4月6日付けの「河北新報」が、共同通信の配信記事として、新型コロナウイルスの流行ピーク時に宮城県を含む9府県で人工呼吸器が不足すると報道しました(図)。
この記事に根拠になっているのは、日本呼吸療法医学会などが厚生労働省に依頼で、各都道府県の臨床工学技士会を通じて、人工呼吸器や人工心肺装置「ECMO(エクモ)」の台数調査を実施(期間は2月12〜20日)した調査結果で、人工呼吸器は全国に計2万2254台あり、他の病気の治療などに使っている台数を除くと1万3437台が新型コロナ患者にも対応可能だったとされています。
●調査結果は日本呼吸療法医学会のホームページにあります
3月6日の発表文書http://square.umin.ac.jp/jrcm/index.html 記事は、厚生労働省が公表した流行ピーク時に関する推計式で重症患者数を試算。1人の感染者が平均2人にうつすとの想定で、重症患者数は東京が最大903人、兵庫が431人、福岡が388人、宮城が177人で、対応可能な台数を比較すると9府県で人工呼吸器が不足するとしています。人工呼吸器数に占める重症患者の割合が8割を超えて逼迫(ひっぱく)する自治体も、北海道や静岡、愛媛など8道県に上ったとしています。
加えて宮城県では、活用できる人工呼吸器やECMO(人工心肺装置)の所在に地域的な偏りがあり、二次医療圏別にみると約4倍の開きがあります。
政府はさらなる感染拡大に備えて、人工呼吸器やエクモの増産を図るとともに、差し当たりの対応として「広域で機器を融通し合う必要がある」としています。
日本集中治療医学会の西田修理事長が昨日のNHK番組に登場して、ドイツとイタリアの死者数の違いが集中治療態勢の差異によること、医療崩壊したイタリアと比べて日本の体制がもっと脆弱であること、重症肺炎患者に対して人工呼吸器を扱える医療従事者や集中治療室の数も足りないことを指摘しました。
日本集中治療医学会は4月1日の理事長声明で、死者数から見たオーバーシュート(=集中治療体制の崩壊)をどの局面で迎えるかの臨界点が地域によって異なることを指摘しました。
とくに宮城県では、調整本部を早期に立ち上げて、広域搬送を含む広い視野での対応方針を明確にしておく必要があると思います。
●日本集中治療医学会の理事長声明(4月1日)の抜粋
イタリアでは3月31日の時点で感染者105,792人に対して死者約12,428人であり死亡率は実に11.7%と急増しております。一方でドイツでは、感染者約71.808人に対して死者は775人に留まり、死亡率は1.1%です。この違いの主なものは、集中治療の体制の違いであると考えます。ICUのベッド数は、ドイツでは人口10万人あたり29〜30床であるのに対し、イタリアは12床程度です。ドイツでは新型コロナウイルス感染症による死亡者のほとんどはICUで亡くなるのに対し、イタリアでは集中治療を受けることなく多くの人々が亡くなっているのが現状です。イタリアは高齢者が多いことも死亡者が多いことの原因と考えられますが、日本ではイタリアよりも高齢化が進んでいるにもかかわらず、人口10万人あたりのICUのベッド数は5床程度です。これはイタリアの半分以下であり、死者数から見たオーバーシュートは非常に早く訪れることが予想されます。
さらに、重要なことは、本邦のICUは2対1看護でありますが、重症化した新型コロナウイルス感染症患者の治療をICUで行うには、感染防御の観点からも1名の患者に対して2名の看護師が必要であるということです。これは、8床のICUでは、新型コロナウイルス感染症の患者2名を収容した時点でマンパワー的に手一杯となり、通常の手術後の患者や救急患者の受け入れさえもできなくなる事を意味致します。集中治療は非常に専門性が高く、不適切な人工呼吸管理はかえって肺を障害しますが、日本では重症肺炎に対して人工呼吸器を扱える医師が少ないことも問題です。ECMOでの管理ともなればより一層のマンパワーが必要です。
現在、本邦には約6,500床ほどのICUベッドがあると推定致しますが、約4倍のマンパワーが必要であること、他の重症患者の受け入れも必要であることを考えると、このままでは、実際に新型コロナウイルス感染症の重症患者を収容できるベッド数は1,000床にも満たない可能性があります。無理に収容すると感染防御の破綻による院内感染、医療従事者の感染、集中治療に従事する医療スタッフの肉体的・精神的ストレスが極限に達します。イタリアでは医療従事者が60名以上死亡しているとも聞きます。この状態を避けるためのあらゆる手段を講じる必要がありますが、これは、単に人工呼吸器の台数などの問題ではなく、マンパワーのリソースが大きな問題であることは明白です。
先日、お伝えした「新型コロナウイルス感染症から国民の命を守るために 会員の皆様へお願い」
https://www.jsicm.org/news/news200331.htmlでもお伝えした通り、重症患者管理経験のある医療職のリストアップやマンパワーから見た、集中治療体制の維持のためのあらゆる方策と選択肢についてのシミュレーションを開始して頂くことをお願い致します。
生物学的オーバーシュートではなく、死者数から見たオーバーシュート(=集中治療体制の崩壊)をどの局面で迎えるかの臨界点は地域によって異なると考えられ、広域搬送を含む広い視野での対応が必要となります。
●この声明の原文はこちら
日本集中治療医学会のホームページ