
カモ、飛んだ。
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◆さるチェーンストアのポイントが終了し、電子マネーの機能をもったカードに移行するというのでやむなくそれに切り替えた。
カード類は落とす恐れがあるのでいわゆるキャッシュカードは持たない主義でやってきた。チャージ機能のあるカードも、交通系カード以外は持たないようにして来た。政府は消費税アップと同時にキャッシュレス決済に特典を与えてその普及を図ったが、個人のさまざまなデータやお金が見えない形で動かされるのは不気味である。同じ理由でマイナンバーカードも作るつもりはない。
◆機械を信用して平気でいられるのは実害を蒙らない間の話で、イザわが身に損失が及べば地団駄を踏むことになるだろう。
しばしば過ちをしでかす人間が作ったもので世の中ができている以上、いくら精密周到に作られても間違いは起きる。
現に神奈川県庁で使っていたハードディスクがデータ復元可能な状態でネットで売られていたのだし、新潟では中学生がスマホから学校のサーバーにアクセスして自分の成績を改竄した中学生が現れて世間を驚かせたが、今さらびっくりしてどうする。
そういうことはありうると覚悟していたほうがよいし、悪意ある人物やうっかりのミスを想定してシステムや制度は作って置くものだろう。
◆さて、くだんの電子マネーカード、チャージして支払いに何度か使ってみたものの、ドキドキ感がぬぐい去れない。
チャージする端末の指定された枠の上に置いて機械が処理するのを待つ間、画面に「カードを動かさないで下さい」と出る。
高齢者は手が震えるものだ。あるいは、ごった返している店内で、ふらついたり誰かが接触した拍子に体を支えようとしてカードを置いた台に触れてしまうことだってないとはいえまい。
チャージ中や支払い中にもし動かしたらどうなるか。
やってみればいいのだが、その勇気が出ない。たぶん、読み取れない場合はやり直しできるように設計されているのだろうけれど、根拠のない推測や期待でしかない。読み取り間違いは絶対にない、と言い切れるのかどうか。
◆カードはガソリンスタンドでも使えるものだったので、給油の際にトライしたのだが、ここでキモを冷やした。
十分残高があることを確認し、前回給油時の1円割引券を読み取り部分にかざし、支払いにカード使用をタッチするのだが、うまく行かない。
3度やり直してようやく支払いに進む。
「カードを読み取り部分にかざして下さい」と指示が出る。
かざしたとたん、「全額収納(だったか「徴収」だったか)しました」と画面に出た。
エーッである。未だ給油していないのに根こそぎ吸い上げられた、ということか。
慌てた。カードから音もなく数千円がそっくり消えた。
これまでは紙幣を何枚か入れて給油し、ガソリンを入れ終わるとレシート兼精算券が出てくる手順だった。その方式も有無を言わせずお札を呑み込んでいく機械だという印象はあった。しかし財布にはいくばくか残っている。
だが、カードで「全額収納」と出ると、すべて持っていかれたという感じがしたのである。
品物が先で支払いは後、という通常の順番は無視されて、前払い方式だという点は同じわけだが、そう思い直す余裕がない。お釣りの処理はどうなるのか、先を想像する余裕はむろん、全くない。
しかも、給油は未だ1ccもやってないのである。
しかしここであわてて中断したら巻き上げられたままになるかも知れない。
気を取り直してノズルを給油口に入れた。
ここから先はこれまでと同じ手順。それでも「全額収納」が、これまでのやり方と同じであることには未だ思い至らない。
◆満タンにしてノズルを戻すと、画面には再びカードをかざすようにとの指示。
恐る恐るカードをかざすと……代金とお釣りを示す画面に変わり、お釣りはカードにチャージされて戻って来たらしい。
ふーっ、やれやれ、である。
前払い方式なのはこれまでのセルフ給油と同じ、違いは紙幣がキュルキュル呑み込まれていくアナログさに対し、カード支払いは全く「支払った」手応えがないこと。
そうして、一気にかすめ取られた、という感じに襲われることである。
底なし沼にハマったような、というか、精気を奪われて足先に力がなくなるような、と言おうか。
ジャパンライフやかんぽ同様に、高齢者はよく分からぬままカモにされている、という感じがぬぐえない。
この感覚に果たして慣れることができるだろうか。