南京大学でのショート・スピーチ [2005年11月09日(Wed)]
11月5日、中国・南京大学で教授・学生約400人にスピーチした内容。
「南京大学でのショート・スピーチ」 (教授、学生 約400人) 2005年11月5日 笹川 陽平 私は皆さんの嫌いな日本人です(大笑い)。せっかくの機会でございますので、率直なお話をしたいと思います。 日中国交回復して三十三年間になります。日中関係はどうあるべきか、どうしなければいけないかについて、皆さんに考えていただきたいと思います。何故ならば、日本と中国は「一衣帯水」の関係にあります。地政学的には隣国であり、日本と中国の距離を離すことは出来ません。これはいわば夫婦のような関係です。今、とてもじゃないが日本人と夫婦なんて絶対嫌だと笑った人が沢山いらっしゃいました。その通りだと思いますよ。しかし、お互いが嫌いだと言ったって、距離を離す方法はないのですから、如何にうまく付き合うかを考えていかなければなりません。 よく中国の指導者は「歴史を鑑みとして」とおっしゃいますが、この言葉は日本人にとってあまり良い印象を与える言葉ではありません。日本人は中国で悪い事をした。あやまり方が足りないと、いつもしかられているような気持ちになります。そこで私は、「2000年の歴史を鑑み」とするよう、貴国の要人に話しております。近現代史の一部を見るのではなく、2000年の歴史で考えれば、日中間は友好の歴史であったといえます。世界中どこでも、隣国関係は仲の良いものではありません。その中にあって、2000年もの間、ほぼ友好関係にあった隣国関係は、世界史を見ても例がありません。 ところで、日本人には大変美しい心がございまして、あんまり自分達がした良いことを人に伝えないんです。こんなに良いことをしましたよ、こんなこともしましたよ、あなた方を助けたでしょ。そのようなことは言わないことが最も日本人らしい心と言われています。 従いましてね、この日本人が持っている美しい心というものが、今や国際社会では日本人の欠点になってしまいました。やっぱり行った良いことは言わないとだめなんですね。だから今日、私は言います。 皆さん方が考えている今の中国の改革開放経済の発展ぶりというのは、将来、世界の歴史に書かれるくらい素晴らしい出来事だと、私も高く評価しています。しかし皆様方の発展の見えないところで日本人が大きな協力をしたんですよ。皆さん知らないでしょ。 天安門事件の後、西側の諸国は、当時はG7といいまして、一斉に中国に対する経済制裁をしたんですよ。それで中国が本当に困難な状況に陥りかけたときに、人民大会堂で当時の国家主席・楊尚昆さんという方が、「とにかくこのままでは中国の経済はやっていけないから、中国に対する経済制裁をG7で外すよう協力してください」と私達に頼まれました。 当時日本の首相は海部さんという人でございましたが、アメリカのヒューストンで行われたG7で、「アメリカと中国の関係、フランスと中国の関係、イギリスと中国の関係とは違います。日本と中国の関係というのは、皆様方が想像する以上に関係の深い間柄です。日本は経済制裁を解除したい」と申し「これからの21世紀を展望したときに、中国がやはり立派な国に発展していくことが世界の平和に役立つんです」という説得をして経済制裁が解除されたんです。 そして日本は真っ先に第三次円借款 7,600億円を出したのが、これがお国の改革開放経済の発展の基礎になります。それ以来日本は、お国に1兆元、日本のお金で約13兆円、お国につぎ込んでいるんですよ。 皆様方はアメリカが大好き(笑い)ですが、アメリカから1セントでもお金を貸してもらえましたか、中国は? アメリカはお金儲けには投資にきますよ。しかし、お金儲け以外でアメリカは1セントも中国にはお金を出しませんよ。今後も出しませんよ。 皆さん良く知っているように経済というのは、成長すれば必ず落ち込むときがあるんです。いくら中国の経済が今発展していると言っても、いつかは落ちるんですよ。それが、2,000万か、3,000万の失業率で終わるか、5,000万人の失業率になるかは、そりゃ私にはわかりませんが、必ずそういう時期がくるんです。 皆さん方、どこに協力を要請しますか? アメリカにするんですが、イギリスですか、フランスですか? 皆さんの嫌だなと思う日本しかないんです。 私達日本人は、ここ十年ほど死ぬような苦しみをしてきました、経済が悪くて。しかし私達は、とにかく一番儲かる商売があるんだけど、絶対やっちゃいけない。私達はなんとしても我慢してこの経済不況を乗り切ろう。儲かる商売があるんですがやらなかったんです。何だと思います? 答えられる人、手を上げてください。(誰もなし) これはね、日本は本当に戦後60年、国民の一人一人が平和を願って身をもってやってきたんです。兵器、武器を作って外国に輸出することを一切していない。今もしていない。これやったら儲かるんですよ。日本はもっと早く良くなる。それでも私達日本人は平和の重要さということを知っているので、先進国で日本だけです。武器や弾のひとつも売ったことがありません。 皆さん方は、日本の首相が靖国神社に参拝したのはけしからんとか、軍国主義が復活してるんだとか思われるかもしれませんが、実績として、戦後60年間、日本の自衛隊はカンボジアにも行きました。今、イラクにも行っておりますが、これは平和を構築するために行っているんです。カンボジアでもイラクでも一発の弾も撃っておりません。戦後、日本の自衛隊は、海外に向かっても国内に向かっても一発の銃弾も発射したことがない、歴史的な出来事ですね。 そういういくつかの証拠をもって皆さん方に、日本人が本当に平和を希求していると同時に、日本と中国が協力することによって、アジアの安定と平和を獲得し、また世界の平和のために中国と日本が協力していくという道筋を私達は探していかなければなりませんし、特にここに集まっている皆さん方は、そういう責任を背負った若い世代です。 日本の私達の国民の生活では、今や中国の製品、食料品もそうですが、なくして生活ができないくらいに浸透してきておりますし、またお国にも日本の会社は3,000社が入っていますね。そして雇用人口は、少なく見積もっても1,000万人と言われています。 これは政治家がいう「一衣帯水」という言葉が、国民と人民レベルですでに出来上がっているんです。経済的にはもう離れられない関係に今なっています。 どうぞ皆様方、小さな小さなナショナリズムというのが恐ろしいんですよ。世界のどこでも小さなナショナリズムが悪い結果を生む。私の話を聞いて、2,000年の夫婦関係だから、多少、今こういうことがあってもしょうがないな、というふうに、何か起こったときに冷静に判断してくださいよ。 政治家や指導者は、時間がたったらみんな退場するんですから。それが3年か、5年か、10年かわかりませんが、しかし30年も50年もないでしょう。しかし、国民と人民との間っていうのは、未来永劫続くと思うんです。 今年、来年の日中友好ではありません。これからの未来永劫にわたってどのように日中間を築いていくのかというのは、お集まりの皆さん方の責任。僕達はもうすぐあの世にいきますからね。 中国はWTOにも加盟しました。従いまして、グローバリゼーションの影響というものはどうしても受けざるを得ないから、中国一国だけで物事が解決できる時代はすでに終わったと私は思います。 そういう中で、消去法で中国に協力する可能性がある国はどこかなということを頭の中に入れていただきたいと思いますし、日中間には2,000年の友好の歴史があり、いわば夫婦みたいなものだ。時々喧嘩もするけれど2,000年というふうに見れば、たいしたことはない、というふうにおおらかな気持ちで冷静に日中間を見ていただきたいと思いますし、また、皆様方に日中関係をより良い関係にしていく責任もあるということもご理解いただきたいと思います。 *即興の演説で、時間の制限もあり雑駁なものとなりましたが、胡一平女史(NHK通訳)のご協力で、率直な話として、わりと好意的にいけ取られたようでした。 |