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石原吉郎「悪意」[2026年02月11日(Wed)]


悪意  石原吉郎
 異教徒の祈りから

主よ あなたは悪意を
お持ちです
そして 主よ私も
悪意を持っております
人間であることが
そのままに私の悪意です
神であることが
ついにあなたの悪意で
あるように
あなたと私の悪意の他に
もう信ずるものがなくなった
この秩序のなかで
申しぶんのない
善意の嘔吐のなかで
では 永遠にふたつの悪意を
向きあわせて
しまいましょう
あなたがあなたであるために
私があなたに
まぎれないために
あなたの悪意からついに
目をそらさぬために
悪意がいっそう深い
問いであるために
そして またこれらの
たしかな不和のあいだで
やがて灼熱してゆく
星雲のように
さらにたしかな悪意と
恐怖の可能性がありますなら
主よ それを
信仰とお呼び下さい



 『新選 石原吉郎詩集』(思潮社、1979年)より

◆皮肉や冗談めいたことばに哀切とさえ呼びたいほどの苦悩が張りついたことばだ。
それは「あなた」と呼ぶ主に対して語られる。

求めても表面的な善意や、「秩序」の側に立つ者たちの軽侮しか感じられないとき、彼らの偽善の言葉は汚穢や吐瀉物のように感じられるだろう。
それらについて語ることはもはや無意味だ。
だから、彼らの偽計に無意味な時を空費するよりも、彼らを全く排して、直に「主」と相対すること、秩序や謀りに遮られて「主」を見失うことなく、「私」への「主」の眼差しに怯むこともなく信じることは殆どその「悪意」に翻弄されるように思える時すらある。

だが、それでもなお信じることを捨てるわけにはいかない。
「あなたがあなたであるために/私があなたに/まぎれないために」とは、疑いや信の揺らぎの最中にあって相手を見失うまいとして語られた、苦悶にまみれながらの祈りのことばだ。



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