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―国の「生命線」海運の安定強化を― [2026年05月13日(Wed)]

―国の「生命線」海運の安定強化を―


産経新聞【正論】
2026年5月7日


わが国は貿易(輸出入)のほぼ100%(重量ベース)、500kmを超す国内の長距離輸送の50%以上を海運に頼り、国内貨物も約40%を内航海運が担う。

海運は四方を海に囲まれた海洋国家・日本にとって文字通り生命線。どう健全に維持・発展させていくか、国の将来を左右する命題でもある。

≪船員不足と「ネットゼロ」≫
しかし近年、深刻な船員不足と2050(令和32)年に温室効果ガスの排出量を実質的にゼロにする「ネットゼロ」の実現という2つの難題に直面している。

まず船員不足。現在、日本の海運会社が運航する外航船は3500隻前後、約95%はパナマやリベリアなどに船籍を置く便宜置籍船だ。1970年代前半に5万人を超えた日本人船員は現在約2千人。全体の約3・5%に減り、フィリピンなど外国人船員に頼る混乗船が大半で、有事の際、どこまでこの形が維持できるか、安全保障上の課題が残る。

一方、内航船舶は約5200隻、船員数は約2万2千人。日本人船員による運航を前提とした昭和41年の閣議了解もあって外国人船員の雇用は原則として認められていない。

令和5年現在、内航船船員の26%が60代以上。見張り不十分や不適切な操船などヒューマンエラーが海難事故の80%を占めるという。急速に進む少子化・人口減少を前にすると人手不足の解消は難しい。

船舶の自動化・無人化が現実的な解決策と考えられ、日本財団は2020年、造船や海運、通信など幅広い企業と協力して40年に内航船の50%無人運航化を目指すプロジェクトを立ち上げた。

今年3月には、プロジェクトで新造された内航コンテナ船など4隻に、地上2カ所の支援センターから衛星通信経由で指示を送り、複数の船が同時に自動運航する世界初の試みも公開された。

4隻は人の介入が不要な「レベル4」の自動運航技術を使って神戸港〜東京港間などを運航し、桟橋への離着桟も行われた。4隻とも自動運航船として国土交通省の船舶検査に合格しており、既に商用運航を開始している。

わが国には1万4千を超す離島がある。うち人が住む有人離島は417(令和2年現在)。昭和30年ごろから始まった人口流出で本土を結ぶ航路の縮小・廃止が続いてきた。利用者の減少と船員不足で、この流れがさらに加速する恐れがある。

政府は日本の領海や排他的経済水域(EEZ)の根拠となる15地域71島を「特定有人国境離島地域」に定め、財政支援に乗り出している。近く東京都の新島、式根島など4地域6島を追加指定する方針と聞くが、自動運航船こそ離島の人口流出の歯止めになり得ると期待する。

≪整ったオールジャパン態勢≫
一方、脱炭素化。温暖化に伴う豪雨災害や山火事が世界各地で多発する中、2015年に採択されたパリ協定は、「産業革命以降の気温上昇を1・5度に抑える」との目標を設けた。

これを受け、国際海事機関(IMO)も50年頃までに温室効果ガスをゼロにする方針を打ち出し、日本政府も同時期までに温室効果ガスの排出をゼロにするカーボンニュートラル宣言を発表した。

海運から排出される二酸化炭素(CO2)は全体の約2・5%に当たる年間約9・2億トン。いくつかの国で次世代の燃料にアンモニアやメタノールなどを使う船の開発が進められているが、中心は大型の外航船。こうした現状を受け22年に「内航船水素利用コンソーシアム」を立ち上げた。

運航事業者や造船所、メーカーなどと協力して、究極のクリーンエネルギーである水素を燃料とするゼロエミッション船の開発を目指すのが狙い。研究拠点となる「水素エンジンR&D(研究開発)センター」も2年前、広島県福山市に完成しており、30年までの実用化を目指している。

温暖化防止の観点からも、ゼロエミッション船の開発は必須であり、急を要する。

開発が進めば、中東情勢の深刻化でホルムズ海峡が封鎖され、原油価格が高騰する今回のような事態を避ける道も見えてくる。両プロジェクトとも造船、海運、舶用機器など舶用メーカーのほかに商社やAI、通信、自動車など幅広い企業が参画し、オールジャパン態勢ができている。国との連携も進み、今後、幅広い官民協力で事業が軌道に乗ると期待する。

≪海洋国家としての責任≫
近年、各種調査で国の将来を不安視する声が、次代を担う若者を中心に増えている。背景には、世界が激しく揺れ動く中、社会の基幹システムやインフラを今後も安定した形で維持できるのか、といった不安がある。

海運は基幹インフラであり、船員不足も新たな燃料の開発も国際社会が共通して直面するテーマである。海洋国家・日本がその対策の先頭に立つべきは言うまでもない。
(ささかわ ようへい)
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