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ドラッカーさんが教えてくれた経営のウソとホント [2010年11月08日(Mon)]

昨日、佐倉市の社会福祉法人愛光の研修会に行ってきました。
私と、日本経済新聞執行役員の酒井綱一郎さんが講師でした。
今日は、酒井さんの著書を紹介します。
ドラッカーさんが教えてくれた経営のウソとホント (日経ビジネス人文庫)

ドラッカーさんに3回もロングインタビューし、日本企業(非営利法人も)が取り組むべき経営革新のヒントが書かれています。

ご一読をお勧めします。
月刊「WAM」(6) [2010年08月09日(Mon)]
月刊WAM(福祉医療機構)の連載が終了です。
最後は、福祉の原点を大切にした経営を訴えました。
なお、紙数の関係もあり「月刊WAM」誌上とブログの文章は若干異なります。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

社会福祉法人をめぐる課題(6)
 公益性・非営利性を高く掲げる〜福祉の原点を大切にした経営を〜
 1.社会福祉理念や対象者の変化
社会福祉法人制度は、1951年制定の社会福祉事業法(現社会福祉法)により創設されました。制定時の法律は、社会福祉の対象を「援護、育成又は更生の措置を要する者等」と規定し、このような人々を生活困窮度により選別し公的な(救貧的)福祉の対象とする考えに立っていました。その後、福祉の考え方は、国民の基本的権利として誰でもが福祉サービスを利用できるものへ変わってきました。
 1990年の社会福祉事業法(当時)改正では、福祉の対象者は「福祉サービスを必要とする者」と改められました。福祉の理念が選別から普遍へと変化したのでした。同時に、それまで「独立心をそこなうことなく、正常な社会人として生活することができるよう援助すること」となっていた社会福祉の目的が、以下のような福祉理念として改められ、ノーマライゼーション理念の実現、地域福祉の重視、広範な生活課題への対応へと変化したのでした。
   @心身ともに健やかに育成され、又は社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に
     参加する機会を与えられる
   A環境、年齢、及び心身の状況に応じ、地域において必要なサービスを総合的に
     提供されるよう援助する
 半世紀以上前の法制定時に比べ今日の社会は一見「豊か」に変貌したとはいえ、長寿・少子化や格差社会の進行の中で、認知症高齢者やホームレス、ネット難民、乳幼児への虐待などといった新たな福祉課題が生まれています。また、経済的課題も引き続き存在しています。このような対象や理念の変化への対応が社会福祉法人に望まれていると言えます。

2.公益・非営利とは何か
 社会福祉法人は、公益法人(財団・社団)から発展して誕生しました。法制定以前、民間福祉事業を担っていた「社団法人、財団法人には・・・社会的信用や事業の健全性を維持する上において遺憾な点があり・・・純粋性を確立するために、特別法人としての社会福祉法人の制度を設けることとした」(法制定時の厚生省社会局長木村忠二郎氏の著書「社会福祉事業法の解説」時事通信社、1951年)状況があったことから、従来の社団・財団に比べより公益性の高い法人として社会福祉法人制度が創設されたのでした。
 また、法制定の前年、社会保障制度審議会は、社会福祉事業を行う特別な法人制度について、「(民間社会事業の)自主性を重んじ、特性を活かすとともに、特別法人制度の確立等によりその組織的発展を図り、公共性を高めることによって国及び地方公共団体が行う事業と一体となって活動しうるよう適当な措置をとる必要」を勧告していました。(社会保障制度審議会「社会保障制度に関する勧告」第4編、昭和25年10月16日)
 このように社会福祉法人は、当時の社会的要請のもと、公益法人以上に「公益性」、「非営利性」を求められる存在として誕生したのでした。この原則は、今日でも全く変わっていません。
 公益とは、不特定多数の人々の幸福(利益)を目指す働きのことであり、非営利とは事業の利益を私(配当)しないことです。非営利を「利益をあげてはいけない」「利益を上げることを目的としない」と解すのは間違いです。「利益を、法人の構成員(社員=出資者)に分配しない」のが非営利の意味です。社会福祉法人の使命は、利益の極大化ではなく、法人の使命(社会的に意味ある目的)の達成になるのです。

3.新たな課題に積極的に取り組もう
 憲法第25条も措置費制度も存在しなかった時代、社会福祉の先覚者達はニーズに依拠し、開拓的・先駆的な事業を展開していました。
 岡山孤児院の石井十次や家庭学校の留岡幸助は有名ですが、ここでは綱脇龍妙を紹介しておきます。
 綱脇は明治39年に身延山に民間ハンセン病療養施設を開設した日蓮宗の僧侶です。この年、身延山に参拝した綱脇はハンセン病の少年患者に出会いその場を立ち去ることができない経験をし、数ヵ月後には富士川の河原に小屋を建て患者の収容を開始しました。この施設(身延深敬院)は、以後86年間民間の寄附金を集めながら運営を続け1993年に国立施設に引き継がれるまで続いたのです(現在は社会福祉法人深敬院身体障害者療護施設「かじか寮」)。
全国各地にこのような例を見ることができます。
 そもそも、制度が先にあって福祉ニーズが生まれ、サービスが提供されるのではありません。ニーズがあって、ニーズに対応してサービスが提供され、制度はあとから整備されることが多いのです。また、法律や制度が整備されても、制度の谷間にあって苦しむ人々が存在することもしばしばあります。
 経済・社会の変化によって福祉サービスのあり方も新たに変わらなければならないでしょう。社会福祉法人には、新たに生じる福祉課題に対し果敢に立ち向かうことが求められています。例えば、子育て支援やホームレス問題は、行政による対策が始まる以前から社会的課題であり、支援を必要とする人々が存在していました。社会福祉法人はこうした課題にどのように関わってきたのでしょうか。先進的に取り組んだ法人・施設も存在しますが、多くは制度が出来てから取り組みを始めたのではないでしょうか。社会福祉法人は民間らしく、もっと機敏な対応を行い、社会的課題に積極果敢に対応する必要があることを強調しておきたいと思います。
 新しい課題に挑戦するために注目すべき考え方があります。「貧困と障害」というこれまでの枠組みではなく「社会的な排除や孤立」の視点で捉え、社会的に弱い立場にある人々を社会の一員として包み支えあっていこうという考え方=「ソーシャル・インクルージョン」です。児童虐待や中国残留孤児などの新しい課題は福祉ニーズを「貧困と障害」で捉えてきたこれまでの福祉の枠組みではとらえきれない課題です。このような課題に応えていくためには、問題を「社会的な排除や孤立」という視点からとらえ、福祉の基本をソーシャル・インクルージョンにおこうというもので、今後の取り組むべき方向を考えるうえで示唆に富む考え方です。
 2000年12月に発表された、厚生省(当時)の「社会的な援護を要する人々に対する社会福祉のあり方に関する検討会報告書」は、上記の観点からの鋭い指摘がされています。

4.公益性・非営利性を自ら捨てないようにしよう
 社会福祉法人は、その公益性・非営利性のゆえに、公的な助成を得ています。社会福祉法人が、公益性を発揮することなく優遇だけを受け続けていたのでは、社会に受け入れられなくなってしまいます。
 社会福祉法人の多くは、設立時の財産を特定の個人や法人からの寄附によっています。法人を設立する場合、施設用地が新設法人に寄附され建築整備費用の自己資金も寄附されることが一般的です。自明のことですが、この寄附は営利法人における出資とは全く性格が異なります。営利法人では、出資割合に応じて「持分」が生じ、法人が解散した場合には持分に応じて残余財産が配分されますが、社会福祉法人には配当はありませんし、そもそも「持分」という概念がありません。
  @ 寄附された財産は法人の所有となり、持分が認められない
  A 社会福祉事業から生じた剰余金の分配・配当は認められない
  B 解散時の残余財産は、他の社会福祉法人又は国庫に帰属する
これが社会福祉法人の原則です。
 ところが、社会福祉法人の側から自ら公益性を捨てるような動きが過去にありました。
     「社会福祉法人の設立者は、(施設)開設に際し多額の出資(寄附等)をしており…
     創業者(設立者・寄附者)の権限を位置づけるべきである。収支者の議決権、持分等
     の定めを明確にする(必要があり)…社会福祉法人制度の中で、法制度化できるかど
     うかという問題はあるが、1つの議論としてぜひしていただきたい。」

という主張が福祉関係者から表明されたことがあったのです。(2004年2月17日「第8回社会保障審議会福祉部会」) 
 寄附を出資と言い換え、持分を要求する主張は、社会福祉法人自らが非営利性を棄て去ることになります。社会福祉法人には公益目的を積極的に達成することと同時に、財産や利益を「私しない」(非営利性を貫徹すること)が求められていることを忘れてはなりません。
 最後に、社会福祉法人をめぐる課題はこの連載で述べた以外にも多々ありますが、課題解決の根底には、公益性と非営利性を高く掲げなければならないことを強調しておきます。
月刊「WAM」(5) [2010年07月28日(Wed)]
社会福祉法人をめぐる課題(5)
 社会福法人経営上の課題B
人「財」の確保と育成〜職員を大切にする組織に〜

1.人「財」の確保・育成はマネジメントの中心課題
 P.ドラッカーは、マネジメントの目的を次のように述べています。@自らの組織に特有の使命を果たす、A仕事を通じて働く人たちを生かす、B自らが社会に与える影響を処理すると共に、社会の問題について貢献する(「マネジメント〜エッセンシャル版〜」)。また、マネジメントとは、「社会に対して意味ある活動を行う組織について、そこに属する人たちを動かし、成果を挙げること」です。
 これらから、人材の確保と育成は、それ自体がマネジメントの重要な目的であることであり、成果を上げるための手段ではないことが分かります。このように考えると、人材の確保や育成の課題に取り組む基本的な視点は、
  @法人の使命、目的の一部であることを理解し、
  A人事に関する施策を、成果を上げるための手段としてみるのではなく、
  B人が定着し成長していくこと自体が法人にとっての価値であり、
  Cそのことが、さらなる成果(価値)を生み出すものであり、
マネジメントの中心に据えて取り組まなければならないことが明らかになってきます。

2.人材確保難とその原因
 厳しい経済状況の下、高い失業率や就活難民などが話題に上りますが、福祉・介護の現場では、好況時から引き続く人材確保難が続いています。その原因は以下の点にあると考えられます。
 第1は、福祉・介護職員の高い離職率です。介護労働安定センターの調査によると、介護職20年度の離職率は18.7%で、全労働者の8.2%を大きく上回っています。
 第2は、給与水準の低下です。介護職員(常用労働者)の平均年収は2001年以後下がり続けています。この間、非正規職員や派遣労働者の増加が全産業に広がり、全産業労働者の平均年収も下がっていますが、福祉関係職の平均年収は全産業を超えて下がり続けています(図参照)。2001年福祉職の年収は全産業労働者(常用)平均の約9割であったものが、2008年に約7割になっています。非正規職員の増加や、正規職員の賞与の減額などが平均値を下落させた原因と思われます。

 第3の原因は、企業文化(職場風土)です。介護労働安定センター調査によると、介護職の退職理由の第1位は「法人や施設・事業所の理念や運営のあり方に不満」、第2位「職場の人間関係に不満」であり、「収入が少ない」(第3位)を上回っています。

3.どうすればよいのか 
 第1に、本当の意味の「リストラ」を実行しなければなりません。経済社会の変化に合わせて事業の再構築を行うことがリストラクチャリング(Restructuring)です。しかし、わが国では「リストラ=首切り、賃下げ」と理解されてきました。介護保険創設前後から、競争時代に備えると称して賃下げ、職員のパート化、人員削減など総人件費を減らす動きが広まりました。研究者やコンサルタントの中に、「特別養護老人ホームなどでは、人件費が事業収益の55%以上になると経営が困難になる」と主張した人がいたこともこうした傾向に拍車をかけました。この結果、2002年、2005年に行われた厚生労働省の介護経営事業実態調査で介護施設は平均10%を超える利益率となり、それを受け報酬が二度にわたって大幅に切り下げられたのでした。人材確保難の原因の一つに、人件費抑制一辺倒の「経営」があったことを指摘せざるを得ません。その結果、人件費倒産を恐れるあまり人材不足倒産に近づいてしまっている施設まで現れています。
 一律な年功序列賃金を改める、考課に基づく処遇を行うなど、職員処遇のあり方をサービスの質の向上につながる方向に改革しなければならないことは実行しなければならない課題です。しかし、安易な人件費削減に走るのは間違いです。職員の生活を守り、モラール(士気)が高まる改革でなければなりません。
 第2は、仕事の標準化、効率化をすすめ、無理・無駄をなくすための努力をすることです。福祉サービスは個別性が強く標準化や効率化はなじまないと言う人もいますが、標準化とは利用者を画一的にケアすることではありません。サービス提供者側の仕事のやり方の「バラツキ」を低減させるために必要なことです。個別ケアと標準化は対立するものではなく、利用者の個別性に配慮したサービス提供を行うために正しい仕事の手順=標準が組織内に定着していかなければなりません。直接的なサービス提供場面に限らず、材料の購入や種々の契約などを見直し、サービス水準を維持向上させながら経費を削減する試みがすべての場面で展開されなければなりません。
 そのうえで、人「財」の確保・定着のための長期的視野に立ったさまざまな具体策を展開すること。これが第3の点です。ここまで述べてきたように、採用し、定着・育成する働きは法人の理念や施設の目的の一部であり、「人を集め、辞めさせない」ための手練手管では断じて無いからです。理念や目的という基礎に立ち、マネジメントの基本に立ち返った具体策を考え実行しましょう。
 例えば、「広告を出しても誰も応募して来ない!」と嘆くだけでなく、広告が法人・施設の「強み」を訴えるものになっているのか?、現に継続して働いている職員は、施設の何を魅力と感じているのか?、などの事実を把握し「強み」を訴えるのもマネジメントの基本です。
また、OJTは難しいと聞くことが多いのですが、この主な原因は、法人の理念を基礎に利用者一人一人のケア目標が示されていないことにあると思われます。例えば、チューターやエルダーと呼ばれる新人指導担当者を定め、任せてしまうことがしばしば起きます。法人・施設の目的と仕事との関連、個別目標と提供するケアの意味…、「何のために働いているのか」が伝わっていなければ、OJTは組織の取り組みとして成功しません。 
 マネジメントは「組織の所有や階層そのものを意味するものではない」(ドラッカー)からです。

4.人財の確保と養成が報酬にも反映
 2009年の介護報酬改定で、専門職の雇用比率による加算が始まりました。その後、介護給付の評価のための検討会が発足しました。議論の方向から今後は、@サービス提供の構造、Aサービス提供のプロセス、Bサービスの結果、について評価を行い、介護報酬に反映し、その他の福祉サービスにも波及してくるものと思われます。
 これからの社会福祉法人には、@職員を教育し質の高いサービスを提供しようとするのか A質を抑え楽な仕事でほどほどの給与で経営していくのかの2つの道があると言えます。介護職員処遇改善給付金を申請している事業所には9月末までにキャリアパスの届出が義務付けられていますが、職員の意欲を高め、サービスの質を向上させる取り組みを強化して第1の道を歩まなければならないでしょう。
月刊「WAM」(4) [2010年07月05日(Mon)]
福祉医療機構の発行する「月刊WAM」
「社会福祉法人をめぐる課題」シリーズ連載第3回です。
紙数の関係で「月刊WAM」誌上とは若干異なります
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
社会福祉法人をめぐる課題(4)
> 社会福法人経営上の課題A
  ガバナンスを強化する〜理事会の機能を中心に〜


1.社会福祉法人のガバナンス
 「ガバナンス」とはCorporate Governance(企業統治)のこと。一般的には企業の価値創造にとって有効な判断となるように、意思決定を管理・統制すること。経営者の暴走を許さず、ステークホルダー(利害関係者=事業活動を行う上で関わるすべての人のこと)相互の利害関係を円滑に調整しながら経営を方向付けていくために必要とされる考え方です。社会福祉法人の場合、法人の使命を果たしていくために、理事会、理事長や常勤理事、評議員会、経営執行体制等、法人の機関が機能を発揮し、利用者や地域住民等の関係者と連携して、事業の継続・発展を実現させていく働きと言ってよいでしょう。この中でも、理事会の果たすべき役割は非常に重要で、法人のガバナンスの基礎であるのですが、これまでの理事会の構造には大まかに言って次のように特徴があり、ガバナンスに問題ないし停滞があるろ指摘されてきました。
   @強力な影響を持つ設立時の寄付者を中心とした役員を中心とした構成
   A開催回数が非常に少ない
   B常勤理事が少ない
   C法人外理事には責任感も義務感も希薄なことが多い
   C法人職員から昇進した理事は非常に少数
   D理事報酬は支給されていないか、支給されていても生計維持レベルではない
   E職員や地域に向けた情報公開などが消極的

2.ガバナンス停滞による問題点
 東京都社会福祉法人経営適正化検討会中間報告(22年3月)は、社会福祉法人経営の特色として、理事会や法人本部において、法人全体をマネジメントする機能(=ガバナンス)が停滞していことを指摘し、解決すべき課題を抱える法人の特徴を以下のようにまとめています
  @本部機能を務める人材の確保が難しい。
  A各施設に運営を任せきりにし、施設運営上の課題や施設間のバランスを把握した上で適切な
   対応を早期に講じることができない。
  B問題解決を図ろうとしても、重要案件について理事会が責任ある判断・意思決定ができずない。
  C職務内容が不明な常務理事など、肩書きと役割の関連が疑われる役員・役職者が存在する。
  D本部として、法人全体の運営状況や資金繰りを掌握し、理事会と連携した適切な管理ができない。
 このような問題を抱えたままでは、サービスの質を向上させ法人の価値を創造していく意思決定を行うことはできません。管理・統制を行い。経済、社会の大きな変動に機敏かつ的確に対応することも難しくなります。前述の東京都報告書によれば、理事会開催回数は年間5回程度と、目まぐるしく変化する状況に対応して地域社会に貢献する施策を展開することは困難だと思われます。
 社会福祉法人経営研究会報告書は、効率的で健全な法人経営を可能とするためにはガバナンスの強化が重要な課題であることを強調しました。具体的には、理事会を名目的な存在から法人の執行機関としての経営能力を向上させることを第一の課題とし、このためには実質経営に参画できる理事を選任し、理事会に必要な情報を提供できる法人本部機能の強化が必要であることや、理事の貢献に見合う報酬も支払われるべきであること。これに加え、中間管理職の育成・確保、監事監査の強化、外部監査の活用、評議員会のあり方、情報開示・提供の推進などをあげていました。

3.ガバナンスを確立するために
 クオリティ・マネジメントという考え方があります。一般には、企業が提供する製品やサービスの品質を保つため、品質の目標を設定し、それを実現するための計画を立てて実行し、検証・改善をしていく一連の流れを言います。福祉・介護分野では利用者や家族の要望・意見に配慮し、安全で充実した生活を支援する幅広いケアを提供し、サービス品質の維持・向上を図る体制や仕組みを、法人内に構築し実践することです。マネジメントのプロセスに沿って、高い志を基礎にサービスの質を不断に向上させ成果を上げることと理解して良いでしょう。このプロセスは、施設長や現場に任せていたのでは実行できません。理事長を先頭に法人としての機能が動いているかどうかが重要なポイントになるのです。
マネジメントのプロセスは、のように、理念の明確化から始まり、実行して評価する(PDCAサイクルを回す)行為の繰り返しになります。

     マネジメントのプロセス
         @使命(ミッション)の明確化
                ↓
       A組織を取り巻く環境の分析と把握
                ↓ 
          B戦略の立案・意思決定
                ↓
          C行動計画(戦術)の策定
                ↓
             D実行と評価

 法人のガバナンスを確立するための方策を、PDCAに沿って考えてみましょう。意思決定(P)は理事会、業務の執行(D)は常勤役員・法人本部(施設長)、検証(C)は監事・理事会と、それぞれが果たすべき機能をきちんと遂行し、その成果に立って改善(A)計画を理事会で審議決定することが重要です。この中で、ガバナンス強化のために最も基本となる機関は理事会です。その機能がどこまで果たされているのか、次のような視点で現状を検証してみることをお勧めします。

  @社会的ルールの遵守が徹底され公正かつ適正な経営を可能にする組織体制
    ・公益性公共性に則って、理事会の権能が理解されているか
  A経営者のリーダーシップと経営責任の明確化
    ・理事会は、理念に基づき法人の将来方向を指し示しているか
    ・自らが問題解決にあたる姿勢を明確にし、問題が生じた場合はその原因を究明するとともに
     説明責任を果たし、再発防止に努めているか 
  B情報の共有と方針の決定、成果の評価
    ・現場からの情報を吸い上げるなど、客観的な情報が一元的に集約できる体制が整えられて
     いるか
    ・その情報に基づいて、実質的な審議が行われているか
    ・制度改正や地域・利用者の動向や法人経営に関わるリスク等を踏まえた議論がされて
     いるか
    ・例えば、法令通知で定められた決算書だけでなく、事業計画や予算と対比した経営指標等を
     使用して目標達成度や成果を検証し、職員に伝える努力がされているか
  C公平で公正な法人運営
    ・設立財産を寄附した理事が独断的・専決的な権限を持つような「権限の偏在」はないだろうか
    ・「どんな人間かでなく、どのような成果を上げたか」(ドラッカー)で職員を評価し、施設長等
     幹部職員へ登用するなどしているか

 以上は、理事会機能の検証の一例です。同様の視点で監事、評議員会、法人の執行体制、施設運営など、すべての部門すべての場面を検証することが求められますが、ガバナンスの強化は、トップリーダー自身の改革から始まることを強調しておきたいと思います。
月刊「WAM」(3) [2010年05月29日(Sat)]
福祉医療機構の発行する「月刊WAM」
「社会福祉法人をめぐる課題」シリーズ連載第3回です。
紙数の関係で「月刊WAM」誌上都は若干異なります
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社会福祉法人をめぐる課題(2)
>社会福法人経営上の課題@
規模拡大による経営基盤強化
 

1.増加し続けてきた社会福祉法人
 社会福祉法人は昭和26年に制定された社会福祉事業法(現「社会福祉法」)により、「社会福祉事業を行うことを目的として、この法律の定めるところにより設立された法人」(法第22条)です。法制定以前は、民間福祉事業は主として公益法人により提供されていましたが、当時「従来の社団法人、財団法人には・・・社会的信用や事業の健全性を維持する上において遺憾な点があり・・・純粋性を確立するために、特別法人としての社会福祉法人の制度を設け」(木村忠二郎著「社会福祉事業法の解説」時事通信社、1951年)たのでした。
また、法制定1年前に社会保障制度審議会も、社会福祉の目的を達成するために必要な施設の整備拡充を図る必要があり、そのためには民間社会事業の自主性や特性を重んじながら、特別な法人制度を確立し、その公共性を高める措置が必要である旨の勧告をしていました。
 福祉ニーズの増加に伴い法人は増加の一途をたどりました。昭和40年台後半に始まった「社会福祉施設緊急整備5ヵ年計画」以降、福祉施設の設置数は大幅に増加し、「1法人1施設」という行政指導もあって、施設の増加とともに法人数も増加の一途をたどりました。


2.規模の小さい社会福祉法人経営
 社会福祉法人は、零細な規模の法人が多数を占めています。全国社会福祉施設経営者協議会(経営協)の調査では、1施設のみ経営の法人は60%に達します。
1施設あたりの平均年間収入額は、特別養護老人ホームや身体障害者療護施設で2億から3億円、保育所や児童養護施設では1億円前後と、法人の経営規模は小さく脆弱な基盤に立っています。
 実は、福祉経営の脆弱性については、社会福祉法人制度創設時から問題視されていたことでした。法制定時の厚生省社会局長であった木村忠二郎氏は、前掲の著書の中で、「社会福祉法人の基礎を強固なものとするためには、弱小の法人は合併を促進する必要があることにかんがみ、その合併を容易なさしむるため」に合併手続きの条文を入れたのだと述べていたのです。
 しかし実際には、合併を促すどころか行政から「1法人1施設」を指導されてきたことによって法人の合併はほとんど見られず、かえって小規模の社会福祉法人が増加してしまったといえるのです。
年間収入額が数億円の規模では、仮に3%の経常利益を上げてもその額は数百万円にしかなりません。これでは、常勤の法人役員や本部職員の人件費などの費用を賄うことはできません。今日では、福祉ニーズが多様化し新たな課題が次々と現れてきていますが、制度や法律が地域ニーズのすべてに細やかに対応できるとは思えません。社会福祉法人には、人と地域に根ざし、問題ごとに分解するのではなく全人的にとらえたサービスを提供することが求められています。制度の目を通じて人間や地域を見るのではなく、個人の尊重・人格の尊厳を基礎に質の高い総合的な福祉サービスを提供することによってこそ、法人が地域において「なくてはならない」存在になり存在価値が高まっていきます。そのためには、法人には一定の規模が必要であると思うのです。

3.問題点と規模拡大のメリット
 社会福祉法人経営研究会報告書(1996)は、法人の規模が小さいことによって、次のような構造的な問題が生じていると指摘しました。
  @法人の経営効率化や生産性向上に向けたインセンティブが働きにくい
  A同族経営の弊害が生じやすい
 具体的には、見込み採用が困難であったり役職登用の機会が少なかったりなどの人事面でのデメリット、長期的視点に立った法人の舵取りができにくく法人マネジメント不在になりがち、などがあげられます。このため、社会福祉法人経営研究会報告書は「法人が、新たな時代の環境変化に対応して、経営を効率化し、安定化させるためには、法人全体で採算をとることが不可欠であり、複数の施設・事業を運営し、多角的な経営を行える規模の拡大を目指すことが有効な方策である・・・。」ことを提言したのでした。そのうえで報告書は、合併や事業譲渡で経営規模を拡大することによって、他の法人から即戦力の経営資源を譲り受け規模の拡大を図れ、規模のメリットを生かした効率的な事業運営や迅速な事業展開が可能となる。法人間の連携やネットワーク化によって、相互にノウハウを共有し協同して事業を実施することが可能となり、コストの抑制やサービスの質の向上も望める。このように、規模のメリットを生かした効率的・効果的な取り組みについて期待を表明したのでした。

4.規模拡大の方法
 規模のメリットを追求する方法は以下のように考えられます。
  @合併・・・2つ以上の法人が、契約によって1つの法人に統合すること。
  A事業譲渡・・・特定の事業に関する財産を他の法人に譲渡すること。土地・建物など単なる
   物質的な財産(ハード)だけではなく、事業に必要な有形的・無形的な財産のすべての譲渡を指す。
  B法人間連携・・・人材交流や技術開発、資材購入など、複数の法人間で協力をすること。
 規模の拡大の必要性は理解しても、合併や事業譲渡によって規模を拡大し経営基盤を強化していくことは、現実にはなかなか難しいことです。法人にはそれぞれの歴史があり、創設の心があります。社会福祉法人の合併について調査した大川新人氏(明治学院大学講師)によると、1953年度から2009年度に合併した法人は、市町村合併による社会福祉協議会を除き134法人(新設合併48、吸収合併86)あるとのことです。年代別に見ると、90年代から急増し90年代に23法人、200年代には94法人とこの20年の合併数が90%近くになります。 この中には、もともと同一経営者によって設立された法人が、合併した事例が多くあり、異なった動機によって設立された法人同士が合併する事例は、まだまだ少ないと思われます。
 後継者がいない、経営破綻に瀕したなどの場合を除き、別々の道を歩んできた法人が突然合併することは現実的ではないでしょう。合併も視野に入れつつ、連携・共同事業を進めていくことが現実的な道と考えます。
 連携・共同事業の例については、社会福祉法人経営研究会がまとめた「社会福祉法人における合併・事業譲渡・法人間連携の手引き」に詳しく紹介されていますが、職員の人事交換や派遣、出向などによってキャリアアップを図る、物品の共同購入や設備メンテナンスの共同発注など、さまざまな取り組みが考えられます。「手引き」には、デイサービス送迎車の共同運行など興味深い事例も紹介されています。
ますます厳しくなる経営環境の下で、サービスの質を維持向上し、従業員の雇用を守り処遇を改善していくために、あらゆる選択肢を排除しないことも経営者の果たすべき役割といえるのではないでしょうか。
 最後に、小規模のままでは生きていけないと主張しているのではないことを申し沿えておきます。小規模法人の強みを生かし、小地域のニーズに機敏に対応できることができれば、規模は小さくても専門店のように氏名を果たすことは可能だと思われます。ただし、この場合、法人は同志的結合による運動体的な性格になっていくのではないかと考えています。
月刊「WAM」(2) [2010年05月08日(Sat)]
福祉医療機構の発行する「月刊WAM」
「社会福祉法人をめぐる課題」シリーズ連載第2回です。
紙数の関係で「月刊WAM」誌上ではこれよりも短くなっています。
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社会福祉法人をめぐる課題(2)
福祉・介護サービスについて考える
  〜サービスの特徴を知り質の向上に生かす〜


1.サービスの一般的特徴
 社会福祉法人の提供するメインの「商品」は言うまでもなく、介護や保育などのサービスです。サービスは手にとって見ることができない商品ですが、サービス提供者としては、提供するサービス(商品)を良く知っていなければなりません。商品を良く知らなければ、品質の向上は困難ですし、「何を売っているのか分からない状態」では、自らの「強み」を知って伸ばしていくこともできません。
 福祉・介護はサービス業に含まれます。飲食、宿泊や医療、理美容、法律事務所などサービス業には、次にあげる共通した特徴があります。
  @個人の技量に依存
  Aサービスの提供場面で生産と消費が同時進行
  B利用者によるサービス評価が主観的
  C在庫が持てない
 A製造業に比べれば、サービス業では生産する商品の質が、「個人の技量に依存」することは、良く理解できるでしょう。A「サービスの提供場面で生産と消費が同時進行」とは、製造業であれば工場で生産した製品は、別の場所・時間で消費(利用)することができますが、サービスは生産される現場が消費の場になっていることを意味しています。B「サービス評価が主観的」であることは、身近なところで飲食店や理美容などのサービスを思い浮かべれば、納得できる特徴ではないでしょうか。C「在庫が持てない」のは、生産と消費が同時進行であるがゆえです。散髪屋に行ったら整髪済みの自分の頭がありましたということは決してあり得ません。

2.福祉・介護サービスの特徴
 福祉・介護サービスには、上記の一般的な特徴に加え次の特別な点が加わります。
  @欲しくて求めた商品ではない
  A情報の非対称性が存在
  B直接的ニーズの背景に重要性
  C共同指向性
  D公共性・継続性・倫理性
 @例外はあるもののほとんどの場合、福祉・介護サービスは利用者が以前から待ち望んでいたものではありません。必要に迫られて求めるのです。利用者は自ら求めて孤独になったり、障碍をもったりしたわけではないのです。
 A「情報の非対称性が存在」とは、提供者と利用者との間にサービスについての情報量や、どのようなサービスが提供されるのかについての理解に大きな隔たりがあり、利用者(消費者)にとって購入する商品の中身が分かりにくいことを指しています。「業界」内部でも無意識的に非対称性を増大させています。例えば、体を拭いて綺麗にすることを「清拭」と呼び習わしていますが、聞いて言葉が思い浮かぶ利用者は少ないのではないでしょう。「正式」と間違えられそうです。また、家族との関係を調整することなどを「介入」と言います。一般的に介入とは「事件や争いなどに割り込むこと」(大辞林)です。介入するのではなく共感的態度に基づいて利用者との関係性を構築することが重要であり、言葉の使い方が利用者との関わりあいに影響を与えることを考えると適当な言葉とは思えません。また、初めて「ザイカイシ」と聞いたとき、「在宅支援センター」とは分からず、聞き返した経験が私にはあります。このようにサービス内容そのものや業界内部の言葉によって情報の非対称性が生み出されていることも多いのです。
 B「直接的ニーズの背景に重要性」は、福祉・介護サービスの特徴を理解しサービスに生かしていくうえでとりわけ重要な点と考えています。クリーニング店に山のような洗濯物を出しても、店員は「奥さんに逃げられて洗濯ができないのね」とは思いませんし、思っても何もしてくれないでしょう。これに対して、福祉・介護・保育など私達が提供するサービスにおいては、直接のニーズ(注文)の後ろに隠れているかも知れない問題まで捉えないと真の問題解決にならない場合が多いのです。訪問介護の回数が急に増えた利用者には、何か変化があったのかもしれません。保育園であれば日中こどもを預かるだけではなく、子育て支援の視点で家族の様子にも眼を配らなければなりません。直接的なケアの提供のほかに、その後ろにある社会的、家庭的、経済的、心理的な問題について眼を配っていく必要があります。
 C「共同指向性」については、リハビリテーションがいちばん解かりやすい例でしょう。リハビリを受けている利用者が、自身の中から湧き出てくる(内発的)意欲がないと良い効果は現れてこないことは良く知られています。提供者の思いだけでは良い効果が得にくいことは、現場で毎日遭遇していることです。
 最後の特徴である、D「公共性・継続性・倫理性」は、福祉・介護サービスの提供に際して厳しく追及されなければならないことです。福祉・介護の仕事は、憲法に規定された生存権や幸福追求権に基づき、主に税金や保険料を財源に営まれています。私利私欲で行うものではなく、高い公共性が求められていることは言うまでもないことです。公共性を捨て利益第一主義に走った訪問介護などを行う大手営利事業者が廃業に追い込まれた事例を忘れてはなりません。
 どのような事業にも継続性は要求されていますが、福祉・介護の仕事は利用者・家族の生活や人生に深くかかわるゆえにより継続性が求められています。前述の大手営利事業者が廃業した際、その事業者以外のサービス提供が無い地域で混乱が起きたことを思い出してください。また、訪問介護を利用する場合、他人である提供者が利用者宅へ入り、財布の中、タンスの中、冷蔵庫の中など生活のあらゆる部分を見ることになります。利用者はプライベートな部分も見られるうことを覚悟してサービス利用を決意するのです。人生に深く関わる関係が簡単に中止されて良いはずがありません。サービスを継続していくことが、とても大切なことであることが理解いただけると思います。。この点を大切にしないと、毎日の生活に困難を抱えている方々に辛い思いをさせてしまいます。
 倫理性については次の言葉を紹介しておきましょう。「福祉に関する専門職になるためには、まず尊敬に値する生き方をしなければなりません。福祉職につく人には、人間の弱さを『利用しない、手段としない、つけこまない』という厳しい職業倫理があります。」(阿部志郎、「月刊福祉」2003.12.P60)

おわりに
 サービスの特徴を知ることで、提供するサービスの質を高める道筋が見えてきます。社会福祉法人としての「強み」を自覚すれば、何をすべきなのか、その課題が見えてくると考えます。漫然とサービスを提供するのではなく、私達が提供している商品(サービス)の特徴を知り、現場で応用していくことができます。また、制度に縛られているだけではなく、地域のニーズに依拠して(頼って)毎日の仕事を考え直していくことも重要です。。
 社会福祉法人は、福祉・介護サービスを提供することを目的に特別に設立された非営利公益性の強い法人です。このため、営利法人とは異なり法人の性格そのものに公益性・公共性が含まれています。継続性においても、居宅サービス事業を例に挙げれば、施設を母体に事業展開しているところが多いことが、継続性の担保になっている面があります。簡単に事業閉鎖してしまうと「あの特養はしょっちゅう店を作っては、しょっちゅうつぶしているね」と本体の施設の評判も悪くなってしまうからです。
 利益を目的としない公益性の高い法人だからこそ、直接的なサービス提供の背後にある様々な生活課題への積極的な関わり合いができることが社会福祉法人の強みとも言えるのです。法人への規制など経営における負の側面ばかりに眼を奪われるのではなく、サービスの特徴から事業を考えることは、自法人の強みを意識した経営に通ずることになるでしょう。
「月刊WAM」に連載を始めました [2010年04月04日(Sun)]
福祉医療機構の発行する「月刊WAM」に連載を始めました。
「社会福祉法人をめぐる課題」シリーズとして4月号から8月号まで5回予定しています。
いかに第1回の内容を紹介します。紙数の関係で「月刊WAM」誌上ではこれよりも短くなっています。
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社会福祉法人をめぐる課題(1)
事業報告・決算書のあり方から法人の課題を考える


【はじめに】
 社会福祉法人は内外に解決すべき大きな課題をいくつも抱えています。例えば、私も委員として参画した「社会福祉法人経営研究会報告書」は、従来の社会福祉法人の抱えてきた経営上の課題について、@経営資源配分の硬直化、A画一的なサービス提供、B規模の零細性、C非効率な事業運営の温存、D退出すべき法人の温存、と指摘しました。
これからの6回の連載で、これらすべての解法を考えることは難しいのですが、多くの課題の中から法人が前進していくための「梃子」となるものを取り上げて行きたいと思っています。社会福祉法人をめぐる状況から論を進めるのが定法なのでしょうが、4月号から始まる連載であることから、今号は事業報告・決算の作成作業を題材に社会福祉法人の取り組むべき方向につい述べたいと思います。

【事業報告・決算は何のために作成するのか】
 措置により福祉が提供されていた時代、社会福祉法人は利用者に決められた範囲のサービスを提供し、その対価として委託料・措置費をもらってきました。極端な言い方ですが、「委託・措置の枠組みの中で漫然とサービスを提供していても法人経営は何とかなった」のでした。そればかりか、ニーズに基づき新しい課題に挑戦しようとすると、行政から「余計なこと」として阻止されることも頻繁でした。
 このような時代の事業報告が、受託者である法人が委託者(行政)に対して報告を行うもので会ったのは当然のことでしょう。しかし本来、事業報告・決算は、次のことを目的として作成されるべきものでしょう。

@現状の把握と成果の確認・・・事業計画と比較した達成度を明らかにする
 法人経営の現状を徹底して事実に基づいて明らかにしなければなりません。サービスの利用率など結果の正確な把握、事故や苦情の状況、利用者・家族の評価などサービス提供のプロセスの状況など、「やりました」「頑張った」ではなく、「○○%から○○%になった」など、具体的で誰もが分かる形で現状を把握することが重要です。
また、事業計画との比較で到達点を測ることが重要です。事実で成果を測らなければ、成果が上がった理由も、挙がらなかった場合の問題点も出てこないでしょう。

B成果の開示・・・すべてのステークホルダーに開示し理解と共感を得る
 事業報告は、行政に提出するために作るのではありません。法人の成果と問題点を明らかにし、利用者・家族、地域住民、職員、取引業者、行政などすべてのステークホルダーに正確な情報を提供し、法人への理解や応援に役立てなければなりません。

C計画の基礎・・・成果と反省を基に、時期の改善計画に反映させる
 現状を事実ベースで明らかにすることで、目標とのギャップが見えてきます。このギャップを埋める働きが、次期の行動計画になります。

【どうすれば良いのか〜改善のヒント】
 行政等が求める事業報告は、法人の事業を発展・継続するために作成する形になっていません。都道府県や社協が社会福祉法人運営のための書式のフォーマットを示していますが、「○○を実施しました」など、目標に対してどこまで到達したのかを記入するようにはなっていないものが多いのが現状です。
 次は、実在する法人ではありませんが、いくつかの法人の事業報告書を参考に筆者が作成した事業報告の例です(斜字部分)。

1 概 況
 平成○○年度は前年度に引き続き、介護保険法に基づき、特別養護老人ホーム社大園及び老人保健施設社大の経営を行うとともに、短期入所生活介護、通所介護、訪問介護、居宅介護支援、短期入所療養介護、通所リハビリテーション等の事業を行った。
 新たに、ケアハウス社大の経営並びに△△市からの委託による在宅介護支援等の事業を開始した。
 その他の、特記事項は次のとおり。
(1)介護機能の強化・・・介護老人保健施設社大、社大短期入所療養介護の職員体制を強化し、介護給付費算定に係る体制を改善した。社大通所リハビリテーションにおいて定員を20名から40名に変更し、個別リハビリテーション提供体制も導入した。


 概況を読んでも「ああ、そうですか。そういうことをやったのですね」という感想しか湧きません。新規事業を開始したことは分かりますが開設の目標は達成できたのか、地域にどの程度貢献できたのか、開設初年度は経常収支が苦しいのが通常だが大丈夫だったのかなど、何も分かりません。「当初計画通り4月にオープンし、地域ニーズに十分に対応した結果予定を上回る入居契約があり、開設1年目のため事業収支1000万円のマイナスを予想したところ、500万円に圧縮することができた」このようなことを記述してほしいものです。
 また、通所リハビリテーションの定員を何故倍増したのかの狙いがわかりませんし、結果も分かりません。20名定員のときは、ニーズが多くてお断りすることが多かったから定員を増やし成果があがったなどろ、計画と結果について記述してほしいものです。

(2)利用料の変更・・・デイサービスセンターの利用料のうち食事材料費を200円に変更した。
(3)各種委員会活動によるサービス向上・・・身体拘束禁止委員会・事故防止委員会・環境衛生委員会の活動を推進し、身体拘束の廃止、転倒等の事故防止、環境面の配慮等に努めた。
(4)苦情解決・・・前年度同様、各施設・各居宅サービスで苦情受付・解決等の体制強化に努めた。


 食事材料費を200円に変更しています。おそらく値上げしたのでしょうが、値上げした結果食事の質が向上したのか、利益が増えたのか、何もわかりません。何のために実施したのか、目的は達成したのかについて、記述してもらいたいものです。
 各種委員会における活動は、「推進して」「配慮した」だけなのでしょうか。転倒事故や身体拘束はなくなったのでしょうか。「活動を推進し配慮したけれども、あいかわらず身体拘束をしています」という話だったら困ります。苦情解決も「体制強化に努めた」とありますが、苦情解決体制の強化は手段です。苦情が適切に処理され、苦情が減少しているのか、サービス向上に資するものであったのか、目的に沿った活動であったのかが問われなければなりません。

 次に、個別の事業ごとの総括について考えます。30人定員のデイサービス、1日当たり利用者が24人を超えたことがなく、09年度は24名で、稼働率80%でした。事業計画で利用者を1日当たり 3名増加させ、稼働率を90%としましたが、年間の平均利用者数は26人にとどまりました。稼働率は87%と目標に届きませんでした。この例で、よく見られる報告は(表1)です
   (表1)
   デイサービス年間利用者数    09年度   10年度     増減
                         6,024    6,548     524

 これでは、前年度に対して増加したことは分かりますが、目標に対してどうだったのかは皆目分かりません。そのうえ、年度によって稼働日数が異なりますので比較のしようがありません。そこで1日当たりの利用者数と目標と到達度を入れ(表2)のように修正してみます。

(表2)
  デイサービス    09年度     @予算   A10年度       A−@達成率
 年間利用者数    6,024人     6,777人    6,548人       ▲229人
 一日平均利用者数  23.9人     27.0人      26.1人        ▲0.9人
 利用者/定員     79.7%     90.0%      87.0%        ▲3.0%

 このようにすれば、一つの表で計画に対する到達度が分かり、目標まであと一日当たり0.9名の利用があれば計画が達成できたことが、誰にでも分かります。

 決算書にも同様の問題があります。言うまでもなく決算書は事業活動の結果が数字で示されるものですが、予算と対比して決算の数字を対比して形にはなっていません。昨年度の決算数字と一昨年度の決算数字を比べた形式が求められています。そのうえ、目標数字に達しない場合は、予算の補正を繰り返す(繰り返させられる)ことになっています。この結果、修正を繰り返した予算と決算を比較しても、すべての項目で予算どおりの決算数字が並ぶことになります。

 事業報告を無目的なもの、儀式的なものから、法人経営に役立つ者に変えることが年度代りのこの時期の重要な取り。行政が求める様式が変わらなくとも、説明資料として分かりやすく、到達度が理解できる報告書・決算所を5月の理事会に提出してみることを強くお勧めするものです。
〈ゆうゆうの里〉のケアと実践研究 [2009年11月17日(Tue)]
1.老人福祉財団の理念とケア・スピリット〜実践報告シリーズ発刊にあたって〜
 日本老人福祉財団は、高齢者の新しい住まい方を提案し、介護付き有料老人ホーム〈ゆうゆうの里〉を設置運営する目的で1973年に設立されました。1976年に浜松〈ゆうゆうの里〉を開設して以来、人が人として生きるための尊厳を大切にし、しかも自分らしく生きがいのある人生最後のステージを悠々とお過ごしいただくための居住空間・日常生活サービス・介護サービスを提供し、ご入居された皆様に大きな安心感に裏付けられた“充実した自分らしい人生”を送っていただくことを大きな目標としてきました。
 1979年伊豆高原〈ゆうゆうの里〉、1983年神戸〈ゆうゆうの里〉湯河原〈ゆうゆうの里〉、1985年大阪〈ゆうゆうの里〉、1988年佐倉〈ゆうゆうの里〉、1997年に京都〈ゆうゆうの里〉を開設し,現在では約2,200戸の居室におよそ2,450名のご入居者が生活されています。
 〈ゆうゆうの里〉では、常にご入居者の心身の状態にあわせ、お一人おひとりに最適と思われるサービスを提供することを目標にしてきました。ご入居者の皆様が〈ゆうゆうの里〉でますます充実した人生を送られることをスタッフ一同心より願い、その基本精神を2005年に以下のようにまとめました。
  ケア・スピリット
      「私にとってあなたはとても大切な人です」

 このケア・スピリットに基づき、日々の仕事のすべての場面でより良いサービスを提供するためには、職員による研究活動が大きな力を発揮するものと、私は考えています。仕事の中から問題点や課題を見つけ出し、実践の場で研究し業務を改善していく積み重ねがあって、サービスの質は高まっていくものと信じるからです。
 このような考えに基づき、〈ゆうゆうの里〉では、事故ゼロ運動、相談対応活動などと並んで職員による研究活動に積極的に取り組んできました。現在では、〈ゆうゆうの里〉のすべての部門・職場で、現場発想に基づく研究活動が展開されるようになっています。2008年度を例にあげると財団全体で60題の職員研究が行われ(7施設55題+本部5題)、施設ごとの発表会を経て2008年12月に〈ゆうゆうの里〉全国研究発表会(第8回)を開催しました。
 職員研究のテーマは、狭義の介護に限ることなく、厨房・施設維持管理・事務・入居者募集などすべてのサービスに関わることに広がっています。私達の提供するサービスは狭義の介護にとどまらず、すべての職員がすべての場面で行うものと考えているからです。
 12月に第1冊目を発売予定のブックレット「〈ゆうゆうの里〉ケア実践シリーズ」は、〈ゆうゆうの里〉における実践研究活動の成果を多くの皆様にお伝えしたいと考え、発行をけ隠してきたものです。研究者ではない現場の職員が、日々の業務に追われ、苦労しながらまとめた様々な研究成果について、今後順次発行していきたいと考えています。忌憚のないご意見ご批判をいただければ幸いです。

2.神戸〈ゆうゆうの里〉ソフト食の取組みについて
 シリーズの最初となる「食べる楽しみをいつまでも〜ソフト食レシピ30」は、神戸〈ゆうゆうの里〉食事サービス課が取り組んだ研究の報告です。嚥下困難を抱える方々へ、ソフト食(「ゲル食」とも言うようですが、当法人では「ソフト食」と呼称しています)を提供しようと奮闘した3年間にわたる研究の成果をまとめたものです。取り組みを開始して3年目の2009年度には、目標に掲げたソフト食提供100%の目標をほぼ達成するところまで到達しました。
 本書の副題に「レシピ30」とあるように、最終的にはソフト食のレシピを作成し、何時でも提供できる体制を作りあげました。このことは、たいへん素晴らしい成果と思っていますが、理事長という立場で私は、この研究のプロセスに注目していただきたいと考えています。
この研究のプロセスについて振り返ってみたいと思います。

@研究のきっかけ〜関係性の大切さ〜
 この研究が開始された「きっかけ」は介護居室で生活されている嚥下困難な入居者が、食事の際に隣の方のお寿司に手を出してしまったことです。当時、嚥下困難な方にはすり潰した流動食を提供していました。すべての料理がドロドロの状態で、陰では「ドロ」と呼んでいた職員もいたようです。〈ゆうゆうの里〉の出来事ではありませんが、黄色い流動食が小鉢に入っていたのでデザートのパイナップルだと思い込んでいたら沢庵をすり潰したものだったという笑えない体験を聞いたことがあります。
 誤嚥事故を恐れるあまり、「すぐむせてしまうのだから、流動食でもしょうがない」「嚥下困難な方には流動食で当たり前」と、職員の多くも現状を受け止めていたのかも知れません。
この研究の発端になったのは、隣の方のお寿司に手を出してしまった利用者を眼の前にした介護職員が、「ドロドロではなくお寿司が食べたいんだなぁ」と心から受け止めたことでした。私だったら「何をするの!」と叱ってしまったかも知れません。この研究が、介護職員の本当の意味で利用者の「傍ら」にいる姿勢から始まったことに、私は心からの感動を覚えています。
 とことん傍らにいようとする姿勢、サービスを受ける側と提供する側との良い関係が、この研究の出発点であったことを確認しておきたいと思います。利用者の行動に心から共感した職員は「何とかならないのか?」と厨房職員に真剣に訴え、厨房の職員も介護職からの投げかけを真正面から受け止めて、研究が始まったのでした。

Aマネジメントプロセスの大切さ
 第2の点は、マネジメントプロセスを理解し、PDCAを意識的にしっかり回したことです。嚥下困難な入居者の食事の改善について取り組み始めた研究チームは、まず現状を踏まえ「目的=あるべき姿」を探すことにしました。検討の結果、目的を「要介護状態になっても食べる喜びを(提供する)」としました。そして「目標」をソフト食の100%提供とし、1年目はトライアル、2年目は提供率50%、3年目に100%と「工程」を定めたのです。いきなり「ソフト食」作りに取り組んだのではなく。利用者中心の視点で目標を定めるところことから取り組んだのです。このことは、たいへん重要なことであったと考えています。
 仕事に取り組む上で「手前主義」に陥ることがしばしばあります。「手前主義」とは、仕事の意義や目的を理解することなく、何かに追われるように、とにかく何かを作ってしまおうという仕事のスタイルです。〈ゆうゆうの里〉では、すべての取り組みにおいて、次のような手順でスタートを切ることを何度も確認してきていました。
 つかむ:現状を掴んで、目標との差を測る
 つける:目標を定め、狙いをつける
 つくる:ここまで来たら、計画を作る

この研究においても、法人の理念、施設の目標、ケア・スピリットなどを基に、食事サービスのそもそもの目的から考えました。一見「まわり道」をしているように見えますが、目的を明確にする作業を通じて、はっきりした目標が立ちました。この結果、具体的な行動計画(工程)が一つひとつクリアでき、成果につながりました。

3.おわりに
 ミッション(理念)に沿って取り組む姿勢が基礎となることが良い仕事をしていくうえでたいへん重要です。入居者を大切にし、傍らにいるケアを目指す姿勢。接遇スピリットを具体化することとは何かを考えることを基礎にする姿勢。こうした姿勢が改善の基礎となっています。
また、私は常々「ケアを幅広くとらえる」ことの重要さを訴えてきました。狭義のケアを提供することだけがケアではない、ケアは施設の職員全体で提供していると強調してきました。
この研究においても、入居者を中心に置き、職種を横断して全体で取り組みました。ケア全体を幅広く見渡した結果、調理技術にとどまらないで食事提供・食事ケアの大きな改善につながる成果を上げることができたのだと確信しています。
 食事に必要とされる要素は、味、形状、盛り付け、栄養、温度など様々あります。これらの要素はどれが最も重要かなどと順位をつけることはできません。栄養が充足していても不味くては食べていただけません。美味しくても栄養がきちんと摂取できなければ困ります。
神戸〈ゆうゆうの里〉では、ソフト食を提供してから、残食が少なくなり、美味しそうに食べている光景が見られるようになりました。面会にみえたご家族から驚嘆の声が寄せられ、元気な入居者からも「もし重い介護状態になったとしても、こういうものを食べさせてくれるのね、安心したわ」などの声が寄せられています。
 今後も、ケアの全場面つまりご入居者と関わるすべての場面で「もっと良い方法はないのか」と考え続けていきたいと念じています。
                                                           (以上)

*「食べる楽しみをいつまでも〜ソフト食レシピ30」のご注文方法については、ひとつ前の記事をご覧ください。
〈ゆうゆうの里〉ケア実践ブックレットの発刊 [2009年11月17日(Tue)]
〈ゆうゆうの里〉のケア実践から生まれた「〈ゆうゆうの里〉ケア実践報告シリーズ」の1冊目が、12月5日発売になります。
日本老人福祉財団では、すべての職員が入居者との日々のふれあいの中から問題点や課題を見つけ出し、改善を目指して研究活動を展開しています。

今後、実践研究の成果をシリーズとして順次刊行していく計画です。
シリーズの1冊目となるのは、「食べる楽しみをいつまでも」。
神戸〈ゆうゆうの里〉食事サービス課職員の3年間の取り組みをまとめたものです。

研究は、ケアセンター食堂で、嚥下困難で流動食を「食べさせられていた」入居者が隣の方の食べていたお寿司に手を伸ばしてしまったことがら始まりました。
「要介護状態になっても、食べる喜びを!」と研究の目的を定め研究が始まりました。

本書には、この研究の過程と、研究の成果として生まれた「ソフト食」レシピ30が掲載されています。
ぜひ、多くの皆さんに読んでいただき、ご意見等お寄せいただきたいと思います。
〈ゆうゆうの里〉ケア実践シリーズbP「食べる楽しみをいつまでも」は、
1冊800円(税込)、12月5日発売です。
ご希望の方は、メールまたはハガキに、郵便番号・住所・指名・希望冊数を明記し、
財団本部「ブックレット係」までお申し込みください、送料無料でお送りします。
代金は、ブックレット到着後、同封の振込用紙でお支払いいただくことになります。
日本老人福祉財団:103‐0012東京都中央区日本橋堀留町1-7-7
メール:book@yuyunosato.or.jp



ブックレットの内容の一部です⇒

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実践研究の狙いと意義については、次の記事『〈ゆうゆうの里〉のケアと実践研究』をご覧くいださい
景気が悪くなっても、なぜ福祉人材の確保に苦しむのか? [2009年11月09日(Mon)]
不況下における介護・福祉人材確保の課題
景気が悪くなっても、なぜ人材確保に苦しむのか?

不況と福祉人材確保との関係
 現在のような不況に陥るまで、「介護人材が確保できないのは、好景気で「福祉なら働ける人」がいなくなったからだといわれていた。しかし、不況下でも人材確保の状況は一向に好転していない。社会福祉士、介護福祉士、保母などの社会福祉専門職の有効求人倍率は、好不況とは関係なく05年から1を上回る状況が続いていたが、リーマンショック後の09年1月には1.82を示し、不況下においても人材確保難は解消されるどころか激しさを増している。

福祉人材難の原因
 好不況の波と関係なく福祉人材の確保が難しい原因は以下の諸点にあると考えられる。

 第一は、福祉・介護職員の高い離職率である。(財)介護労働安定センターの調査によると平成20年度における施設介護職員+訪問介護員の離職率は18.7%、全労働者離職率8.2%を大きく上回っている。 介護職はすべての福祉従事者の6割を占めると言われる。毎年2割近い職員が退職していく状況を放置していては人材確保難は解消できない。

 第二の原因は、切り下げられ続けてきた人件費である。福祉分野の常用介護労働者の平均年収は下がり続けている。筆者が厚生労働省毎月勤労統計から算出した福祉職の平均年収は、2001以後下がり続けている。この間は、非正規職員や派遣労働者の増加が全産業に広がり、全産業労働者の平均年収も下がっているが、福祉職の平均年収は全産業を超えて下がり続けている。筆者の試算では2001年全産業労働者(常用)平均年収422万円に対し、福祉職383万円(対全産業比91%)であったものが、2007年には396万円に対して285万円(同72%)になっている。
 契約社員の増加や、正規職員の賞与の減額などが平均値を下落させた原因と思われる。介護労働安定センター調査では介護職の月平均実賃金(手当含む)は全国平均で月給者235,693円、日給者142,345円である。

 第三の人材確保難の原因は、経営者の姿勢に起因する企業文化(職場風土)が良くないことである。  
 介護労働安定センター調査によると、介護職の退職理由の第一位は「法人や施設・事業所の理念や運営のあり方に不満」23.4%、第二位「職場の人間関係に不満」23.0%、第三位「収入が少ない」21.8%、第四位「他に良い仕事があった」20.0%である。退職者のほぼ半数が退職の理由に、法人の経営姿勢や職場の人間関係を理由にあげている。好ましくない企業文化を改善しない限り、人材の確保・定着は好転しない。 

人材確保難にどのように対処するか
 人材の確保はそれだけで単独に存在する問題ではない。調達(採用)・教育・定着・考課・給与・昇格・昇進・福利厚生など一連の人事施策の一部である。また、法人・事業所の人事施策は、法人の理念・目的に基礎をおく経営全体の一部である。このような基本的な視点に立って、弥縫的対策に止まらない対応が必要である。そのための基本は以下の諸点であろう。

1)理念を基礎におく経営を徹底
 福祉・介護職の多くは、人の役に立ちたいなど利他的な気持ちを持って入職してくる。ところが、実際のサービス提供場面で人格の尊厳や人権の尊重がないがしろにされているなどの場面に遭遇しているのではないだろうか。一部の職員による利用者への拘束や「いじめ」に疑問を呈したところ「おむつ交換もきちんと出来ないのに生意気を言うな!」と一蹴されてしまった。こうした事態を経営者や管理者は見て見ぬふりをしている、などといったことが、入職者の志を阻喪させる原因になっていることが散見される。 
 離職原因についての調査結果を他山の石とすることなく、法人の社会的責任に立った理念・目標の実現に向けた日々の経営が求められるところである。

2)人件費抑制
 福祉・介護職の平均年収の下落傾向をとどめなければならない。金銭面での処遇を向上さえすれば人材は集まるというわけではないだろう。一方で、給与も人材の確保・定着の重要な要素であることは間違いがない。生活することができる給与水準の確保が大きな目標とならなければならない。
 介護保険創設以来、営利企業の参入など競争下での経営に目を奪われるあまり、多くの法人が「経営改善=人件費抑制」という呪縛に囚われてきているように思える。中年世代からの昇給停止など極端な制度改定の実施や、大卒初任給を14万円台に設定しているなど極端な例も見られる。
 介護保険創設後2002年、2005年に実施された経営実態調査において、介護施設におけの10%超の利益が明らかになった。この結果2003・2006年の改訂において施設介護報酬が大きく切り下げられてきたのではないだろうか。  
 社会福祉法人など非営利法人にとっても、事業経営にあたり利益を上げることは決定的に重要である。赤字経営では、法人の社会的責任を果たすことはできないからだ。しかし、非営利法人にとっては、利益をあげることが法人の目的ではない。適正な利益を上げその利益で何を為すのか、何をもって社会(地域)に貢献するのかが重要なのである。
 経営=人件費抑制という誤った方策に走った結果、職員の定数を確保できず、人材不足による経営難に陥ってしまったのでは本末転倒であろう。繰り返すが、「人件費ダウン⇒高利益⇒介護報酬ダウン⇒人件費ダウン⇒人材確保難⇒経営難…」という負のスパイラルを生んできた呪縛から離れた経営姿勢が求められている。
 給与の水準では、都市部であれば初年度年収300万円前後を目指すべきと考えている。現実に大卒初任給21万円台、初年度年収300万円という水準でも安定的な経営を行っている社会福祉法人は存在していることを付け加えておこう。

3)専門性を重視した人事施策
 介護サービスの質は介護職の質に左右される。社会福祉士・介護福祉士制度が発足して20年経過したが、残念なことにこの間報酬などにおいてその位置づけが不十分のまま推移してきた。本年4月の介護報酬改定で、介護福祉士の配置が報酬体系に「加算」として加えられたが、医療保険における看護師の配置への評価と比べると未だ不十分なものと考えている。
 介護報酬の次期改定では介護の質をさらに重視した改定が行われる方向であり、長期的な視点で専門職の採用、資格取得への援助などを重点課題としなければならないであろう。

4)組織をあげてサービスの質の向上を
 介護職は利用者・家族の喜ぶ顔を見ることで成長する。誰もが良いワーカーになろうと夢を抱いて就職してきている。このような人材を、研修・教育を通じて定着させ「人財」に成長させることが重要な課題である。
 例えば、介護は歴史が浅く、そこには解決すべき課題が未だ多く残されている。解決すべき課題はケア(介助)場面で多く見られるが、その他にも、記録などケアに付随する業務の効率化・合理化の課題も山積している。業務の改善によって生まれた時間をより利用者のために使っていくことが重要である。
 サービス向上のために、職場内外の研修が行われているが、これに加えて現場発想で行う職員の研究活動が重要である。研究活動は職場の活性化、福祉・介護職の成長など大きな成果が期待できる大変重要な取り組みと言える。

5)環境を把握し、事実に基づく対応でクオリティ・マネジメントを実践
 組織の経営管理においては、理念に基づき、環境を把握し、戦略を策定し、行動計画を立て、それを実施し検証するというマネジメントサイクルを回し続けることが大切である。法人・事業所の事業展開のすべての場面で、サービスの質を高めるための取り組み(クオリィティ・マネジメント)が意識的に展開されなければならない。
 人材確保に関して言えば、例えば以下のことについて、事実に基づいて徹底的に検証見直しを図る取り組みが行われなければならないだろう。。
  ・法人・施設の離職動向を把握、原因の分析
  ・入職前の期待と入職後のギャップについての調査
  ・離職者が決定してから求人を始めるという「アテツギ」的方法の見直し
  ・求人広告の内容の見直し
  ・・・など
 何よりも、担当者任せにせず、法人の課題として組織のトップが関与しなければならない。
 1法人1施設で職員総数60名台という規模で、毎年早期に新卒定期採用を行い、良い結果を残している法人もある。退職者が出る都度行っている広告や面接等に要する費用(職員調達費)も改善すべき課題であろう。

おわりに
 「景気が悪くなれば人は集まる」は事実ではないこと、現状をしっかりつかみ、狙いを定めて、法人力・経営力を発揮して人材確保に取り組まなければならないことを述べてきた。
  「不況待望論」では人材確保はできないし、そもそも福祉の仕事が「福祉なら働ける」というたぐいのものではなく、そのような認識では優秀な職員を確保することはできない。福祉職への社会的評価をあげるためにはどのようにすべきかというソーシャルアクションの考えにも立って、それぞれの法人・事業所の真摯な取り組みが望まれていると言えるのではないだろうか。
(以上)

【参考資料】
・介護労働安定センター「平成20年度介護労働実態調査結果」
・厚生労働省「平成20年上半期雇用動向調査」
・堀田聰子「訪問介護員の定着・能力開発と雇用管理」東京大学社会科学研究所人材ビジネス研究寄付部門研究シリーズNo.11,2008.3.
・全国社会福祉協議会「介護施設・事業所のための戦略的な採用と初期の定着促進の手引き」2008.12.
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