
谷川俊太郎「色」[2024年05月31日(Fri)]
ヤマボウシの季節となった。
*******
色 谷川俊太郎
希望は複雑な色をしている
裏切られた心臓の赤
日々の灰色
くちばしの黄色
ブルースの青にまじる
褐色の皮膚
黒魔術の切なさに
錬金術の夢の金色
国々の旗のすべての色に
原始林の緑 そしてもちろん
虹のてれくさい七色
絶望は単純な色をしている
清潔な白だ
『自選 谷川俊太郎詩集』(岩波文庫、2013年)より
◆「複雑な色」の「希望」に始まり、「絶望」の「清潔な白」に終わる。
それぞれを入れ替えても、つまり、対応する色を取り替えても、あるいは、「絶望」から始めて「希望」で終わっても、平仄が合うように見える。「詩」らしい体裁はととのう(ように一瞬思う)。
だが、この形でなければならない。詩人の人生観や死生観によるからだ(そんなもの……と言われそうだが)。
そんな言い方は大げさだろうか。
世界と擦れ合ったりぶつかったり離れたりして言葉が生まれてくるその成り行きは、取り替えの難しい、むしろ一回切りのものだからだ。