昨年(2017年)3月に福井県池田町の中2男子生徒が担任の行き過ぎた叱責が原因で自殺した事件がありました。この問題に関わって福井県議会が昨年末の12月19日、教育行政の抜本的な見直しを求める意見書を可決しました。
意見書は、「学校の対応が問題とされた背景には、学力を求めるあまりの業務多忙もしくは教育目的を取り違えることにより、教員が子どもたちに適切に対応する精神的なゆとりを失っている状況があったのではないかと懸念するものである」と指摘しています。そして多忙の原因を、「学力を求めるあまりの業務多忙」とも指摘しています。
ここでいう学力とは、「全国学力 テストでの成績」も含まれています。文部科学省(文科省)の実施する全国学力テストで、福井県は10年連続で上位の成績を続けています。それが教員の多忙を生み、生徒と適切に向き合えず、自殺につながったという認識の下で、福井県議会はこれを反省的にふりかえり、次のように意見書に述べています。
「このような状況は池田町だけにとどまらず、『学力日本一』を維持することが本県全域において教育現場に無言のプレッシャーを与え、教育、生徒双方のストレスの原因となっていると考える」 「これでは、多様化する子どもたちの特性に合わせた教育は困難と言わざるを得ない」
意見書は、文科省が推し進めてきている学力重視、全国学力テストの成績重視に対する鋭い批判があります。そして、多様化する子どもたちの特性を伸ばしていくためには、学力日本一にこだわらず、生徒一人ひとりに教員が向き合える教育環境が必要だと訴えています。
宮城県は不登校が全国一という状態が続いています。
意見書は、教職員の多忙化解消はもとより、現場の教職員の声に耳を傾けることを呼びかけていることが秀逸です。
全文を一読することをお薦めいたします。
福井県の教育行政の根本的見直しを求める意見書
本年3月、池田中学校で起きた中二男子生徒が校舎3階から飛び降り自殺するという痛ましい事件については、教員の指導が適切でなかったことが原因との調査報告がなされた。これを受け、文部科学省から再発防止に向けた取組みを求める通知が出されるなど、全国的にも重く受け止められており、福井県の公教育のあり方そのものが問われている事態であると考える。
本来、教員は子どもたち一人ひとりに向き合い、みんなが楽しく学ぶことができる学校づくりを推進する意欲を持っているはずであるが、最長月200時間を超える超過勤務があるなど、教員の勤務実態は依然として多忙である。
池田中学校の事件について、学校の対応が問題とされた背景には、学力を求めるあまりの業務多忙もしくは教育目的を取り違えることにより、教員が子どもたちに適切に対応する精神的なゆとりを失っている状況があったのではない かと懸念するものである。
このような状況は池田町だけにとどまらず、「学力日本一」を維持することが本県全域において教育現場に無言のプレッシャーを与え、教員、生徒双方のストレスの要因となっていると考える。
これでは、多様化する子どもたちの特性に合わせた教育は困難と言わざるを得ない。
日本一であり続けることが目的化し、本来の公教育のあるべき姿が見失われてきたのではないか検証する必要がある。
国においても、主体的に学ぶ力や感性を重視する教育課程の改善等が議論されている今、学力日本一の福井県であるからこそ、率先して新たな教育の方向 性を示すべきであり、痛ましい事件の根本の背景をとらえた上で、命を守ることを最優先とし「いま日本に必要な教育」「真の教育のあり方」を再考し、今後 二度とこのような事件を起こさないために、下記の点について、福井県の教育行政のあり方を根本的に見直すよう求めるものである。
記
1 義務教育課程においては、発達の段階に応じて、子どもたちが自ら学ぶ楽しさを知り、人生を生き抜いていくために必要な力を身につけることが目的であることを再確認し、過度の学力偏重は避けること。
2 知事の定める教育大綱は本県全体の教育行政の指針であるが、その基本理 念実現のための具体的方策までを教育現場に一律に強制し、現場の負担感や硬直化を招くことがないよう改めること。
3 教員の多忙化を解消し、教育現場に余裕をもたせるため、現場の多くの教員の声に真摯に耳を傾け、本来の教育課程に上乗せして実施する本県独自の 学力テスト等の取り組みを学校裁量に任せることや、部活動指導の軽減化を 進めるなどの見直しを図ること。
4 感情面の不安定さなど発達障害傾向の子どもが増えていることを踏まえ、医療・福祉分野との連携、家庭との連携や、教員や養護教諭に対する研修時間の確保など、学校での生徒理解(カウンセリングマインド)の徹底を図ること。
以上、地方自治法第99条の規定により意見書を提出する。
平成29年12月19日 福井県議会