• もっと見る
«大腸内視鏡検査 | Main | 装着型ロボットスーツのリハビリが保険適応に»
鎮痛剤の怖さを知って使いましょう [2015年11月08日(Sun)]
いわゆる痛みどめには、消炎解熱鎮痛剤と、解熱鎮痛剤とがあります。前者が、「NSAIDs」と呼ばれるもので、商品名ではロキソニンとかボルタレンとかがこの仲間です。関節が腫れたり水がたまったりしている状態の時にはこちらでないと効きません。後者は商品名ではカロナールが有名です。ご存じのように乳幼児の解熱にも使われる、比較的安全性の高い薬で、成人が鎮痛剤として使う時の容量が改正されて十分な量が使えるようになったため、慢性の痛みの治療にも最近使われることが多くなっています。(言い換えると、昔通りの使い方、一回400r一日3回では、人によっては量が少なすぎて効き目が出ないこともあります)
 消炎解熱鎮痛剤の副作用で一番多いのは、胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍などの上部消化管粘膜障害です。(つまり、胃が悪くなるということです)。消化器の専門の先生の講義から、以下に要旨を書きます。
 健康な人にボランティアで飲んでもらったところ、4割の人にこの副作用が出たという報告があります。予防のために、@胃粘膜を保護する薬、A胃酸を抑える薬、B胃粘膜の血流を良くする薬などが併用されます。@は、あまり効果がなく、Aは上部消化管は守れたけれども、小腸や大腸の粘膜に病変や出血を認めたそうです。Bは、有効だったとのことです。(商品名サイトテック)
 副作用で次に多いのは、腎障害。鎮痛剤を飲んでむくみが出たら要注意、腎臓に負担がかかっている可能性があります。そして、心血管障害の危険性が上がる(心筋梗塞を起こしやすくなる)ということです。慢性の痛みでずっと飲み続けると、1.4倍から1.6倍程度にリスクが上がるといわれます。

 このように消炎鎮痛剤は効果があるものほど副作用も強いという困ったことがありました。実は、人体の中で炎症や痛みにかかわる様々な仕組みの中でcox-1とcox-2の二つの酵素を両方とも抑えてしまうのが従来型の消炎鎮痛剤で、cox-1は体を守る働きをする大事なもので、これを抑えてしまうと先ほどの胃潰瘍や腎障害、血管障害などが起きやすくなってしまいます。cox-2が、炎症にかかわるものなので、この部分だけを抑える薬なら、安全で痛みどめ本来の目的が達せられるはずです。
 cox-2選択的阻害薬、というのが実はあります。商品名はセレコックスです。この薬を飲んだけどあまり効果がないようだったという経験をお持ちの方もいらっしゃることでしょう。慢性の変形性関節症や腰痛症などに対しては一回100r一日2回までで、関節リウマチならその倍の量が使えます。効果がないという場合は、痛みの性質が「侵害受容性疼痛」=どこか故障があるための炎症に伴う痛み、ではない成分が多いということになります。

疼痛の分類と主な疾患.jpg ここからは、講義とは別の話になります。整形外科専門医として痛みを持つ様々な疾患の患者さんを診療してきた実体験から、私見を書かせていただきます。
 消炎鎮痛剤の効果がない、あるいは不十分な痛みは、神経障害性疼痛や筋緊張・姿勢異常からくる痛み、血流不全による痛み、中枢性の痛み(パーキンソン病などによる)など、いろいろな要素が関与している可能性があります。ペインクリニックの専門医に相談することをお勧めします。
 ペインクリニックというと神経ブロックのような痛い治療を連想してしまいがちですが、必ずしもブロックばかりをしているわけではありません。大半は飲み薬や貼付剤での治療だそうです。
 神経障害性疼痛は、しびれや、感覚異常を伴う「ピリピリ、電気が走る、ジンジン」などで、代表的な物は椎間板ヘルニアや肋間神経痛、糖尿病性末しょう神経障害、脊柱管狭窄症など、ほかには薬の副作用による末梢神経障害でも起こります。武田鉄矢がCMに出ていた、例の薬、リリカが最近よく処方されています。比較的ポピュラーな痛みですが、リリカの副作用に強烈な眠気があり、このために飲むと仕事ができなくなってしまう、一日中寝てしまう、といったことで十分な量が飲めない方は多いです。
 慢性に痛みが続くのを、神経伝達物質の異常が関与しているという面から治療しようというのが抗うつ剤です。セロトニンという脳内物質が痛みの抑制に関与しているのを調節して痛みを抑える本来の脳機能を取り戻そうという目的で使います。抗うつ剤の副作用は眠気とふらつき、吐き気です。吐き気は自然に出なくなりますが、量が増えたり、中止していたのを再開するときはまた出ることがあります。個人差が多いので、まったく副作用のない人から抗うつ剤が使えない、ギブアップという方までいろいろです。
 どんな種類の痛みにも効果があるのは、オピオイド(麻薬性鎮痛剤)です。適正に使えば消炎鎮痛剤よりも安全性はむしろ高く、副作用もあるとはいえ対策を講じれば大丈夫なのでそんなに忌み嫌うことはありません。副作用は便秘・吐き気・眠気です。便秘には緩下剤、吐き気には制吐剤を使います。吐き気は最初の1から2週間で慣れてしまえばまったくなくなることが多いものです。便秘はなれることがありませんので、緩下剤はずっと必要になります。
 飲み薬では、トラムセットというのが最近は整形外科からも処方されることが増えています。この薬はトラマールというオピオイドと、解熱鎮痛剤のカロナールの配合剤です。
 最近は血中濃度が安定して、一日何回も飲まなくてもよい=薬が切れる心配の少ない、貼付薬もあります。1日タイプ、3日タイプなど、生活スタイルや皮膚のかぶれやすさを考えて選ぶことができます。オピオイドの貼付薬は、処方資格のある医師しか処方できません。
 海外旅行に行くときは「麻薬」はたいていの国で、医師の証明書がないと持ち込み禁止になっていますので、注意が必要です。
タグ:鎮痛剤
トラックバック
※トラックバックの受付は終了しました

コメントする
コメント