記者会見その3 [2011年12月28日(Wed)]
記者会見 その3
○司会 それでは、次の質問に、一番前の男性の方。 ○Independent Web Journal(IWJ)イワタと申します。 自然放射線についてインドのケララ州のお話をされた方がいらっしゃると思うんですけれども、ここで奇形の出生率が多いことや、ラドンガスによって肺がん発症率が多いという自然放射線についての報告というのも、これは継続的議論の中にあると思うのでこれはちょっと置いておきます。 避難基準についてお聞きします。チェルノブイリ事故の数年後にベラルーシで、平方メートル当たり55万ベクレルで避難義務、18万ベクレルで避難権利というのが発布されました。今現在、福島市というのは、文科省とアメリカのエネルギー庁の航空機のモニタリング結果から、平方メートル当たり30万から60万ベクレルという結果が出ていますが、これが正しいとして現在日本政府がとっている避難基準というのは、妥当であるかどうかをお聞きしたいというのと、あと2つ目なんですけれども、個人線量を把握するというお話をされていましたが、今現在20ミリシーベルト基準というのが発布されたわけですけれども、これは4月1日以降のどれだけ被曝するかという、年に20ミリシーベルトという話ですが、全く初期被曝の再計算、初期被曝が考慮されていないと、この初期被曝を再構築するに当たって、もちろん事故後にどれだけの核種が放出されたかということが必要だと思うんですが、今のところ文科省や、あとは東電が発表しているデータは非常に限られた核種のみなんです。こうした限られた核種のみで、群馬の高崎のほうのCTBTモニタリングポストなんかでは、かなり広い範囲の核種であるとか、キセノンなんかについては17日なんかは検出の限界値を超えていたりするんですが、こうしたデータを使って初期被曝の再構築をしなければならないと思うんですが、今後イニシャルの線量についてどのような構築の方法というのが考えられるのか詳しくお聞かせください。 ○ブーヴィル(アメリカ:米国国立がん研究所・放射線疫学部コンサルタント) 私の理解では初期線量の再構築の方法ということだと思いますけれども、今までの測定で放射線核種が地面にどれだけ降下物として沈着したかということはもうわかっているわけです。その環境での測定の情報に加えて炉からの放出量ということも数値的にわかっているはずですし、それから航空機等々によって測定したものもある。それから、現地での調査によって得られた数字もあるということを突き合わせていけば、その線量の構築はできるはずです。 それから、メトラー先生が先ほど言われたように、環境の汚染線量ということと、いつどこに人がどれだけ滞在したかというその情報が大事になってくるわけです。その2つの情報を突き合わせていけば、特定の地域に住んでいる個人の平均線量というものが出るはずです。しかし、その答えがすぐに出てくるというわけではなくて、必要な回答が得られるまでには何カ月かかかるかもしれません。 ○IWJ もう一つの質問の避難基準についてのことを…… ○紀伊國 あなた1人じゃなくて、たくさんの人が手を挙げているからほかの人に譲ったら? ○IWJ そうですか。質問…… ○紀伊國 何人もの人が手を挙げているから。というのは、ヘイマン先生はロンドンに帰らなきゃならないので、間もなく失礼するということもあります。 ○??−− でも、彼は2つ質問をして、まだ1つしか答えていないんですよ。もう一つの質問に答えてください。 ○笹川 今日はできるだけ皆さんが全員、手が挙がらなくなるまでやりたいと思っています。こんな機会はありませんから、どうぞ遠慮なく心行くまで聞いてください。こちら側は多分だれかは残ってくれると思いますのでじっくりやりましょう。(拍手) ○IWJ どうもありがとうございます。 先ほどの1つ目の質問にお答えいただきたいのと、先ほどのお答えに対してなんですけれども、現在文科省が発表している初期のデータというのは、5核種のみで初期の放出の核種については一般の国民には知らされていないわけですが、もちろん先生方はまた別のデータをお持ちになっているかもしれませんが、もしデータを持っていたら皆さんに発表してくださいということなんですけれども。 ○丹羽 そのご質問はこの先生方に聞くのは全く的外れです。誰だってデータは持っていないんだから。私は日本人で政府の委員も勤めていますが、データは持っていません。貴方が外国から来られた方も含めたこのような場での質問としては、失礼だと思います。我々学者は何も隠しているわけでもない。持っていないのです。 ○IWJ そういうことではなくて、再構築が今までのデータで公表できるということでしたので、それはお持ちなのかなという思いで。 ○丹羽 再構築のデータを我々は持っていないですよ。 ○IWJ わかりました。1つ目の質問にお答えいただきたいと思います。 ○チュマック 私は日本の科学者でもないし日本政府の代弁者、代表でもないので、ウクライナで起きた経験からお答えするしかありません。福島の状況というのはかなりチェルノブイリとは異なると思うわけです。 チェルノブイリですけれども、炉が溶融して高温で火災が出ましたし、それから溶融した燃料も高温だったわけです。ですから言ってみれば福島のほうが、チェルノブイリの状況よりも分析をするにはずっとシンプルだったと思うのです。 炉の中には核種、半減期が長いものと、それから短いものがまざって入っています。福島では確かに炉は崩壊してその中のものが放出したということが、1カ月後ぐらいに起こりましたから、おっしゃるように放出したものがあったわけです。 炉の中にはいろいろなものが混在しているわけですけれども、トレーサーというものがありますから、全体にどれだけ放射能が放出されたかというトータルは出てくると思います。 そういうことで計算によってある程度の数字を得るということはできると思いますけれども、広島などの経験ではレンガや陶器ですか、それの高温のものなどもあるわけですから、そちらからの経験からも割り出されるものがあるのではないかと思います。 そういった独立した他のソースからのものも使って計算に役立てることができると思います。ウクライナでの経験を多少持った科学者としての、これは政治的な判断ではなくて技術的なお答えです。 ○IWJ 何度もすみません。避難基準についてチェルノブイリのときの避難基準、55万ベクレル平方メートル当たりというのと、避難権利が18万ベクレルということでしたが、それについて現在の福島の状況と照らし合わせて。 ○酒井(放射線医学総合研究所放射線防護研究センター・センター長、国際放射線防護委員会委員) 避難基準に関してですけれども、今ご指摘のようにチェルノブイリの場合は、土壌の汚染レベルで評価されました。今現在、日本で発表されている基準というのは、実際にその場にいたときにどれほどの線量を受けるか、線量率で検討されていると思います。 それでその線量率との関係で、ICRPで設定されているところの1年当たり20ミリシーベルトというようなところが、一つの目安になって決定されています。それで土壌の汚染の状況と、それから実際の受ける線量率との関係については、土壌がどんな核種によって汚染されているか等々によってやはり違ってきますので、そういう意味で土壌の汚染だけをとらえてチェルノブイリの場合とどうかというのは、もう少し検討が必要だと思います。
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○司会 次、隣の女性の方、お願いいたします。 ○朝日新聞社のオオイワと申します。 提言の最後のほうに、住民の方になるべくこの健康管理調査に参加してほしいという呼びかけがあったんですけれども、県民の方の中には余り自分が被曝していたということを認めたくないという感情があったり、あるいは行動調査に記入するのは結構大変で、それでためらっている方とかいろいろいらっしゃると思うんですが、これまでの過去にいろいろなところで住民調査というのが、ウクライナとかソ連とかだけじゃなくてセラフィールドとか、いろいろなところで行われているんですけれども、そういうところでなるべくそういう対象者の人に参加してもらう、参加率を上げるためにどういう取り組みがされてきたのか、もし何か特別な取り組みがあったとしたら教えていただきたいのが1つと、あとそれから、今回の会議でリスクコミュニケーションが非常に難しいという話が、いろいろな方から出ていたんですけれども、過去のいろいろな世界各地の例で、比較的リスクコミュニケーションがうまくいったというような成功例があれば、それも教えていただけますでしょうか。 ○山下 私自身、県民健康調査にかかわっていますから、そういう立場で今のご質問にお答えしますと、いわゆる質問票を渡してそれに記入させるだけでは、やはり回答率も悪いというふうに予想されますし、これについては行動のパターンについてきめ細かな対応が必要だと考え、今現在、福島県と福島県立医大では、この問題を解決するためにいろいろ協議されています。 例えばの話ですけれども、地域の行政あるいは保健師さんたちにお話をして出向いてもらう、あるいは避難所にはそれぞれ説明に行っていただくということで、行政と一体となって書きにくい、あるいは問題なことを克服しようというふうにしています。 ぜひ知っていただきたいのは、先ほどの質問もそうですけれども、ソ連の時代の5年間はほとんど調査されていません。事故があって初めて我々が入った後、そういう聞き取り調査をし、汚染されたミルクを飲んだという状況をずっと集めたわけです。ですからそういう意味では調査の目的を明確にする、あるいはそういう取り組みが必要になってくるかなというふうに考えております。 それから、リスクコミュニケーションの成功例というご質問ですよね。どなたかこういうパニック、ディザスターが起こった後、成功例あるいは参考例を海外の専門家はお持ちでしょうか。 ○トーマス(イギリス:ロンドンインペリアルカレッジ分子病理学教授、チェルノブイリ甲状腺組織バンク所長) 乳がんのケースで言いますと、1つの質問のモデルをつくっておきまして、化学療法をやるかどうかということを決めてもらうときに使いました。その患者さんと臨床医が向き合って、「お幾つですか」という年齢調査から、それから、どのような性質のがんなのかとか、どういう治療をご希望ですかと、放射線治療でいきますか、化学療法でいきますかというようなことを聞くわけです。それから、健康に関する情報を収集するとともに年齢だとか治療というものを聞いていくわけです。 それから、棒グラフみたいなのがあって、患者さんにこの治療法をやったらこういうコースが期待できますと、その治療法をやらなければ死亡の可能性というのはこれぐらいですというようなことを説明するわけです、いろいろな治療法に関して客観的なデータを提供しています。 これは乳がんの患者さんに対して、どのような治療法がいいのかということを自分で決めていくときに使う一つのモデルとしてかなり有用でしたので、このモデルを土台に何かつくられたらいかがかと思うわけです。どのような放射線の線量に関しても理解を深めてもらうために、この比較できるようなモデルを基本に使われてもいいんじゃないかと思います。個人の線量というものを理解するために、乳がんのモデルを使っていただけると思います。 リスクを理解するという意味で例えば車を運転するたびに、これは事故というリスクがあるかもしれないということは直感的にわかりますし、喫煙をする人ならたばこのリスクというのはわかる。自分でやるかやらないかということを決めるリスクに関してはわかるけれども、自分がコントロールできないものということに関してはなかなかわかりにくい。それでリスク評価のモデルなどをお使いいただいたらと思います。 ですからそれぞれの人がどういうリスクに遭遇しているのか、何をやったらリスクがどれぐらいになるかということを理解してもらうために、いろいろな工夫が必要になっていくのではないかと思います。 ○メトラー マスコミの皆さんはすごいパワーをお持ちだというふうに思うわけです。こちら側に座っている私たちは科学者だったり医師だったりするわけですけれども、皆さん方の住民のためになる情報を一緒に考えるというのは、皆さんのパワーに期待するところが大であるということを言いたいと思います。ご自分のパワーの大きさに気がついていらっしゃらないのかもしれない。 ○司会 それでは、先ほどの会議の成果の提言がまとまりましたので、これから担当の者がお配りさせていただきます。なお、この提言ですが、第1次案ということで変更があり得るということをご了承いただきたいと思います。また、和文につきましては、一両日中に日本財団のウエブのほうで公開させていただきたいと思っております。 では引き続き、質問のほうを受けたいと思いますので、挙手のほうをお願いいたします。 では、紺色の方、お願いいたします。 ○共同通信のツダと申します。 県民健康管理調査との絡みでお伺いしたいんですけれども、先ほど提言の中に、健康のケアだけでなく社会的・心理的ケアも含まれていくべきというような内容がありましたけれども、今のところ健康管理調査、心の健康度調査では避難区域の方が対象になっている。これを先ほど言われていた被災者以外にも拡大していく必要があるという観点で、どうこれを拡大する見通しなどはあるのか、そういうことをお伺いします。 ○山下 これはまだ検討段階で実施案を具体的にお答えができませんが、基本調査の回収率や線量推計の結果などの経過を追いながら検討されると思いますが、今はその考えはありません。今は国の指示に従い避難した方々だけを対象としています。 ○司会 次の質問に移りたいと思います。では、前の女性の方、お願いいたします。 ○??(in English)−− 今のご質問ですけれども、福島でのがんの発症リスクというのは、個人の線量を分析しなければならないということでしたけれども、一般論としてそういうのは得られるのかと、がんの発症の予測はできるのかということです。 ○ボイス(アメリカ:国際疫学研究所、国際放射線防護委員会委員) 私は放射線疫学者です。40年にわたって電離放射線に被曝した人々の研究をしてきました。この2日間いろいろやりとりをしてまいりましたけれども、そして、チェルノブイリの事故と比較をいたしまして、福島の住民の被曝した線量というのは極めて低いと言えます。 16世紀のスイスの医師パラケルスス(Paracelsus)は病気の原因を推測した中で、量が問題であると言っています。あらゆる病気はその暴露された量に依存するということを述べています。すなわち環境要因で病気になる場合も量が問題であるように、被ばくの場合も線量が低いほどリスクが低くなると言えます。 測定された福島での子供さんたちの甲状腺での線量というものは極めて低く、世界中どこを見ても、その低さで何かが発症したリスクがあったという例はこれまでありません。だからといって完全に全くリスクがないということは言い切れませんけれども、そのリスクは極めて極めて小さいということになります。 それに比較いたしましてチェルノブイリでは、汚染が極めて重篤なものでありました。そして子供たちが飲む牛乳は、極めて高度に汚染されたということで甲状腺がんの異常発生につながったわけです。今のチェルノブイリの状況と比較いたしまして福島はチェルノブイリではないと、ですから今得られている状況、そして、それぞれ子供たちの、そして一般住民の健康の状態からして、極めてチェルノブイリのようなことはないということです。 ○質問(in English) 東京に住んでいる人たちは、福島の事故で自分たちが発がんするんではないかというような危惧を持っているわけですけれども。 ○ボイス とにかく放射能に触れる、または放射線を浴びるということでみんな不安になるわけです。不適切に不安に陥るという言い方ができるかもしれません。私たちの住んでいる世界というのは放射能でいっぱいなわけです。今ここでもあなたと私はラドンというのを吸っているわけですし、私たちの食品の中にも低線量ではありますがあるわけですから、東京に住んでいる住民がそういう危惧を持つというのはおかしなものなのです。 ですからお答えですけれども、東京に住んでおられる方が放射能に被曝するのではないかなんていうことは、怖がる必要は全くないし、福島の住民にも恐れることはないと言いたいと思います。非常にレベルが低いのです。
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