日本の航空防疫は無防備である [2008年03月19日(Wed)]
「日本の航空防疫は無防備である」 世界的に大流行が懸念される鳥インフルエンザ「H5NT」は、これまでは人には感染しないと考えられていた。しかし、現在では人間に感染した例が数多く報告されており、南東アジアを中心に14カ国で227人の死者が出ている。昨年末には中国からも人から人への感染が報告されている。 厚生労働省のまとめによると、新型インフルエンザが発生した場合、日本での感染者は最大3200万人、死者は64万人が予想されるという。 WHO(世界保健機関)では、新型インフルエンザは「起こるかも知れない」ではなく「いつ起こるか」が問題の段階で、もはや時間の問題であるという専門家もいる。 新型インフルエンザが海外で発生すれば、短期間に簡単に国内に侵入することは間違いない。 日本では新型インフルエンザ発生後、薬の供給に半年から1年もかかり、当局はその人数分も明らかにしていない。 ![]() 「日本の人口密度は高く、人の移動も激しい国なので、ウイルスの拡大、伝播の連鎖を止めることは不可能。新型ウイスル発生の場合、その大流行を回避するのは非常に難しい」と『SAPIO』3月号(小学館)は報じている。 発展途上国を中心に日常的に多くの伝染病や熱帯性の病気(マラリヤ、デング熱、コレラ、チフス等)が発生しており、日本に到着する病人の保護や防疫体制が如何に重要であるかはいうまでもない。 さて、ここからが本題。 日本の防疫体制が如何に不備であるか、実例を紹介する。 今年の2月22日より、私をはじめ、一行8名でカンボジアを訪問した。一行の中の日本財団の女性職員の一人が、帰国の飛行機(2月25日21時20分 バンコク発 NH916便)の機内で気分が悪くなり、嘔吐を繰り返した。 脱水症状の心配から同僚が飲み物を勧めたが、ほとんど喉を通らない。アテンダントからは「これだけの症状なので、黄色い紙(問診表)を記入の上、成田で診断を受けてください」との指示を受けた。 本人の希望で車椅子を頼む。 2月26日(火)AM7:30 成田着。 歩行は困難な状態で乗客の最後に降りて車椅子に乗る。 押し手の係は女性で、当方の同行職員の協力なくして段差は上れなかった。 車椅子に乗っても衰弱が激しく、前かがみのまま検診所に到着。50〜55歳位の年齢の医師の問診を受けるも、本人に応答の気力なく、同行の富永夏子が代わりに答える。 「私」とは富永夏子のことである。 医師:どこに行っていましたか? 私:カンボジアです。 医師:何日ですか? 私:3日です。 医師:いつからこの状態ですか? 私:プノンペンの空港からです。バンコクまでの間、機内で寝ていました。バンコクから更に気持ち悪くなったようです。日本に着くまでの間、最初の3時間はずっと吐いていました。後半は吐き気は止まったのですが、気持ち悪いのは治らず、今に至ります。 医師:何人のグループですか? 私:8人です。 医師:他に症状の出ている人は? 私:いません。 医師:旅行ですか? 私:仕事です。 医師:どんな? 私:障害者支援をしています。あと、ハンセン病の施設に行きました。 医師:病院視察は行ったのですか? 私:行っていません。 医師:どんなもの食べましたか? 私:生野菜も食べています。カンボジア料理です。 医師:魚も? 私:はい。 医師:生で? 私:生では食べていません。 医師:2、3日様子を見て、治らなかったら近くの病院に行ってください。 その頃には車椅子からずるずるとすべり落ち、そばにあったソファーに倒れ込む。そこでまた嘔吐。 私:こんな状態なので歩けません。そちらのベッド(恐らく点滴用)で休めませんか? 医師:だめだめ、他の人がたくさん来るから。 私:でも歩けませんから。 医師:このタ−ミナルの下にクリニックあるから、そこへ・・・。開くのは9時半からだ。今が8時だから1時間半か。第2ターミナルは9時からだから少しはましかな。 私は本人に「今動ける?」 本人:首を振る。 私:救急車呼んでもらう? 本人:うなずく。 私は医師とそばにいた全日空のスタッフに「救急車お願いします」 スタッフは電話で連絡をとる。 医師はそこでどこかに行ってしまった。 ![]() どのみちイミグレーションを通らないとだめであることがわかり、 本人に「動ける?とりあえず移動しないと。吐いたら少し楽になった?」 本人:うなずく。 車椅子になんとか戻り、イミグレーションを通過。 荷物受け取り場で他の同行者と合流。 「救急車を頼んだ」との富永さんの説明をもとに、同行者の一人・宮崎さんが、税関職員に救急車がどこに何時ごろ到着するか訪ねると、通常のゲートを指した上、「あとは運行会社(ANA)の責任」「ここにいてもしょうがないので早く動いて欲しい」との冷たい対応。 そこにANAの職員2人が来たため「救急車は何時ごろ到着するか」確認すると、あいまいな答えで、救急車の出動を要請していない様子。 税関職員に「しばらく安静に待機する場所がないか」と質問すると、ここでも「それは運行会社がやる」と相変わらずの返事。思わず「目の前に患者がいる事実をどう考えているのか」と税関職員に抗議。 そんなやり取りをしているうち、ANA職員が「第2ターミナルの診療所が“診てくれる”と言っています」と告げ、それならばと第1ターミナルのタクシー乗り場に移動。タクシーの運転手に事情を告げると、「もちろんOK。だが、こういうことは航空会社がやるんじゃないですか?」と逆に質問してきた。 第2ターミナルに到着すると、どういうわけか、先ほど対応にあたったANA職員2人が既に着いており「何もお役に立てず申し訳ありません」と頭を下げた。目の前にあった車椅子で地下1階の日本医科大クリニックに。この間、病人に肩を貸す形でタクシーや車椅子に乗ってもらったが相当苦しい様子。 クリニックでは「脱水症状がひどいようなので、とりあえず安静にして点滴を行います」との看護師さんの説明。併せて医療事務の担当者から健康保険証、海外旅行保険契約書があれば提示して欲しい、などの要請。 約1時間半後、1回目の点滴は終了したが、動ける状態ではない。もう1本、点滴をするとの説明(看護師)。どのような原因が考えられるか聞くと「下痢症状などがなく直ちに原因調査をするより症状を回復させるのが先決と判断している」と答えた。 さらに1時間半後、2度目の点滴が終わり、本人と話せると言うので相談した結果「まだ動くのは苦しい」とのこと。クリニックに頼むと「ベッドは夕方までOK」とのことで再度安静に。 その2時間後、日本財団の総務から菅さんが到着。病人の自宅に同行。 以上が日本の空の防疫体制の最前線でおこった事柄である。 医師の「2、3日様子を見て、治らなかったら自宅近くの病院に行ってください」と、血圧、脈、聴診器も使用せず、歩行困難な状態の患者を追い出した。医者の暴言とその対応に驚くだけでなく、毎日、数千、数万人の入国者のいる成田に患者用のベッドが1台しかないとは、如何なることであろうか。 礼礼しく黄色紙の問診表に記入させるのは、あくまで形式に過ぎないことが判明した。 迫まりくる「鳥インフルエンザ」の恐怖はNHKでも連続で放映されているが、 日本の空の防疫は無防備である。 |