「災害ボランティアセンター開所」
―小型重機の使用教えます―
3月7日、つくば市にて日本財団ボランティアトレーニングセンターの開所式が行われた。本センターは、災害時に即応できる技術系ボランティアを養成することを目的として設立され、小型重機の操作をはじめとする実践的な訓練を提供します。開所式には、関係者をはじめ、災害支援に携わる多くの方々が参加し、重機を使ったデモンストレーションも行われました。
以下、開所式での私の挨拶です。
*******************
日本財団災害ボランティアトレーニングセンター開所式典
2025年3月7日(金)
日本財団会長 笹川陽平
おはようございます。足場の悪いところまでお越しいただき恐縮です。日本財団は1997年の日本海で発生したナホトカ号重油流出事故以来、災害には必ず出動しております。日本財団ボランティアセンターは、近いうちに災害が来ることを想定し、専門家のみならずボランティアを集めて教育しようということで、3.11の直前に立ち上げられました。当時は日本財団学生ボランティアセンターという名前で活動しておりましたが、学生の皆さんには東日本大震災発災直後から大いに活躍頂きました。日本のみならず、各国の学生にも協力いただきましたが、その先頭に立ったのが今司会をしている沢渡一登・日本財団ボランティアセンター常務理事です。彼は、まだ東京から東北への交通網が十分整備されていない中最初に現地に入り、事務所を開設しました。その後、日本財団が現地で何をさせていただいたかについては既に皆さんご存じと思いますが、大規模な支援活動を現地でさせていただきました。
東京大学教授で作家でもあった寺田寅彦氏は「災害は忘れた頃にやってくる」という名言を残しました。しかし、今は忘れた頃ではなく日常的に災害が起こる時代になりました。そうした中で若い人の間でボランティア活動に参加したいという人が沢山いらっしゃいます。現在ボランティアセンターには約4万2千人が登録されております。阪神淡路大震災の時からこの傾向は始まりましたが、発災後すぐに現地においでいただいても、ボランティア専門の人がいないと烏合の衆となってしまう課題もあります。発災直後に、どこで働くのか、食事はどこでとるのか、ということを誰かが指導しなければ、手ぶらで現場にいらしても残念ながら扱いにくいことになってします。ようやく組織的に日本財団ボランティアセンターとしてこうした指導をはじめ、沢山の志の高い方が集まっています。
先般の能登半島地震では知事から「ボランティアは来ないでほしい」という発言があり、これが影響し、我々も努力しておりますが、ボランティアの集まりが悪いという状況が続いています。本来であれば「ボランティアの力を頂きたいが、もう少しお待ちいただきたい」と伝えたかったものと思いますが、「お断り」という表現となってしまいました。少し説明したしますと、発災から72時間が生存の分かれ目でして、この期間は自衛隊などプロで、人命救助を行うほか、避難場所の設置なども行います。従いまして、技能を持っていない一般のボランティアの方にお手伝いを頂くのは、現場が落ち着いて、食料の配布などが出来るようになってきた時となります。例えば、足湯といってバケツにお湯を入れて学生が足をマッサージする、炊き出しをする、といったお手伝いをいただきます。特に一番大切であり難しいのは、家屋の中に入った床下の泥かきでして、これは行政はやりません。日本財団ボランティアセンターは、一軒一軒まわり、時間が経って固まってしまった泥を、床下という活動が難しい場所で泥かきを致します。こうした活動は発災以来ある程度時間が経ってからの活動となります。
本日の趣旨はプロフェッショナル・ボランティア、プロボノの活動でして、日本財団では約30の団体に常に300万円ずつ資金をお渡ししております。発災するとこの団体がこの資金を活用して我先に全国から現場に入ってくださいます。彼らはプロボノであり、重機その他の扱いに慣れています。重機を扱うにしても、例えば家屋の中に重機を入れるとなると、取り壊す柱を間違えれば屋根が落ちてしまい人災となりえるので、重機のライセンスがあれば仕事が出来るわけではなく、こうした経験・知識も必要となります。我々のネットワークでは、こうした専門のボランティアが全国から駆け付けてくれるようになっています。熊本地震の時は、消防士、警察官の方が「休みに手伝いをしたい」と多くの方がおいで下さいました。そのときに「重機のライセンスを取ってもらえば、一層素晴らしい活動をしてもらえることになる」と考えました。72時間の人命救助を含め自衛隊らと一緒に活動できるプロボノを拡充したいという考えで、この度重機を扱える人を養成していこうとしております。
また、日本財団が実施しているHEROsという事業があります。著名なアスリートが参加下さっており、例えばラグビーの五郎丸歩選手やサッカーの中田英寿選手らが長野県で講習をうけ、能登で活躍下さいました。アスリートもこの日本財団ボランティアセンターで訓練を受けており、これからは警察官、消防士、アスリートその他多くの方々に小型重機の使い方を学んでいただき、行政だけではどうにもならないことが多々あるので、大いにご協力を賜りたいということであります。やはり、発災時は自衛隊や現地の消防署だけでは対応できないところで活動をして参りたいと思います。
今は毎日のように災害が起きております。一人でも多くの国民の参加により助け合うということが重要でありますが、日本人には昔から「利他の心」をもっています。「利他の心」とは、世の中は自分だけで生きていくことはできず、他者との交わり、社会があるから生活できるのだからこそ、社会のために何かお手伝いしたいという気持ちのことであります。技術を身につけ、高度な救援活動に参加してほしいという趣旨でこうしたセンターを作り、一人でも多くの人にライセンスを取得頂き、それぞれの地域で活動いただきたいと願っています。歴史的なこともお話しした方が分かり易かろうと話が長くなりました。ありがとうございました。(了)
以下、3月7日付NEWSつくば・鈴木宏子氏の記事を掲載します。
*******************

開所式で重機を操縦し、土砂を撤去するデモンストレーションをする災害ボランティアで東京学芸大学3年の白鳥里桜さん
つくば市南原、日本財団つくば研究所跡地に、日本財団ボランティアセンター(東京都港区、山脇康会長)の災害ボランティアトレーニングセンターが7日、開所した。災害時に重機を操縦してがれきや土砂の撤去などを行う技術系ボランティアを養成する施設で、ショベルカーやダンプカーなど重機16台と資機材を配備する。災害発生時は重機や資機材を災害現場に貸し出す。民間の災害支援拠点としては国内最大規模という。
研究所跡地約5.7ヘクタールのうち、約1.2ヘクタールに開所した。施設は、座学の研修などを行う2階建ての「研修棟」、重機などを駐車する「重機ステーション」のほか、盛り土やU字溝などが設けられ、がれきや土砂の撤去、U字溝の泥かきなど災害現場を想定した重機の操縦方法を学ぶ「訓練フィールド」がある。車両は、小型から大型までショベルカー9台とダンプカー4台など車両16台と、投光器などの資機材を配備する。訓練フィールドには今後さらに家屋の模型を設置し、重機で床板をはがし、泥をかき出す訓練などもできるようにするという。

ショベルカーやダンプカーなどが駐車してある「重機ステーション」前でテープカットする関係者ら
同センターのスタッフのほか、技術系災害ボランティアとして全国各地の災害現場で活動する団体のスタッフなどが操縦方法を指導する。日本財団ボランティアセンターに登録している災害ボランティアのうち希望者を対象に、技術レベルに応じた幅広い研修を実施する。1日30人程度の研修を月3回程度、年間1000人程度の研修受け入れを予定している。受講料は重機の燃料代等、実費(2000円程度)で実施する。
同研究所跡地では開所に向けて2年前から準備が行われてきた。仮開所の期間中も訓練フィールでは重機の操縦方法などを学ぶ講習が実施されており、仕事とは別に災害ボランティア活動をしている消防士らが重機の操縦方法などを研修などが開催されてきた(23年5月23日付)。今回、研修棟、重機ステーションが完成し正式開所となった。

研修棟
開所式では日本財団の笹川陽平会長が「災害が起きると行政だけではどうにもならないことがある。一人 でも多くの国民の参加によって助け合っていかなくてはならない。重機の使い方を学んでいただいて、具体的な技術を身に付け、高度な救援活動に参加いただきたい」などとあいさつした。
日本財団ボランティアセンターの山脇会長は「被災地に寄り添った活動を行うためには(重機や資機材を扱うことが出来る)技術系のボランティアと(炊き出しや傾聴などを行う)学生のボランティア両方が復旧復興に欠かせない。災害ボランティアトレーニングセンターは重機を配備し災害現場でいち早く活動できる人材を育成し、重機の貸し出しを行う。有事の際、迅速に活躍できる施設になる」などと話した。

開所式であいさつする(左から)日本財団ボランティアセンターの山脇康会長、日本財団の笹川陽平会長、災害エキスパートファームの鈴木暢さん
同センターに配備する重機の選定に関わった都内の技術系災害ボランティア団体「災害エキスパートファーム」の鈴木暢さんは「(災害ボランティアの)経験の中からフットワークがいい小型重機を選定した。(被災した)住宅などは狭い場所があったり、裏山が崩れていたり、土砂が道路の側溝を埋めるなどの状況がある。人の手で1日50人から100人かかる動きを重機1台でできるし、女性でも重機を扱える。訓練では、現場で事故を起こさない、自分たちもけがをしないことが大事になる。大きな災害に立ち向かえる免疫を養っていけたら」と話す。
テープカットの後は、災害ボランティア活動で実際に重機を動かした経験のある岩手県花巻市消防本部消防士の藤岡茜さん(28)のほか、東洋大学4年の横尾幹さん、東京学芸大学3年の白鳥里桜さんらが重機を操縦して、盛り土の土砂を掘ったり、U字溝の泥をかき出すなどした。藤岡さんは昨年3月、能登半島で災害ボランティア活動をし、重機を操縦して倒壊した民家のがれきを撤去するなどしたという。藤岡さんは「(つくばのセンターで)これからもっとトレーニングを積んで、よりスムーズに災害現場で活動できるようにしたい」と話していた。(鈴木宏子)

小型重機を操縦しU字溝から泥をかき出すデモンストレーションをする岩手県花巻市の消防士、藤原茜さん