玉井國太郎「ヴァンサン・スターシップ」[2026年05月08日(Fri)]
モッコウバラ(木香薔薇)。
*******
ヴァンサン・スターシップ 玉井國太郎
星への道程(みちゆき)を刻む
すきとおる轍(わだち)
ゆがんだ椅子は
荒れ騒ぐひかりの海に
立っていることができないわらの犬
うつろな花束を投げすて
未来に微笑みかける掌(てのひら)の
洗い落とせない灰のかげり
電気仕掛けのバベルの塔の背筋に
致命的な冷たい霧が吹きあげる
風の馬を追いたて
ヴァンサンの青をつらぬいてゆく
七十四秒の光のロンド
アルルから
タラスコンへ
地図の上の黒い徴(しるし)は
光のことばで呼びかわす
アルルから
ルーアンへ
眼差しのけものを横たえた
翼の生えた涙のしずく
世界の耳たぶを切り取る
薔薇の花影に彩られた巨大な疑問符
時の閾(しきい)をまたぎ越え
宇宙(そら)いちめんに打ち鳴らす
黒い鳥たちのアレグロ
友田裕美子・編『玉井國太郎詩集』(洪水企画、2024年)より
◆ヴァンサン、すなわちゴッホの世界を、詩人自身が光の粒子となってうねり、溶け合い、流れ下り、再び宙に砕け散る。その間、色彩は次々と音となって世界を満たす。
★四連目の「タラスコン」とは、アルル時代にゴッホが自らを描いた「タラスコンへの道を行く画家」を指している。
タラスコン街道を通って制作に向かう画家はスケッチブックやイーゼルを持って日差しの中を歩いている。彼自身の影も黒々と描き込まれている。
1888年制作のこの作品は、第二次大戦中に失われてオリジナルは現存せず、現在みることができるのは写真等に基づく複製だとのこと。
★画像は下のサイトなどから)
【アートの聖書】
→https://art-bible.hatenadiary.jp/entry/gogh-Tarascon



