた挨拶文を途中で中止し「自分の言葉で話します」と言って、「大きな励みになりました。自分に負けないよう頑張ります」と、力強く誓ったという。 日本財団はこれとは別に、「職親プロジェクト」を展開している。刑務所や少年院を出た者が再び犯罪を引き起こす再犯者率が年々上昇している現状(2017年は48.7%)を注視し、2013年2月立ち上げた。「職親(しょくしん)」とは耳慣れない文言だが、職(仕事)を与え、親代わりになって支えるとの意味が込められている。元受刑者らを雇用し、彼らの更生を後押ししてほしいという日本財団の呼びかけに応じた「職親企業」はプロジェクトの発足時、大阪の七社にすぎなかったが、2019年6月現在、全国で百三十社にのぼっている。 「人生はやり直すことができる」。これは職親企業の経営者が、とくに少年院を出た若者を雇用する際に言う励ましの言葉だ。村田選手が八街少年院での講演で若者たちに贈ったメッセージとぴったり重なっている。 (2019年9月20日の千葉日報電子版を参考にしました) |