玉井國太郎「叙景」[2026年05月14日(Thu)]
叙景 玉井國太郎
流れる水にまたたく
ことばのひかり
意味する前に
消えてゆく
蒼ざめたひろがり
花の方へ
鳥たちの方へ
かたむいてゆく
風のつま先 石の瞳
影のない世界のくちびるは
うなだれて
時の渚に
打ち寄せる
永遠の間近に
立ちすくむ
涙をいっぱいにためた眼差しは
せせらぎの椅子に腰かけて
てのひらの小舟を
空に浮かべた
北の星へと旅立つ
やわらかい乗り物
涙のへさきは
沈むことなく
語ることなく
夢の閾(しきい)にすべり込む
風の器の鳴る音を
傷つけながら
凍りついた熱のかたちが
雪ひらにくるまれて
おとろえるように
友田裕美子・編『玉井國太郎詩集』(洪水企画、2024年)より
◆「風のつま先」「時の渚」など、詩的表現を繰り出しながら、手のひらに載る程度の小さな小舟をなぶるように世界を見ている。
−−と周りには見える。
彼の目にあふれる涙は他人には分からないのだ。



