菅野陽の版画「よらないで」[2026年02月25日(Wed)]
◆先日訪れた茅ヶ崎美術館の《菅野陽と浜田知明 銅版画の夜明け前》のことを書き忘れていた。
ほぼ同時代を生きた二人の版画家にスポットを当てたもので、企画展に定評のある同美術館ならではの展観。
風刺のきいた浜田知明(1917-2018)をまた見たくなった時でもあった。
菅野陽(1919-1995)という版画家は初めて見ることができた。
年譜によれば最晩年の1990年から5年余りを茅ヶ崎市十間坂で過ごしたという。
(生まれたのは父の赴任先であった台湾。)
銅版画の実作者であると当時に銅版画史の研究者でもり、多くの著作がある。
忘れがたい印象を残したのは、「よらないで」と題する2枚の作品。
そのうちの最初のほう、1954年制作のものが2009年図録(同美術館で生誕90年を期して開かれた展覧会)に載っていた。
◆何人かの子どもたちの前面に立って手を広げている女の子の目からひとつふたつ涙がこぼれている。
そうして、その目はまっすぐこちらを見ている。
彼女たちを威嚇するガキ大将とその仲間がこちらにいるのか、あるいは見知らぬ大人が集団で近づいて来て子どもたちの遊び場を奪おうとしているのか、さまざま想像する。
だが、そのように思っているうちは、この場面を他人事として眺めているだけなのだと気づく。
全霊をかたむけて子どもたちを守っているこの少女は、見ている吾に「よらないで」と言っているのだ。
ウソやごまかし、打算や偽善、暴悪についに無力な正義感…それら我が裡なるすべての邪なものを告発し、奪い得ぬものの名において闘うことを宣言しているのだ。



