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「ハンセン病制圧活動記」その14―インド北部ウッタル・プラデーシュ州訪問記 [2014年04月25日(Fri)]

「ハンセン病制圧活動記」その14
―インド北部ウッタル・プラデーシュ州訪問記―


松丘保養園機関誌「甲田の裾」
2014年新春号


WHOハンセン病制圧特別大使
笹川 陽平



 10月21日から3日間、インド北部のウッタル・プラデーシュ州を訪問した。今回の訪問の目的は、主に3つ。1つめには、インドで最もハンセン病患者数の多い州において、ハンセン病対策をさらに加速させるための政治的コミットメントを取りつけること。2つめに、ハンセン病回復者の州リーダーとともに、ハンセン病年金の設置や第2世代の高等教育支援など、政策のさらなる充実に向けて州政府の高官と会い、交渉すること。最後に、ササカワ・インド・ハンセン病財団で支援している経済的自立のための融資事業を視察することである。

 インドの首都デリーの東に位置するウッタル・プラデーシュ州は、北部にネパールと国境を接している。人口12億人のインドの中でも最も人口が多く、約2億人が暮らす。保健省を通じて報告されるハンセン病の新規患者数は国内最多で、年間24,000人以上。面積は243,000平方キロメートルと日本の本州よりも広く、この州だけで一国と呼びたくなる規模である。

 21日、インドの首都デリー経由でウッタル・プラデーシュ州の州都ラクナウの空港に到着すると、ウッタル・プラデーシュ州保健省の方々とともに、ハンセン病回復者組織の州リーダーであるダヤル・プラサード氏とムラリ・シンハ氏が出迎えてくれた。到着直後に、州社会福祉省の障害担当副委員長であるシャレンドラ・クマール・ソンカール氏と面談。彼自身も視覚障害がある。インドにはIASという行政官資格があり、これは日本の官僚の登竜門である上級職試験より100倍難関であるといっても過言ではない。退職して肩書がなくなっても名刺にはIASと書かれており、いかに尊敬される立場であるかおわかりになるだろう。ソンカール氏はウッタル・プラデーシュ州で視覚障害者として初めてIAS試験に合格したという。同行した州リーダーによる陳情に耳を傾け、ウッタル・プラデーシュ州の障害者を対象とした年金、経済的自立のための融資制度といった各施策が、障害をもつハンセン病回復者にも適用されるよう確約してくれた。またウッタル・プラデーシュ州75県各県に配置されている障害者問題協議会に、ハンセン病回復者もメンバーとして加えるようにすると約束してくださった。

 午後は、インド政府保健省から州政府保健次官の実務トップといえるプラヴィール・クマール保健次官、シャシャンク・ヴィクラム保健省特別次官、州ハンセン病担当官、75県のうち、蔓延率が1以上である37の県ハンセン病担当官、NGO代表者、ハンセン病回復者らが集まり、ハンセン病対策をさらに加速させるための関係者連携会議が行われた。今年7月バンコクで行われた国際ハンセン病サミットにおいて、蔓延国17カ国の保健大臣からさらなるハンセン病対策加速に向けた決意表明がされた。連邦政府制のインドでは、現場におけるハンセン病対策の実権は州政府が握っている。新しい患者を早期に診断し、速やかに治療できるシステムを維持するには、州政府のコミットメントが不可欠だ。会議の議長を務められたプラヴィール・クマール保健次官は、ハンセン病がどのように感染するか、感染経路をどう断つことができるのか、予定時間を大幅に越えて参加者と熱心に議論されていた。「病気の発見、治療は保健省の責任。新規患者を発見し、報告し、一刻も早く治療を始めることに保健省として全力で取り組む」と力強く宣言され、「子どもの障害発生数が高いことに強い懸念を持っている。真剣に取り組む必要がある、手を緩める余裕は全くない」と語られた。ウッタル・プラデーシュ州においても、関係者が一丸となってハンセン病対策に取り組んでいく決意を再確認することができた。

 またこの会議においてもうひとつ喜ばしかったことは、10社以上の地元メディアが参加してくれたことである。ハンセン病が治る病気である、薬が無料で手に入るというメッセージに加えて、ハンセン病が既に終わった昔の問題ではなく、現在も全力で取り組むべき課題であるという意識を、特にインドの蔓延州においては多くの人に持っていただきたい。

 翌日は、州都ラクナウから南に約80キロ離れたライベラリ県にジェイ・ドゥルガ・ハンセン病コロニーを訪ねた。1971年に設立されたこのコロニーでは、40人のハンセン病回復者と31人の子どもたちが暮らしている。コロニーの家屋のうち25軒は、県の都市開発機構によって建てられたコンクリート建ての建物。トイレや機械式汲み上げ井戸など、インフラ整備も比較的整っている。

 このコロニーでは、ササカワ・インド・ハンセン病財団(SILF)の支援を受けて経済的自立のための融資事業が行っている。サイクルリキシャ(自転車による人力車)の操業、女性によるヤギの飼育など、合計13人のメンバーが融資を受けてビジネスを実施。サイクルリキシャでは一日平均200ルピー(約330円)の収入を得られているそうだ。皆、誇らしそうな笑顔で飼っているヤギや自分が運転するサイクルリキシャを私に見せてくれた。

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サイクル・リキシャで生計を立てるコロニーの男性(ジェイ・ドゥルガ・ハンセン病コロニー)


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ヤギの飼育も軌道に乗っている(ジェイ・ドゥルガ・ハンセン病コロニー)


SILFではインド全土16州で約150のプロジェクトが現在動いている。SILFのスタッフによると、プロジェクト成功の鍵は、メンバーが自分自身で意思決定する力を育てられるかどうか、能力や経験など彼らが持つ資源を活かせるかどうか、物品販売のマーケットがあるかどうか、そして現在プロジェクトに従事しているメンバーが年老いた時、次世代である彼らの子どもたちがそのビジネスを継ぎたいと思えるような魅力的なビジネスかどうかの4点だという。これまで物乞い以外に生計を立てる選択肢がなかった人たちが、自分たちの力でビジネスを立ち上げ成功するにつれて自信をつけ、コミュニティ全体の意識が前向きに変化わるような成功例が出てきていることは非常に嬉しいことだ。

 コロニーで行われた集会にはジェイ・ドゥルガ・ハンセン病コロニー以外にも州内12のコロニーから代表者が参加し、それぞれのコロニーで直面している問題について話し合いが行われた。

 ウッタル・プラデーシュ州には、「ハンセン病回復者福祉協会」という名のハンセン病回復者による州組織がある。2012年12月に、生活状況の改善を求める要望書を州首相に宛てて提出した。要望事項は、月額2,000ルピー(約3,300円)のハンセン病年金の設置、州政府が提供する低所得者向け住居のハンセン病コロニーへの適用、水・電気等衛生設備の充実、第二世代への高等教育の機会提供、コロニーにおける医療器具の無償提供などの5つ。返答がなかったため、今年9月に再度要望書を今度はメディアを通じて公開書簡として提出し、州政府の関係各省庁へもコピーを提出した。どうしたら自分たちの声が受け入れられるか、よく考えられた行動である。また州リーダーのムラリ氏はEメールアドレスを持っており、全国のハンセン病回復者州リーダーらとのやりとりにも携帯電話に加えてEメールを使用している。ハンセン病回復者のリーダーの間で情報化を進めることは、広いインドにおいて迅速に情報を共有するためには不可欠なことであり、今後の活動の展開にますます希望が持てる明るい兆しである。

 夕方にラクナウに戻り、州リーダーたちとともにウッタル・プラデーシュ州政府社会福祉省局長のアニル・クマール・サガル社会福祉省局長と面談。要望書のコピーをサガル局長に手渡し、ハンセン病特別年金の設置にご協力をいただくようお願いしたところ、「できる限り協力する」と力強い言葉をいただいた。
 
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社会福祉省クマール次官(左)と州リーダー ムラリ氏(中央)と筆者


 翌朝は、社会福祉省の実務トップに当たるスニル・クマール次官と面談。次官に就任して2ヶ月だが、ハンセン病の回復者から陳情を受けたのは初めてという。陳情事項のひとつである第2世代の子どもたちの高等教育については、州政府が提供する年収3万ルピー(約5万円)以下の低所得者層に提供される奨学金制度に申請するよう助言があった。ハンセン病特別年金の設置について、「対象者が何人いるのか、県ごとに詳細のデータを出して欲しい。それを基に州政府が確認調査を行う。他の州のハンセン病年金についても詳細の情報が欲しい」と語った上で、「前向きに検討します」と約束してくださった。前向きな発言が社会福祉省次官から聞けたことは何より心強いことである。同日にはB. L. ジョシ州知事とアハメット・ハッサン保健大臣を表敬訪問し、ハンセン病回復者が直面する問題解決へのご協力をお願いした。州政府の期待に応えられるデータを提出するよう、州リーダーたちを激励し、ウッタル・プラデーシュ州を後にした。

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ジェイ・ドゥルガ・ハンセン病コロニーで回復者の方々の前であいさつ


 驚いたことに、帰国してから1週間も経たないうちに進展があった。社会福祉次官から発信された公文書がムラリ氏からメールで送られてきた。各県の福祉担当官宛に発信された公文書には、州のハンセン病回復者組織から提出された子どものリストが添付され、「確認調査を行った上で、低所得者層向け高等教育支援を支給するように」と書かれていた。これまで様々な州を回って同様のお願いをしてきたが、これほど迅速な対応が州政府からあったのは初めてのことだ。年金の設置についても州政府との交渉が進められている最中であり、今後の進展に期待したい。
 コロニーに集まったハンセン病回復者の皆さんに語った通り、彼らが直面する問題を解決するのは彼ら自身の力である。インドのハンセン病回復者協会(旧団体名はナショナル・フォーラム)のもとに、全国の成功例の基となる情報や戦略を共有するためのネットワークが着実に築かれつつある。私ができるのは、彼らの闘いに寄り添い、必要な時に手を添えることだ。ハンセン病回復者を対象とした月1,800ルピー(約3,000円)の生活手当の実現に成功したビハール州の例に続き、ウッタル・プラデーシュ州でもハンセン病特別年金が実現するよう、彼らの闘いを引き続き見守りたい。
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