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谷川俊太郎「enigma」[2026年01月30日(Fri)]


enigma    谷川俊太郎


宇宙のどこかで
死ぬ子ども
世界中が
それを知ってる

電子と化して
血も肉も
敵も味方も
無味無臭

涙の泉も
いつか涸れて
世界は永久の
残酷な
見えない
enigma


  『ひとりでこの世に』(新潮社、2025年)より


◆enigma(謎)という言葉、音楽ではエルガーの変奏曲や、シューマンの「謝肉祭」などを思い出すが、ここではどんな意味で使われているのだろうか。

人間の子どもであるならばこの地上で死すべき定めであると普通は考えるのだが、詩は「宇宙のどこかで/死ぬ子ども」とうたう。
死は宇宙大の意味を含んでいる、ということなのか。あるいは子どもというものはこの宇宙のどこかで生まれ、また宇宙に還ってゆく者であるのか。

「世界中が/それを知っている」――言い換えれば、「子どもが死ぬ」まで、世界はその存在を知らなかった、ということになりはしないか。
世界から認知されず黙殺された子ども――その死。

しかも、この「死」は、体温も匂いも伴わない電子的情報として伝えられる。
かくも「残酷な」死があろうか。




  


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