笹川陽平ブログ（日本財団会長）

今春、京都マルイに障害者が働く事業所で作るブランド「久遠チョコレート」の店舗が開店する。福祉事業所の運営店舗が百貨店に出店するのは、日本のこれまでの福祉の歴史でも初の出来事である。

一般事業所での雇用が困難とされ、就職に必要な知識や能力向上を目指す障害者が働く「就労継続Ｂ型事業所」における2015年度の平均工賃は月に14,838円（2016年、厚生労働省）。驚くことに時給にすると100円以下である。福祉事業所は全国で約1万ヶ所、利用者は20万人に上る。国も工賃倍増計画を打ち出しているが、「障害の有無にかかわらず、すべての国民が共生する社会」を目指す障害者総合支援法の理念には程遠い。

日本財団は、これまで約2,000ヶ所以上で障害者就労に係る改修や機器整備を行ってきたが、働き場所の拡大にはなっても工賃アップには繋がらなかった。そこで、高知県で福祉事業所の理事長をしていた竹村利道氏を招き、「はたらくNIPPON！計画」をスタートさせた。これは、従来の福祉事業にない発想の下、地域の文化や特色、企業や専門家との連携等を活かし、障害者の工賃向上に繋がる画期的な事業を、日本財団職員が企画段階から参画し構築するプロジェクトだ。

冒頭に上げた京都マルイの店舗も、この「はたらくNIPPON！計画」の一環である。日本のトップショラティエである野口和男氏を筆頭に、愛知県の（一社）ラ・バルカグループと協働し、日本財団が推進する寄付文化醸成プロジェクト・夢の貯金箱に寄せられた寄付金を活用し、2014年から3年間で約1億3,500万円を支援してきた。

野口和男氏の指導の甲斐もあり、現在「久遠チョコレート」は全国に9店舗、製造工場8ヶ所、催事出店においては高島屋（日本橋店）、小田急百貨店（新宿店、町田店、藤沢店）、阪急百貨店（梅田本店）、伊勢丹（京都店）、東急百貨店（渋谷店）に展開するなど急激に成長し、2016年度には連結で約4億円の売上を見込んでいる。これらの店舗や工場は、野口和男氏によるチョコレート製造のノウハウを伝授された地域の福祉事業所が運営しており、一事業者に留まらず、全国の事業所での工賃向上を図っていきたいと志は大きい。



純チョコレートの取扱いは繊細さが要求されるが、知的障害を持つ方は集中して作業を行うことが得意で、彼らのひたむきさとこのチョコレートの繊細さは非常に相性が良い。ショコラティエという職業が高い工賃を得ることのできる新しい道になることを期待している。

また、寄付金を本事業に活用していることも特徴の一つである。日本財団は、2005年より日本に寄付文化を根付かせるため寄付を募ってきた。筆者は常々、非営利団体の情報発信の重要性を訴えているが、それだけに「命の次に大事なお金」を提供してくださった寄付者への説明責任は重い。寄付をし、関心を持って日本財団の活動を見てくださっている人たちにこのような成果を報告できることは、何よりの喜びである。

なお、世のため人のためにと私財を託された寄付者のご意志を尊重し、寄付金は人件費や広報費などの間接経費には一銭も使用していないことを付言します。

今後も京都マルイをはじめ、百貨店や各地域での店舗展開を実施していく予定である。以下、現在の店舗です。お近くにお住まいの方は、是非手にとっていただき、味見してください。

久遠チョコレート 豊橋本店（愛知県豊橋市）
久遠チョコレート 横浜店（神奈川県横浜市）
久遠チョコレート スワンベーカリー町田店（東京都町田市）
久遠チョコレート新潟（新潟県新潟市）
NEW STANDARD CHOCOLATE（京都府京都市）
LaLa-Chocolat by 久遠（大阪府高槻市）
和歌山ショコラ とことわ（和歌山県和歌山市）
CoCo by久遠（広島県尾道市）
久遠チョコレート鹿児島（鹿児島県鹿児島市）