にほんのひのまる なだてあがい[2026年09月02日(Wed)]
木村迪夫詩集『わが八月十五日』より
祖母のうた
しゅっせぐんずん*1は
いくさのかどに
ははつまよんで
わしのいねあど
このこたいせつに
もしもせんそうにでたとのしらせ
きいたとて
なくな
なだてなきましょ
わしもあなたのははじゃもの
みくにのおんためすすみゆけ
のこるこのこはいとわねど
のこるははつま
みのほまれ
*
まけてしぬのはなさけなや
だれもありがたさあもない
いだいからだではたらいて
このうづ*2たてねでおられよか
*
しろきいはいのまえにでて
もみじのようなてをあわせ
おっちゃんかたきはアメリカと
ほんにアメリカてきじゃもの
ふたりのこどもをくににあげ
のこりしかぞくはなきぐらし
よそのわかしゅう*3みるにつけ
うづのわかしゅういまごろは
さいのかわらでこいしつみ
*
おもいだしてはしゃすん*4をながめ
なぜかしゃすんはものいわぬ
いわぬはずじゃよ
やいじゃもの*5
*
じゅうさんかしらで
ごにんのこどもおかれ
なきなきくらすは
なつのせみ
*
なんのいんがか
いくさのたたり
みせものうづになりました
*
にほんのひのまる
なだてあがい
かえらぬ
おらがむすこの ちであがい
*
おれのうたなの
うただときくな
なくになかれず
うたでなく
*
おごさま*6
おごさま
なにくておがる*7
うらのはたけの
クワくておがる
おがたおこさま
なさけがあらば
たおれたおらえのうづおば
ごてんにしてよ
*1 しゅっせぐんずん――出征軍人のこと
*2 うづ――家のこと
*3 わかしゅう――若衆のこと
*4 しゃすん――写真のこと
*5 やいじゃもの――焼きつけたもののこと
*6 おごさま――蚕のこと
*7 おがる――育つ
日本現代詩文庫『木村迪夫詩集』(土曜美術出版社、1995年)より。
原詩集『わが八月十五日』は1978年4月、たいまつ社から刊行され、同年、山形県詩賞を受けた。
◆農民詩人として知られる木村迪夫(「迪」のしんにゅうは「テン」2つ)は今年6月に亡くなった。
特に、
〈にほんのひのまる
なだてあがい
かえらぬ
おらがむすこの ちであがい〉
と、息子二人(迪夫の父・木村文左エ門とその弟・良一)の戦死に接して三日三晩泣きとおした果てに唄いはじめた「祖母のうた」を録し、戦後の日本人に衝撃を与えたことで知られる。
山形県南村山郡東村(あずまむら)牧野(現・上山市牧野)に1935年10月9日に小作農の長男として生まれた。 2026年6月16日に没す。享年90。



