アフガニスタンの邦人帰還
何が何でも自衛隊機派遣ありき?◆昨日8月25日夜のスカ首相記者会見、質疑のところでアフガニスタンの邦人帰還について質問があり、首相からは”自衛隊機を派遣したところであり”ウンヌンの答弁があった。
これについて腑に落ちない点がいくつかある。米軍撤退の期限が迫る中、自衛隊機派遣が自明のことのように報道され、あるいは詳細が報道されない状況らしいことに注意を払っておく。
◆同じ8月25日の昼ころ、追加派遣されるはずだった
政府専用機が「準備が整わない」という理由で北海道千歳に戻った、というNHKの報道があった。
オヤ?と思った。「整わない」「準備」の中味がどういうものか、記事では説明も示唆もされていない。
25日夜の首相会見での記者質問は、これを含めた日本政府の対応について質したものと思われたが、首相からは戻った飛行機について言及はなく、現状(アフガニスタンの在留邦人や外務省・防衛省の対応、帰国の見通しなど)に関する説明もなかった。NHK9時の会見中継はその後スタジオに移ったため、記者から追加質問があったかどうか分からない。
◆政府専用機派遣の「足踏み」は首相として当然把握しているべき情報のはずだが、ひょっとして首相の意識から「飛んで」しまっていないか?という疑念が浮かぶ。
あるいは、首相自身がこうした重要情報の「蚊帳の外」に置かれていやしないか、という疑念すら浮かぶ。
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◆ここまでの自衛隊派遣をめぐるNHKニュース、現在ネットに以下の2件がアップされている。
★【NHK NEWSWEB 2021年8月25日 14時30分】アフガン退避 追加派遣の政府専用機 基地に戻る「準備整わず」⇒
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210825/k10013222271000.html★【NHK NEWSWEB 2021年8月25日 5時07分 】アフガン退避で政府専用機派遣へ 自衛隊員や物資を輸送2021年8月25日 5時07分 アフガニスタン
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https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210825/k10013221541000.html?utm_int=detail_contents_news-related_008◆両記事を読めば、すでに24日、航空自衛隊のC2輸送機1機とC130輸送機2機は活動拠点のパキスタン、イスラマバードに向かったようだ。
今回(愛知県小牧から)千歳に戻った専用機は旅客機タイプの政府専用機で、自衛隊員を乗せるために飛ぶ予定だったらしい。
また、上の2つ目の記事によれば、隊員を届けたあとは帰還邦人等を乗せるのではなく、カラで帰国する予定らしい。その理由の説明も欠いた不可解な記事である。
C2輸送機1機とC130輸送機2機に都合どれだけの自衛隊員が乗っていたのかという点も記事は伝えていない。
「邦人等」の「等」に他国の軍関係者が加えられる恐れはないのか。
混乱の中、別のリスクにさらされる恐れはないのか、問題を洗い出す姿勢に欠けた報道だ。
◆そもそも自衛隊機の派遣が決まった経緯について政府はどの程度説明して来たか、24日時点の次の記事を読むと、疑わしい点が浮かんでくる。
★【
J-CASTニュース 8/24(火) 18:38配信】
「唐突」な自衛隊機のアフガン派遣 決定3日前も言及なかったのに...野党は「説明不足」指摘⇒
https://news.yahoo.co.jp/articles/8c15b9a077fdf496439979dee20159cf464ab6c0◆この記事によれば、日本大使館は8月15日に閉館、大使館員12人は17日に英国軍機でアラブ首長国連邦(UAE)のドバイに退避した、とある。
岸信夫防衛相は8月20日の記者会見で、自衛隊機ではなく英国軍機で退避した理由を説明しているが、自衛隊機の派遣については「外務省にお問い合わせを」と述べるにとどめていた。
自衛隊機派遣や隊員を運ぶ旅客機型政府専用機派遣は、その後政府として大きく方針変更したことであるのは明らかなのに、政府からの説明はアイマイであり、メディアの追及も弱い。
◆岸防衛相の「外務省にお問い合わせを」というコメントは、自衛隊法にある「在外邦人等の輸送」の定めが念頭にあったからだ。
2013年1月のアルジェリアの石油プラント襲撃により邦人10人が犠牲となった事件をふまえて改正された、次の条文である。
(在外邦人等の輸送)
第八十四条の四 防衛大臣は、外務大臣から外国における災害、騒乱その他の緊急事態に際して生命又は身体の保護を要する邦人の輸送の依頼があつた場合において、当該輸送において予想される危険及びこれを避けるための方策について外務大臣と協議し、当該輸送を安全に実施することができると認めるときは、当該邦人の輸送を行うことができる。この場合において、防衛大臣は、外務大臣から当該緊急事態に際して生命若しくは身体の保護を要する外国人として同乗させることを依頼された者、当該外国との連絡調整その他の当該輸送の実施に伴い必要となる措置をとらせるため当該輸送の職務に従事する自衛官に同行させる必要があると認められる者又は当該邦人若しくは当該外国人の家族その他の関係者で当該邦人若しくは当該外国人に早期に面会させ、若しくは同行させることが適当であると認められる者を同乗させることができる。◆
外務大臣からの要請が要件となっている。武器使用もありうる自衛隊の活動をきちんとコントロールするための、法的なシバリである。
これが有効に機能しているか、チェックを行うのは国会やジャーナリズムの役割であるはずだ。
ところが、自衛隊の派遣に関する外務大臣からの依頼や協議について、その有無を報じた記事が見あたらない。
こうした手続きは
そのつどしつこく確認すべきことだ。自衛隊という「実力組織」をシビリアンコントロール下に置くために必要なことといってよい。
(災害時の自衛隊出動要請も自治体の要請を受けて、という手続きが必要であることも、同じ意味がある。)
◆いち早く大使館員(12名と伝えられている)だけがアラブ首長国連邦(UAE)のドバイに退避した、という話だが、JICAなどの邦人や現地スタッフで国外退避を希望する人たちの概数や待避手順など不明な点は多い。
なのに、自衛隊派遣方針が報じられて以降、「防衛省は〜」という主語で書かれた記事ばかりになっている。「外務大臣は」どう判断しているのか、協議や情報共有がなされているのか、”オペレーション遂行のための「機密」”などとごまかさない説明責任を政府に厳しく追及することが欠かせないはずだ。
たとえばタリバン暫定政権との交渉ルートは確保しているのか、米・英頼みの状態なのか。質すべき点はいくらでもある。
外務省、防衛省ほか関係組織に執拗に取材するのが国会やジャーナリストの務めだろう。
◆そうした観点からすれば、上記J-CASTのニュースの見出し、”野党は「説明不足」と指摘”、とノンビリしたものだ。
政府が説明しないのなら、「政府は説明を回避」と報じるべきで、野党にその役目を預けて済む話ではない。
国会は憲法を無視して閉会したままの異常事態の中、メディアは政府方針の変更について政府に説明を求め、市民に判断材料を示す責務がある。
自衛隊派遣がいつのまにか既定路線のように扱われ、国民もそれを容認、という雰囲気が作られていくのが最も危険だ。
◆8月24日のBSの
TBS「報道1930」で、
河野克俊・前統合幕僚長が民間機でなく自衛隊が現地に飛ぶことが国民に与える心理的効果を説いていた。自衛隊は頼れる存在というイメージを浸透させる戦略が念頭にあることを物語る。
空港内外の混乱が正確には伝わらず、不測の事態も想定すべき状況なのに、自衛隊活躍の好機、という発想が政府中枢を支配しているなら、危うい限りだ。
米軍撤退期限に近づくほど、混乱と生命の危険は高まる。
自衛隊派遣の主目的が、混乱に乗じて自衛隊の存在感を誇示するためではないことを願う。