
女川原発2号機の審査書案公表にあたってー新規制基準と審査を批判し、意見表明を広く呼びかけました[2019年11月28日(Thu)]
「原発問題住民運動宮城県連絡センター」と「女川原発の再稼働を許さない! みやぎアクション」の2団体が呼びかけて11時から宮城県庁記者会で会見。以下の見解を発表しました。
女川原発2号機の審査書案公表にあたって
2019年11月28日
原子力規制委員会が11月27日の会合で、東北電力女川原子力発電所2号機の新規制基準への適合性審査を終了し、審査書案をまとめて公表した。11月28日から30日間、パブリックコメントが実施される。
審査の節目に当たり、女川原発の再稼働中止を求める立場から新規制基準と適合性審査に関する見解を述べ、パブリックコメントへの意見の提出を呼びかけるものである。
新規制基準は「世界で最も厳しい」どころか、世界レベルに程遠い
新規制基準が制定された際に規制委は、これまで規定されていなかったシビアアクシデント対策を規制の対象にしたことが特徴だと強調した。福島第一原発では、溶融炉心を取り出すことはほとんど不可能になっており、シビアアクシデント対策というのであれば、福島事故の痛苦の教訓を踏まえて炉心溶融に万全の対策をとらなければならない。
ところが新規制基準は、欧州で認証されている最新鋭の原発に標準装備されているコアキャッチャーを要求しておらず、「世界で最も厳しい水準」(安倍首相)どころか、世界のレベルには程遠い。女川原発では、コアキャッチャーに代わる溶融炉心対策として、格納容器下部に水を張って溶融炉心を受け止める「対策」がとられることになっているが、これは安全どころか水蒸気爆発を招いて東日本壊滅の事態を引き起こす懸念がある。
この問題の審査で、電力会社は水蒸気爆発が発生した実験の存在を隠ぺいした。それが発覚した後は、実験温度のデータを改ざんした資料を提出した。
東北電力は、真実の実験データをいつから知っていたのかなどを説明しておらず、科学と県民に対する誠実さが問われている。
規制委は、電力会社の隠ぺいもデータ改ざんも見抜くことができず、規制機関にふさわしい専門性を有しているのかどうかについて、疑問が投げかけられている。
女川原発は巨大地震の震源域に近い「被災原発」である
福島第一原発事故は、地震・津波が引き金になったため、規制委は自然災害の想定を大幅に引き上げた。
女川原発の基準地震動は、東日本大震災を踏まえて1000ガルまで引き上げられたが、島崎邦彦・元原子力規制委員長代理(地震学)は、「将来起こる地震は、自然が決める」と地震・津波の予測の限界を指摘している。
火山について、藤井敏嗣・元火山噴火予知連絡会会長は、「地震の場合は、13万年前までに活断層が動いたということであれば、そのうえに原発施設は建設できない」ことを指摘し、1万年前に起こっていても「可能性は十分に小さい」として巨大噴火を考慮の対象外にした『火山影響評価ガイド』を批判している。
地震・津波・火山などの自然災害に対する新規制基準の想定は、科学的研究の到達点を踏まえたものにはなっているとはいえない。
また女川原発は、東日本大震災で被災した特殊な原発であり、県の「女川原子力発電所2号機の安全性に関する検討会」でも、再稼働に耐えられるかどうかが繰り返し議論になってきた。しかし審査では、議論が原子炉建屋の剛性の問題が中心になり、設備・機械類・計器類の被災の検証も安全性の検討も不十分なままである。
女川原発は、繰り返し巨大地震と大津波を発生させている日本海溝沿いの震源域に最も近い原発であり、宮城県民は「次の原発事故」に不安を抱かざるをえない。
新規制基準には住民被ばくの可能性を増やす「改悪」の側面も
新規制基準に関して見過ごすことができないのは、原発の敷地境界での最高被ばくを「甲状腺に対して3Sv、全身に対して0.25Sv」と決めてあった「原子炉立地審査指針及びその適用に関する判断の目安について」(1964年制定)を、今後は適用しないと決めたことである。福島第一原発事故で、立地審査指針の約1000倍の被ばくがあったため、適用を続ければほとんどすべての原発が立地を失うからである。
立地審査指針に代わるものが制定されていないため、住民の被ばく限度が無くなっている。一方で、格納容器損傷事故を防ぐためにベントを多用する方針に転換したため、住民の被ばく機会が増えることになる。女川原発ではフィルターベントともに、直接ベント管も温存される。立地審査指針の事実上の廃止と、「止める、冷やす、閉じ込める」から「止める、冷やす、放出する」への転換は、制度の改悪であることを指摘しておく。
「深層防護」の第5層=避難計画はまったく審査されていない
規制委は、「原子力災害対策指針」を策定していながら、審査では指針に基づいて策定された自治体に避難計画の実効性をまったく検討していない。その理由を規制委は、災害対策基本法が、原子力災害時の避難に関しては、地方自治体を中心にした地域防災会議に権限を委ねているからだと説明している。
しかし、IAEA(国際原子力機関)で採用されている「深層防護」の考え方によれば、その第5層において、原子力規制機関による緊急時計画等の整備が必要だとされている。短時間で広がる放射能への迅速な対応や、他都道府県にまたがる広域的な避難行動は国が全面的に統括すべきであり、重大事故時に住民の深刻な被曝を回避することができない場合に規制委は稼働を認めない措置をとるべきである。
女川原発再稼働の中止を求める運動へ参加を!
新規制基準は、国民のコンセンサスがないままに策定され、適合性審査は全体として国民の安全よりも既存原発の再稼働に道を開くことが優先になっている。
関西電力の高浜原発に関わる闇献金事件で、原発マネーが原子力行政を歪めていることがあらためて浮き彫りになった。原子力規制庁の職員は約1千人だが、うち150人以上が電力会社や原発関係企業からの出向社員で占められており、中立・公正な原子力行政は期待できない。
どんな世論調査でも多数の国民が再稼働に反対しているのは、国民が原子力行政の正当性を疑問視しているからである。
女川原発が重大事故を起こさずに運転終了を迎えたとしても、処理する方法がない「核のゴミ」を増やすだけである。
原発は、もうビジネスとしても成り立たなくなっている。
正すべきは、原発に固執している政治である。「原発ゼロ」法を制定して、再生可能エネルギの開発・普及による希望ある未来に踏み出すことが今こそ求められている。
多くの県民のみなさまが、規制委のパブリックコメントに対して意見を提出すること、女川原発の再稼働中止を求める運動に参加していただくことを心から呼びかける。
女川原発の再稼働を許さない! みやぎアクション
原発問題住民運動宮城県連絡センター

女川原発2号機の審査書案公表にあたって
2019年11月28日
原子力規制委員会が11月27日の会合で、東北電力女川原子力発電所2号機の新規制基準への適合性審査を終了し、審査書案をまとめて公表した。11月28日から30日間、パブリックコメントが実施される。
審査の節目に当たり、女川原発の再稼働中止を求める立場から新規制基準と適合性審査に関する見解を述べ、パブリックコメントへの意見の提出を呼びかけるものである。
新規制基準は「世界で最も厳しい」どころか、世界レベルに程遠い
新規制基準が制定された際に規制委は、これまで規定されていなかったシビアアクシデント対策を規制の対象にしたことが特徴だと強調した。福島第一原発では、溶融炉心を取り出すことはほとんど不可能になっており、シビアアクシデント対策というのであれば、福島事故の痛苦の教訓を踏まえて炉心溶融に万全の対策をとらなければならない。
ところが新規制基準は、欧州で認証されている最新鋭の原発に標準装備されているコアキャッチャーを要求しておらず、「世界で最も厳しい水準」(安倍首相)どころか、世界のレベルには程遠い。女川原発では、コアキャッチャーに代わる溶融炉心対策として、格納容器下部に水を張って溶融炉心を受け止める「対策」がとられることになっているが、これは安全どころか水蒸気爆発を招いて東日本壊滅の事態を引き起こす懸念がある。
この問題の審査で、電力会社は水蒸気爆発が発生した実験の存在を隠ぺいした。それが発覚した後は、実験温度のデータを改ざんした資料を提出した。
東北電力は、真実の実験データをいつから知っていたのかなどを説明しておらず、科学と県民に対する誠実さが問われている。
規制委は、電力会社の隠ぺいもデータ改ざんも見抜くことができず、規制機関にふさわしい専門性を有しているのかどうかについて、疑問が投げかけられている。
女川原発は巨大地震の震源域に近い「被災原発」である
福島第一原発事故は、地震・津波が引き金になったため、規制委は自然災害の想定を大幅に引き上げた。
女川原発の基準地震動は、東日本大震災を踏まえて1000ガルまで引き上げられたが、島崎邦彦・元原子力規制委員長代理(地震学)は、「将来起こる地震は、自然が決める」と地震・津波の予測の限界を指摘している。
火山について、藤井敏嗣・元火山噴火予知連絡会会長は、「地震の場合は、13万年前までに活断層が動いたということであれば、そのうえに原発施設は建設できない」ことを指摘し、1万年前に起こっていても「可能性は十分に小さい」として巨大噴火を考慮の対象外にした『火山影響評価ガイド』を批判している。
地震・津波・火山などの自然災害に対する新規制基準の想定は、科学的研究の到達点を踏まえたものにはなっているとはいえない。
また女川原発は、東日本大震災で被災した特殊な原発であり、県の「女川原子力発電所2号機の安全性に関する検討会」でも、再稼働に耐えられるかどうかが繰り返し議論になってきた。しかし審査では、議論が原子炉建屋の剛性の問題が中心になり、設備・機械類・計器類の被災の検証も安全性の検討も不十分なままである。
女川原発は、繰り返し巨大地震と大津波を発生させている日本海溝沿いの震源域に最も近い原発であり、宮城県民は「次の原発事故」に不安を抱かざるをえない。
新規制基準には住民被ばくの可能性を増やす「改悪」の側面も
新規制基準に関して見過ごすことができないのは、原発の敷地境界での最高被ばくを「甲状腺に対して3Sv、全身に対して0.25Sv」と決めてあった「原子炉立地審査指針及びその適用に関する判断の目安について」(1964年制定)を、今後は適用しないと決めたことである。福島第一原発事故で、立地審査指針の約1000倍の被ばくがあったため、適用を続ければほとんどすべての原発が立地を失うからである。
立地審査指針に代わるものが制定されていないため、住民の被ばく限度が無くなっている。一方で、格納容器損傷事故を防ぐためにベントを多用する方針に転換したため、住民の被ばく機会が増えることになる。女川原発ではフィルターベントともに、直接ベント管も温存される。立地審査指針の事実上の廃止と、「止める、冷やす、閉じ込める」から「止める、冷やす、放出する」への転換は、制度の改悪であることを指摘しておく。
「深層防護」の第5層=避難計画はまったく審査されていない
規制委は、「原子力災害対策指針」を策定していながら、審査では指針に基づいて策定された自治体に避難計画の実効性をまったく検討していない。その理由を規制委は、災害対策基本法が、原子力災害時の避難に関しては、地方自治体を中心にした地域防災会議に権限を委ねているからだと説明している。
しかし、IAEA(国際原子力機関)で採用されている「深層防護」の考え方によれば、その第5層において、原子力規制機関による緊急時計画等の整備が必要だとされている。短時間で広がる放射能への迅速な対応や、他都道府県にまたがる広域的な避難行動は国が全面的に統括すべきであり、重大事故時に住民の深刻な被曝を回避することができない場合に規制委は稼働を認めない措置をとるべきである。
女川原発再稼働の中止を求める運動へ参加を!
新規制基準は、国民のコンセンサスがないままに策定され、適合性審査は全体として国民の安全よりも既存原発の再稼働に道を開くことが優先になっている。
関西電力の高浜原発に関わる闇献金事件で、原発マネーが原子力行政を歪めていることがあらためて浮き彫りになった。原子力規制庁の職員は約1千人だが、うち150人以上が電力会社や原発関係企業からの出向社員で占められており、中立・公正な原子力行政は期待できない。
どんな世論調査でも多数の国民が再稼働に反対しているのは、国民が原子力行政の正当性を疑問視しているからである。
女川原発が重大事故を起こさずに運転終了を迎えたとしても、処理する方法がない「核のゴミ」を増やすだけである。
原発は、もうビジネスとしても成り立たなくなっている。
正すべきは、原発に固執している政治である。「原発ゼロ」法を制定して、再生可能エネルギの開発・普及による希望ある未来に踏み出すことが今こそ求められている。
多くの県民のみなさまが、規制委のパブリックコメントに対して意見を提出すること、女川原発の再稼働中止を求める運動に参加していただくことを心から呼びかける。
女川原発の再稼働を許さない! みやぎアクション
原発問題住民運動宮城県連絡センター