
志樹逸馬「生」[2022年11月30日(Wed)]
◆若松英輔が編んだ『新編 志樹逸馬詩集』(亜紀書房、2020年)が手に入った。
生 志樹逸馬
生はいつも
はじけている 砕けている 転がっている
生はいつも
まっしぐらに進んでいる
涙があり 笑いがある
しかし人は
そこに留まっていることをゆるされない
呼吸はいつも
足音のように胸のうちでなり
風はいつも
生を洗いたててやまない
人が ひっくりかえろうと つまずこうと
前へ押し出されてしまうのだ
◆前に志樹逸馬(1917〜59)の詩を読んだのは11月6日だった。
いま振り返れば、奇しくも相棒ポーが私たちとの最後の夜を眠っていたころに、志樹の「曲がった手で」を読み、短い感想を綴っていたのだった。
手に水をひたしながら自分の中にもある水、命の根源を養うものを感じさせる詩であった。いわば「水」をモチーフとして、沈思の表情の生、「静」の状態の生を表現していた。
◆この詩は対照的に、はじけて、砕けて、転がる生、つまり動態の生を表現している。
60年以上も前の詩に「はじける」という言葉が生動していることに驚く。
◆この詩のモチーフは「風」だ。
わが身を翻弄し生へと駆り立てる風、それは自分の中にも吹いている。
「足音のように胸のうちで」なる呼吸とは、生の真っただ中に在るわれと世界の息吹そのものだ。
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【11月6日の記事】
★志樹逸馬「曲った手で」
⇒https://blog.canpan.info/poepoesongs/archive/2491