「伝統工芸文化の日中交流」
―異色の交流事業に期待―
日中の民間交流で伝統工芸や無形文化財の保護や後継者の育成をー。
笹川平和財団・日中友好基金と中国の上海世久無形文化遺産(非物質遺産)保護基金会が協力することで11月8日、覚書が調印された。事業名は「日中伝統工芸文化関係者交流」。19年度から3年間交流を重ね、事業伝承者のネットワーク構築など、双方の伝統工芸産業の振興を目指す。
近年、拡大する日中両国の民間交流でも異色の事業で、背景には二つの側面がある。一つは文字通り無形文化財や伝統工芸をどう継承していくか。日本では多くの伝統工芸が残されているものの後継者不足が深刻化している。これに対し中国では、1966年から10年間続いた文化大革命で多数の伝統工芸や技術が失われ、2011年6月、無形文化遺産法を施行、民族文化や伝統工芸の保護・継承に乗り出しており、1950年に文化財保護法を制定した日本に学ぶ点がある。
もう一つは、経済発展著しい中国で近年、非営利活動をサポートする動きが強まっており、この活力を民間交流に取り込む形で今回の事業が行われる点だ。日本の伝統工芸には中国に起源を持つ技術も多いが、長い歴史の中でそれぞれに独自に発展しており、交流を深めることで新たな発展も見込める。
筆者は「日中両国は互いに刺激し合って文化のレベルを上げてきた。今回の事業は、両国関係が一層成熟した証拠」と挨拶。陳理事長も「一衣帯水の日中両国は、ともに行動を起こすことを求められている」と意欲を語った。
交流会には元文化庁長官の林田英樹・日本工芸会理事長、髹漆(きゅうしつ)、蒔絵の重要無形文化財保持者(人間国宝)である増村紀一郎・日本文化財漆協会理事長、室瀬和美・日本工芸会副理事長も出席。陳理事長ら中国側代表団8人は8日間の滞在中、東京都墨田区で創業100年を誇る江戸切子や滋賀県甲賀市の信楽焼きの工房、京都では京友禅の老舗などを見学、意見交換も行った。

覚書調印式