
ILC(国際リニアコライダー)計画「立ち止まって見直すのも悪くない」ー「読売新聞」が編集委員のコメントを掲載。[2021年01月27日(Wed)]
「読売新聞」が1月17日、国際リニアコライダー(ILC)計画について、「立ち止まって見直すのも悪くない」という、石黒穣編集委員の論説を掲載しました。
素粒子や宇宙の成り立ちを研究することを否定する人はいないと思いますが、ILCについては、研究戦略について専門家の中で合意がなく、技術的な展望も不明確です。東北への誘致の進め方が問題で、経済効果だけを過大に宣伝する一方で、環境への影響などが最近まで説明されないままでした。
この記事は、ILCの必要性そのものが揺らいでいることを指摘したものです。紹介します。
宇宙の根源理論 冷めた熱狂
宇宙の謎に迫る最先端研究が岐路に立っている。
謎を根本から解き明かす最有力理論とされてきた「超対称性理論」について、米シカゴ大教授ダン・フーパー氏は昨年の講演で「10年前の熱狂はない。正しいかどうか怪しい」と行き詰まりを認めた。
理論のカギを握るのが、物質を構成する最小単位である素粒子だ。既知の17種類に加え、同じ数のペアがあるとされ、超対称性粒子と呼ばれる。スイスにある欧州の研究機関セルンの大型加速器は、2012年に17番目の素粒子ヒッグス粒子を見つけてから、超対称性粒子の検出に主眼を置いてきた。
ところが現在に至るまで、超対称性粒子が一つも見つからない。これが理論を揺るがせている。
欧州は、現行の数倍の規模の次世代器を50年ごろに建造し、理論の完成を目指している。こちらも新粒子が出てこないのではもくろみが崩れてしまう。
最先端の理論を巡る潮流の変化は、日本にも及ぶ。東北の北上高地で、セルンの後継となる巨大加速器を誘致する構想「国際リニアコライダー(ILC)計画」を、米欧の研究者と共に進めているからだ。
全長20キロメートルのトンネルを掘って直線状の加速器を設置する。建設費は8000億円と見こまれる。
国際リニアコライダー(ILC)では、光速近くまで加速した電子と陽電子を正面衝突させ、宇宙誕生のビッグバンの超高温を再現する。超対称性粒子そのものが作られることはないが、ヒッグス粒子が多数生まれ、間接的な情報が得られるという。
地域振興に結びつくとして、地元の期待は大きい。米政府も「中国に先を越されてはいけない」と、はっぱをかけてくる。
巨大プロジェクトの実現には、政府の大型研究投資の基礎となるロードマップヘの採択が前提となる。取りまとめ役の高エネルギー加速器研究機構(KEK:茨城県つくば市)は昨年、ロードマップヘの採択をいったん申請したものの、「国際的な協力体制の再編成」を理由に取り下げてしまった。
国際リニアコライダー(ILC)の青写真作りが始まったのは、超対称性理論がブームだった15年前だ。情勢が様変わりする中、理化学研究所の初田哲男博士のように「計画は中途半端だ」と心配する研究者が多いのだろう。
重力波を使えば、138億年前の本物のビッグバンを直接観測することもできる。重力波は米チームが5年前(2015年)に初めて直接観測し、素粒子研究の新しい手段として加わった。
最先端の研究は、重力波観測を優先する選択肢もある。潮流の変化を見逃すことのないよう、国際リニアコライダー(ILC)計画も立ち止まって見直すのも悪くない。
素粒子や宇宙の成り立ちを研究することを否定する人はいないと思いますが、ILCについては、研究戦略について専門家の中で合意がなく、技術的な展望も不明確です。東北への誘致の進め方が問題で、経済効果だけを過大に宣伝する一方で、環境への影響などが最近まで説明されないままでした。
この記事は、ILCの必要性そのものが揺らいでいることを指摘したものです。紹介します。
宇宙の根源理論 冷めた熱狂
宇宙の謎に迫る最先端研究が岐路に立っている。
謎を根本から解き明かす最有力理論とされてきた「超対称性理論」について、米シカゴ大教授ダン・フーパー氏は昨年の講演で「10年前の熱狂はない。正しいかどうか怪しい」と行き詰まりを認めた。
理論のカギを握るのが、物質を構成する最小単位である素粒子だ。既知の17種類に加え、同じ数のペアがあるとされ、超対称性粒子と呼ばれる。スイスにある欧州の研究機関セルンの大型加速器は、2012年に17番目の素粒子ヒッグス粒子を見つけてから、超対称性粒子の検出に主眼を置いてきた。
ところが現在に至るまで、超対称性粒子が一つも見つからない。これが理論を揺るがせている。
欧州は、現行の数倍の規模の次世代器を50年ごろに建造し、理論の完成を目指している。こちらも新粒子が出てこないのではもくろみが崩れてしまう。
最先端の理論を巡る潮流の変化は、日本にも及ぶ。東北の北上高地で、セルンの後継となる巨大加速器を誘致する構想「国際リニアコライダー(ILC)計画」を、米欧の研究者と共に進めているからだ。
全長20キロメートルのトンネルを掘って直線状の加速器を設置する。建設費は8000億円と見こまれる。
国際リニアコライダー(ILC)では、光速近くまで加速した電子と陽電子を正面衝突させ、宇宙誕生のビッグバンの超高温を再現する。超対称性粒子そのものが作られることはないが、ヒッグス粒子が多数生まれ、間接的な情報が得られるという。
地域振興に結びつくとして、地元の期待は大きい。米政府も「中国に先を越されてはいけない」と、はっぱをかけてくる。
巨大プロジェクトの実現には、政府の大型研究投資の基礎となるロードマップヘの採択が前提となる。取りまとめ役の高エネルギー加速器研究機構(KEK:茨城県つくば市)は昨年、ロードマップヘの採択をいったん申請したものの、「国際的な協力体制の再編成」を理由に取り下げてしまった。
国際リニアコライダー(ILC)の青写真作りが始まったのは、超対称性理論がブームだった15年前だ。情勢が様変わりする中、理化学研究所の初田哲男博士のように「計画は中途半端だ」と心配する研究者が多いのだろう。
重力波を使えば、138億年前の本物のビッグバンを直接観測することもできる。重力波は米チームが5年前(2015年)に初めて直接観測し、素粒子研究の新しい手段として加わった。
最先端の研究は、重力波観測を優先する選択肢もある。潮流の変化を見逃すことのないよう、国際リニアコライダー(ILC)計画も立ち止まって見直すのも悪くない。
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