山田玲子「ひきわたすもの」[2026年03月05日(Thu)]
ひきわたすもの 山田玲子
巨大な岩
を
砕く言葉
が
めざめる
闇がうごく
焔が
よじれる
知らない生きものが
跳梁する
岩は
地にひきわたすものを
ふかく
のみほす
『ひきわたすもの』(詩学社、1990年)より
◆ふだん、言葉は我々が自分の意志に従って使うものだと信じて疑わないが、この詩では違う。
ここでの「言葉」は人間の意図や思惑などと違うところから「めざめる」ものなのだ。
だからこそ「巨大な岩/を/砕く」力を持つ。
すなわちその「言葉」は人間のものではない。
だから、聞こえぬ者がたくさんいて、彼らが何かに取りつかれたように我も我もと水の中に沈んで消えて行っても何ら不思議ではない。
「知らない生きもの」が世に存在すると思わないところには驚きも喜びも生まれないだろう。
砕かれた「岩」が「ひきわたすもの」を、人間が直に受け取ることはそもそもできない。
(そもそもそんな資格はない)
人間が土から生まれたというなら、そこにいったん帰ってからやり直すしかあるまい。
◆だが、「岩」が「地に/ひきわたす」のは、その人間を、ではないのか?
重罪人を裁きの場に連れて行き、最後の審判を宣告するために。であるなら、そこにやり直しの機会はもはやない。
だとすれば、跳梁する生きものたちは、人間という愚か者をあざけり。侮蔑し、そうして憐れんでいるにちがいない。



