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ノブドウの顔[2023年09月30日(Sat)]

DSCN7244.JPG

ノブドウ。思わず足を停めさせる色のアンサンブルだ。

DSCN7242ノブドウ.JPG

よく見ると、そばかす顔。
気取りのないのがいい。

物語や映画でそばかす顔の人物は思春期の娘さんに多いように思うが、どうだろう?





『ポエトリー・ドッグス』より中江俊夫「みんな」[2023年09月30日(Sat)]

斉藤倫『ポエトリー・ドッグス』の第九夜の後半は、中江俊夫の短い一篇だ。
「たべやすいのに、いつまでも噛みきれない」言葉として、それでいて「噛んでると、どんどん味が出てくる」と言う。


みんな  中江俊夫

ぼくがみんなと言っても
そのみんなの中には ほんとは
人間は入っていない
人間以外のみんな
である
そのみんなが
人間を嫌っている
そうは金輪際思えない
感じられないのが
人間の傲慢だ


出典:中江俊夫『田舎詩篇』(思潮社、一九九七年)


◆良く考えもしないまま僕等は「みんな」と言っていることが多い。
だがこの本の中の「ぼく」は、次のように考え始める。

〈この「ぼく」は、「みんな」というとき、「人間」のそとに出てしまっている。そんな気がする。そして「人間以外のみんな」に語りかけるけど、きっと届かない。それは人間のことばだから。〉

「みんな」=「人間」と信じていられれば、「ぼく」もこの世界の住人であることは自明のはずだが、一回でも上のように考え始めると、「みんな」イコール「人間」ではなくなって、世界は皮膜の下に別の姿を見せ始める。

この詩に促されて考えをめぐらすうちに「ぼく」は次のように思うに至る――

〈この詩は、ひかりの届かない、宇宙の果てのようなばしょでうたわれている、とおもった。〉

◆「人間」という前提を分別なく使うことで実際は排除しているものたち、黙殺しているものたちが存在していることに気づくこと。「人間以外のみんな」の尊厳を深く見つめること、そうしてふさわしい名前で呼ぶこと。
それは自分が自分であることを捉え直すことを抜きにしてなされない点で、刃の上を素足で歩もうとすることに似ているかも知れない。



『ポエトリー・ドッグス』よりE.パウンド「木」[2023年09月28日(Thu)]

DSCN7230.JPG

またもや30℃越えの一日。所用で1〜2時間出かけただけで疲れる。
夕方になっても熱せられた空気がモワッと漂っている。

日の光は明らかに秋めいているのだが。

***


◆ようやく手元に届いた斉藤倫『ポエトリー・ドッグス(Poetry Dogs)』、書評に取り上げていたのだったか、いきさつすら忘れてしまったが、奥付を見ると去年の10月。世に出てから一年近く経っている。お酒ではないが、良い時期に読まれるよう、少し寝かせて置いたような。

◆題名そのままに、犬のバーテンダーが、客のその日の気分に少しだけ香気を加える詩を幾篇か出してくれる、という趣向。アンソロジーというほど天こ盛りでなく、ソフトな語りかけでうっすら霧に包まれた詩の森の散歩に誘ってくれるという趣きの一冊。

◆〈第二夜〉に紹介されている詩を――


木  エズラ・パウンド(小野正和・岩原康夫訳)

わたしは静かに立っている森の中の一本の木で
以前には見えなかった物事の真実や
ダフネとアポロの月桂樹の弓のことや
神々をもてなして森の楡樫になった
年老いた夫婦のことを知っている。
二人が祈りをささげ、
自分たちの心の炉辺に
神々を招き、もてなした時、
初めて神々はそんな不思議なことをしたのかもしれない。
ともあれ、今ではわたしは森の中の一本の木で、
以前わたしの頭では馬鹿げたことに思われた
数多くの新しいことを知ったのだ。


*詩の出典:エズラ・パウンド『消えた微光』小野正和・岩原康夫訳(書肆山田、一九八七年)

※木になった老夫婦とはバウキスとピレーモーン(オウィディウスの『変身物語』)の話をふまえる。

◆人間が木を見上げてさまざま思う詩ならたくさんあるだろうが、木に変身する話は神話の世界だ。
木を通して、では、狭く薄っぺらい観念の世界にとどまる。
そうではなく、木そのものになる。

神話を信じなくなった現代人に、忘れている世界に直に招じ入れるのは、詩の不思議な力である。




横浜米軍機墜落事故46年[2023年09月27日(Wed)]

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*******


鎌田慧氏が1977年9月27日の横浜米軍機墜落事故について書いていた。抄録しておく。


平和の中の戦死
  基地がある限り平時でも軍隊によって殺される
      鎌田慧


27日は、米海兵隊ファントム・ジェツト機が住宅地の真っただ中に飛び込んだ横浜米軍機墜落事件から46年。
2人の乗員はパラシュートで脱出したが、被害に遭った民家の母子3人は全身大火傷。
3歳の長男は「パパ、ママ、バイバーイ」と他界。次男は「ハトぽっぽ」を歌って亡くなった。
母親は皮膚提供の善意を受け、70回もの移植手術をしたが、4年後に死亡した。
この事故はテレビドラマや絵本になった。
基地がある限り平時でも軍隊によって殺される。
日本にある米軍基地の7割を押しつけられている、沖縄の危険性は想像を絶する。


(2023年9月26日「東京新聞」朝刊「本音のコラム」より)

◆神奈川における米軍機墜落事故はこれだけではない。
1964年9月8日には大和市の鉄工場への墜落で5名が亡くなっている。
同じ日には相模川に米機が墜落して乗員2名が死亡している。
最初の東京オリンピック開幕直前に相次いだ大事故だ。
(同じ年の4月には、神奈川のすぐ隣、町田市に沖縄から厚木基地へと飛んできた米軍機が墜落、市民4名が死亡、30名余も重軽傷者を出している。)

基地あるゆえの市民の犠牲だ。

◆ウクライナ戦争だけではない。パレスチナ、アゼルバイジャン……軍隊を持つゆえの悲劇が相次ぐ。
武器や戦術がどう進化しようと、人間が人間の命を奪う本質は全く変わらない。

対話による解決を目指すはずの国連の機能不全を嘆くより、相手を非難するしか能がない大人たちは、即刻退場してもらったらどうか。
代わりに、カネも力もない子どもたちに最大限の権限を保障し、大人はそれに従う義務を負うことにする。
チト少年のような子どもが1クラス分ぐらい集まったら、たいがいのことは平和のうちに解決するのではないか?

チト少年:モーリス・ドュリオン『みどりのゆび』の主人公。武器を花に、基地や兵器製造工場を緑豊かな花園に変えてしまう不思議な力を持つ。(安東次男訳。岩波おはなしの本)

***

【関連記事】

《愛の母子像ー1977年9月27日》[2015年9月26日]
https://blog.canpan.info/poepoesongs/archive/188

《横浜米軍機墜落事故から40年》[2017年9月27日]
https://blog.canpan.info/poepoesongs/archive/633






銀杏の若木[2023年09月26日(Tue)]

DSCN0705.JPG

銀杏の実が密生した葉からこぼれるように顔を見せていた。色はまだ青々としている。

勤めていた学校のすぐ近くで、周辺は良く通ったはずだが、この銀杏は記憶にない。10年あまり前は未だ若木だったのだろう。ちょうど放課の時間、三々五々下校する生徒たちがすぐ近くを歩いてゆく。


DSCN0707.JPG

5〜6メートルほどの銀杏は、畑の一隅で伸びるに任せてある様子。
気取ったそぶりの微塵もないのが、若者たちの通学路に似つかわしい。




「らんまん」――女たちのリレー[2023年09月25日(Mon)]

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3メートル以上もありそうなサボテン、やがて咲く花を天に差し出すようにして立っていた。

*******

◆朝のNHK連続テレビ小説、「らんまん」が最終週に入った。

東京郊外に妻・寿恵子が広い土地を買い求め、植物いっぱいの園にする夢を語る。

そのあと、一気に時計が進み、1958年、ドラマのモデル、牧野富太郎(ドラマの中では槙野万太郎)が亡くなった翌年の話に飛ぶ。今週の物語全体の枕として置かれた場面のようだ。

◆槙野植物標本館に藤平紀子宮崎あおい。ドラマの語り手でもある)という女性が訪ねて来た。
遺品を片付けるアルバイトと思ってやってきたのだが、槙野の娘・千鶴(ドラマ最初で祖母役だった松坂慶子が万太郎の娘として再登場)から、メモや日記を手がかりに40万点にも及ぶ標本の分類・整理をする仕事と説明されて当惑する。
仕事の重大さを知って、とても引き受けられないと思った紀子は、バイトの話を断って帰ろうとする。

そこからの演出とセリフに引き付けられて、最後まで観てしまった。

◆帰ろうとした紀子の足を、風で揺れる笹の葉が引き止めた。
(画面はスエコザサの葉にピントが合わせられる)
呼び止められたように思えたのだ。

紀子は標本館に引き返して千鶴に言う――

【紀子】「この標本、守ってきたってことですよね、関東大震災、それから空襲も……。
20年3月、東京大空襲……私、17でした。覚えています。どんなに恐ろしかったか。
――あの、地獄の中、炎の中を、ご家族の皆さんが、これだけの量を守り抜いて来たってことですよね。」


(震災による大火のシーンが挟まる:「火が移る。捨てろ」と言われても標本を守り抜こうとする万太郎――「これは残すもんじゃ。この先の世に残すもんじゃ!」)

【紀子】「私も戦争を生き抜きました。次の方に渡すお手伝い、わたしもしなくちゃ。」

***

◆ドラマの作者長田育恵井上ひさしに師事した人という。
井上ひさしのメッセージ「後に続くものを信じて走れ!」(『組曲 虐殺』)が、紀子のセリフに脈々とに息づいている。
寿恵子・万太郎の生き方、彼らが守ろうとしたものを引き継ぐ仕事と腹をくくった紀子の、「次の方に渡すお手伝い、私もしなくちゃ」。観る者も背中を押されずにいない。

◆最終週のサブタイトルは「スエコザサ」。
破天荒で周囲に迷惑かけ通しの男を中心に据えたTVドラマと決め付けて、観ずに過ごしてきたが、「スエコザサ」をめぐる良妻賢母の美談に済ませない描き方に引き込まれた。

今日の冒頭には、寿惠子「私、やり遂げました」というセリフもあった。

”夫を支える妻”という道徳教科書の人物ではなく、自分の背骨を持った個人として生き抜き、次へと引き継ぐ――そのような女たちのリレーを太い線で描いていると気づかされた。




魔女の指?[2023年09月24日(Sun)]

◆田んぼを指さす不思議な物体を見つけた。

DSCN7341ビロードモウズイカ−A.jpg

焼け焦げた魔女の腕のように見える。
長い爪は何を指さしているのか。

近づいて「腕」の真後ろから撮ったのが下の写真。

DSCN7342-C天鵞絨毛蕊花ビローモウズイカ.jpg

さらに左方に回って反対側からも撮影。

DSCN7344-B.jpg

コンクリートの縁に根のような塊が引っかかっているみたいだ。
長さは2メートル近くあろうか。

***

◆先日の大雨で流されたのが引っかかっているのだろう。
焦げたトーチのようにも見える。

そう言えば……この付近で柱状の棒に黄色い花を次々と咲かせていたのがあったはず――過去に撮影した植物で名前が判明したものだけを入れたフォルダを探した――。

あった!
一昨年の秋、同じ辺りに咲いていたものだ。

201122ビロードモウズイカDSC_0025.jpg

ビロードモウズイカ(天鵞絨毛蕊花)」と名が記録してある。

その前年の夏に撮った正面の姿もあった。

DSCN1229ビロードモウズイカ.JPG

肉厚の葉も蕾も天鵞絨のような白い綿毛に覆われているので「天鵞絨」という名がついているのだろう。

猛暑、ついで強雨に見舞われて倒れながらも何事かを伝えようとした「魔女」のメッセージ、それは一体何だったのだろう?




田んぼを見守るものたち[2023年09月23日(Sat)]

◆境川の東、田んぼをしっかり見守っている者がいた。
(横浜市泉区側の天王森泉公園前の案山子コンクール、今年はないみたいだが、そのぶん、持ち場で本来の職務に専念、という趣。)

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ミニ扇風機の風を顔に当てながら歩くのが大はやりの2023年。
案山子も右手に立派な羽を回しながら立っていた。



DSCN7299-A.jpg

境川をはさんで西の藤沢側、整然とワラ立てを済ませた田が一枚。

こちらではサギが稔りを確かめるごとく歩いていた。

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雑草たちも花ひらく[2023年09月22日(Fri)]

◆ようやく日中の外気温が29度ほどになった。

◆目立たぬが花を咲かせている路傍の雑草たちをいくつか。

DSCN7292アレチウリA.JPG

アレチウリ。
大きな緑葉を背景に蔓が伸び、白い小さな花が咲く。



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カヤツリグサ。これも不思議な姿。
茎の上部から数方向に分岐し、直線上に伸びて粒状の花穂を付けるみたいだ。




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イタドリの花にベニシジミが休んでいた。




ハキダメギク[2023年09月21日(Thu)]

DSCN7334ハキダメギクB.JPG

ハキダメギク。ひっそりと道端に咲いていた。
よく見ると小さな白い花びらが飛び飛びに付いているのもあって、子どものすきっ歯のように愛らしく見える。アメリカ産の帰化植物だそうだ。

花の名は、かの牧野富太郎が付けたというが、気の毒な命名ではある。

*(牧野富太郎は、研究を支えた夫人の労苦に報いるべく、発見した新種の笹に「スエコザサ」と命名したという話が、道徳の検定教科書に載り、夫を支える女性という価値観を押しつけるものでは、と話題になった。TVドラマ「らんまん」では、そのあたり、どう描かれているんだろうか。)



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