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月刊「WAM」(5) [2010年07月28日(Wed)]
社会福祉法人をめぐる課題(5)
 社会福法人経営上の課題B
人「財」の確保と育成〜職員を大切にする組織に〜

1.人「財」の確保・育成はマネジメントの中心課題
 P.ドラッカーは、マネジメントの目的を次のように述べています。@自らの組織に特有の使命を果たす、A仕事を通じて働く人たちを生かす、B自らが社会に与える影響を処理すると共に、社会の問題について貢献する(「マネジメント〜エッセンシャル版〜」)。また、マネジメントとは、「社会に対して意味ある活動を行う組織について、そこに属する人たちを動かし、成果を挙げること」です。
 これらから、人材の確保と育成は、それ自体がマネジメントの重要な目的であることであり、成果を上げるための手段ではないことが分かります。このように考えると、人材の確保や育成の課題に取り組む基本的な視点は、
  @法人の使命、目的の一部であることを理解し、
  A人事に関する施策を、成果を上げるための手段としてみるのではなく、
  B人が定着し成長していくこと自体が法人にとっての価値であり、
  Cそのことが、さらなる成果(価値)を生み出すものであり、
マネジメントの中心に据えて取り組まなければならないことが明らかになってきます。

2.人材確保難とその原因
 厳しい経済状況の下、高い失業率や就活難民などが話題に上りますが、福祉・介護の現場では、好況時から引き続く人材確保難が続いています。その原因は以下の点にあると考えられます。
 第1は、福祉・介護職員の高い離職率です。介護労働安定センターの調査によると、介護職20年度の離職率は18.7%で、全労働者の8.2%を大きく上回っています。
 第2は、給与水準の低下です。介護職員(常用労働者)の平均年収は2001年以後下がり続けています。この間、非正規職員や派遣労働者の増加が全産業に広がり、全産業労働者の平均年収も下がっていますが、福祉関係職の平均年収は全産業を超えて下がり続けています(図参照)。2001年福祉職の年収は全産業労働者(常用)平均の約9割であったものが、2008年に約7割になっています。非正規職員の増加や、正規職員の賞与の減額などが平均値を下落させた原因と思われます。

 第3の原因は、企業文化(職場風土)です。介護労働安定センター調査によると、介護職の退職理由の第1位は「法人や施設・事業所の理念や運営のあり方に不満」、第2位「職場の人間関係に不満」であり、「収入が少ない」(第3位)を上回っています。

3.どうすればよいのか 
 第1に、本当の意味の「リストラ」を実行しなければなりません。経済社会の変化に合わせて事業の再構築を行うことがリストラクチャリング(Restructuring)です。しかし、わが国では「リストラ=首切り、賃下げ」と理解されてきました。介護保険創設前後から、競争時代に備えると称して賃下げ、職員のパート化、人員削減など総人件費を減らす動きが広まりました。研究者やコンサルタントの中に、「特別養護老人ホームなどでは、人件費が事業収益の55%以上になると経営が困難になる」と主張した人がいたこともこうした傾向に拍車をかけました。この結果、2002年、2005年に行われた厚生労働省の介護経営事業実態調査で介護施設は平均10%を超える利益率となり、それを受け報酬が二度にわたって大幅に切り下げられたのでした。人材確保難の原因の一つに、人件費抑制一辺倒の「経営」があったことを指摘せざるを得ません。その結果、人件費倒産を恐れるあまり人材不足倒産に近づいてしまっている施設まで現れています。
 一律な年功序列賃金を改める、考課に基づく処遇を行うなど、職員処遇のあり方をサービスの質の向上につながる方向に改革しなければならないことは実行しなければならない課題です。しかし、安易な人件費削減に走るのは間違いです。職員の生活を守り、モラール(士気)が高まる改革でなければなりません。
 第2は、仕事の標準化、効率化をすすめ、無理・無駄をなくすための努力をすることです。福祉サービスは個別性が強く標準化や効率化はなじまないと言う人もいますが、標準化とは利用者を画一的にケアすることではありません。サービス提供者側の仕事のやり方の「バラツキ」を低減させるために必要なことです。個別ケアと標準化は対立するものではなく、利用者の個別性に配慮したサービス提供を行うために正しい仕事の手順=標準が組織内に定着していかなければなりません。直接的なサービス提供場面に限らず、材料の購入や種々の契約などを見直し、サービス水準を維持向上させながら経費を削減する試みがすべての場面で展開されなければなりません。
 そのうえで、人「財」の確保・定着のための長期的視野に立ったさまざまな具体策を展開すること。これが第3の点です。ここまで述べてきたように、採用し、定着・育成する働きは法人の理念や施設の目的の一部であり、「人を集め、辞めさせない」ための手練手管では断じて無いからです。理念や目的という基礎に立ち、マネジメントの基本に立ち返った具体策を考え実行しましょう。
 例えば、「広告を出しても誰も応募して来ない!」と嘆くだけでなく、広告が法人・施設の「強み」を訴えるものになっているのか?、現に継続して働いている職員は、施設の何を魅力と感じているのか?、などの事実を把握し「強み」を訴えるのもマネジメントの基本です。
また、OJTは難しいと聞くことが多いのですが、この主な原因は、法人の理念を基礎に利用者一人一人のケア目標が示されていないことにあると思われます。例えば、チューターやエルダーと呼ばれる新人指導担当者を定め、任せてしまうことがしばしば起きます。法人・施設の目的と仕事との関連、個別目標と提供するケアの意味…、「何のために働いているのか」が伝わっていなければ、OJTは組織の取り組みとして成功しません。 
 マネジメントは「組織の所有や階層そのものを意味するものではない」(ドラッカー)からです。

4.人財の確保と養成が報酬にも反映
 2009年の介護報酬改定で、専門職の雇用比率による加算が始まりました。その後、介護給付の評価のための検討会が発足しました。議論の方向から今後は、@サービス提供の構造、Aサービス提供のプロセス、Bサービスの結果、について評価を行い、介護報酬に反映し、その他の福祉サービスにも波及してくるものと思われます。
 これからの社会福祉法人には、@職員を教育し質の高いサービスを提供しようとするのか A質を抑え楽な仕事でほどほどの給与で経営していくのかの2つの道があると言えます。介護職員処遇改善給付金を申請している事業所には9月末までにキャリアパスの届出が義務付けられていますが、職員の意欲を高め、サービスの質を向上させる取り組みを強化して第1の道を歩まなければならないでしょう。
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