「はだしのゲン」を閉架にした松江市教育委員会の対応に『沖縄タイムズ』が社説で「平和 考える機会 奪うな」と訴えた[2013年08月24日(Sat)]
沖縄タイムズ
社説[はだしのゲン「閉架」]平和考える機会奪うな
子どもたちが戦争の実相に触れ、平和を考える機会を、教育現場から奪うことになりかねない。
松江市立小中学校の図書室で、原爆の悲惨さを描いた漫画「はだしのゲン」が自由に読めなくなった。市教育委員会が、閲覧制限を全市立小中学校に求めたからだ。
措置が明るみになって以来初めてとなる、教育委員の定例会議が22日、開かれた。制限を継続するかどうかの結論は先送りされた。あらためて協議するという。
「はだしのゲン」は、昨年12月に亡くなった漫画家、中沢啓治さんが自身の被爆体験を基に描いた自伝的作品だ。
市教委は「作品自体は高い価値があると思う」と認めつつも、暴力描写が過激だと問題視する。旧日本軍によるアジアの人々への残虐行為などだ。「教員のフォローが必要だ」と学校側に「閉架」措置を要請した。
だが、教育委員の会議では諮られておらず、校長へのアンケートでも、制限が必要と答えたのは約1割の5人にとどまっていた。
作品には、確かに残酷な描写はある。だが、描かれた惨状は戦争そのものである。
克明な描写には少年誌への連載当時も批判が寄せられた。しかし、作者の中沢さんは「現実から逃げるな」とはねつけたという。
各教育委員には、この物語に込めた作者の信念、そして戦争のむごたらしさを子どもたちに伝えてきた役割を、いま一度、思い起こしてもらいたい。「閉架」要請は撤回すべきだ。子どもたちが、図書室で自由にこの作品を手に取る機会は保障してもらいたい。
■ ■
閲覧制限の発端は、昨年8月、「はだしのゲン」を学校の図書館に置かないよう求める市民からの陳情だった。市議会は同年12月に不採択としたものの、「大変過激な文章や絵が占めている」との意見が出たことから、市教委で取り扱いを協議した。
下村博文文部科学相は「子どもの発達段階に応じた教育的配慮は必要」と松江市教委の判断に理解を示した。
しかし、子どもたちは、たとえすぐに全てを理解できなくても、胸をえぐられるような感情を通し、本質をつかみ取る力を持っている。だからこそ世代を超えて読み継がれてきたのだ。
一部の指摘をきっかけに、開かれた議論も十分ないまま自主規制に走る姿勢は疑問だ。
■ ■
教育委員会が教育現場に介入する事例が相次いでいる。
国旗掲揚と国歌斉唱に関し「一部自治体で公務員へ強制の動き」と言及した日本史教科書について、神奈川県教委は使用を希望した高校に再考を求めた。東京都教委なども「不適切」との見解を示した。
これまで自由に読めていた蔵書に許可が必要になった。これまで現場が判断していた教科書選択で、見直しが求められた。なぜか。
安倍晋三首相は全国戦没者追悼式の式辞で、アジア諸国への反省と加害責任に触れなかった。安倍政権の歴史認識に象徴される「空気」が背景にないか、注視する必要がある。
社説[はだしのゲン「閉架」]平和考える機会奪うな
子どもたちが戦争の実相に触れ、平和を考える機会を、教育現場から奪うことになりかねない。
松江市立小中学校の図書室で、原爆の悲惨さを描いた漫画「はだしのゲン」が自由に読めなくなった。市教育委員会が、閲覧制限を全市立小中学校に求めたからだ。
措置が明るみになって以来初めてとなる、教育委員の定例会議が22日、開かれた。制限を継続するかどうかの結論は先送りされた。あらためて協議するという。
「はだしのゲン」は、昨年12月に亡くなった漫画家、中沢啓治さんが自身の被爆体験を基に描いた自伝的作品だ。
市教委は「作品自体は高い価値があると思う」と認めつつも、暴力描写が過激だと問題視する。旧日本軍によるアジアの人々への残虐行為などだ。「教員のフォローが必要だ」と学校側に「閉架」措置を要請した。
だが、教育委員の会議では諮られておらず、校長へのアンケートでも、制限が必要と答えたのは約1割の5人にとどまっていた。
作品には、確かに残酷な描写はある。だが、描かれた惨状は戦争そのものである。
克明な描写には少年誌への連載当時も批判が寄せられた。しかし、作者の中沢さんは「現実から逃げるな」とはねつけたという。
各教育委員には、この物語に込めた作者の信念、そして戦争のむごたらしさを子どもたちに伝えてきた役割を、いま一度、思い起こしてもらいたい。「閉架」要請は撤回すべきだ。子どもたちが、図書室で自由にこの作品を手に取る機会は保障してもらいたい。
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閲覧制限の発端は、昨年8月、「はだしのゲン」を学校の図書館に置かないよう求める市民からの陳情だった。市議会は同年12月に不採択としたものの、「大変過激な文章や絵が占めている」との意見が出たことから、市教委で取り扱いを協議した。
下村博文文部科学相は「子どもの発達段階に応じた教育的配慮は必要」と松江市教委の判断に理解を示した。
しかし、子どもたちは、たとえすぐに全てを理解できなくても、胸をえぐられるような感情を通し、本質をつかみ取る力を持っている。だからこそ世代を超えて読み継がれてきたのだ。
一部の指摘をきっかけに、開かれた議論も十分ないまま自主規制に走る姿勢は疑問だ。
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教育委員会が教育現場に介入する事例が相次いでいる。
国旗掲揚と国歌斉唱に関し「一部自治体で公務員へ強制の動き」と言及した日本史教科書について、神奈川県教委は使用を希望した高校に再考を求めた。東京都教委なども「不適切」との見解を示した。
これまで自由に読めていた蔵書に許可が必要になった。これまで現場が判断していた教科書選択で、見直しが求められた。なぜか。
安倍晋三首相は全国戦没者追悼式の式辞で、アジア諸国への反省と加害責任に触れなかった。安倍政権の歴史認識に象徴される「空気」が背景にないか、注視する必要がある。
タグ:はだしのゲン
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