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ER体験:総合的に診てもらうということ。[2026年01月14日(Wed)]


ER(救急医療)の現場で数時間を過ごすことになった。
急患受け入れでは信頼の厚い総合病院だけに院内の動線が初めての患者や付き添いにもわかりやすくできている。
ハード面だけではない。救急受付での最初の問診に始まって、医師・看護師が縦横に立ち働いているERのフロアは招じ入れられたフロアだけでもすでに10名ほどの急患が症状の子細を確認されていた。それぞれに複数のスタッフがついて、分担も明確になっている様子。

CT検査など以外は家族がずっと付き添っていられることに驚いた。
コロナ席捲のころはとてもできなかったことだろうけれど、すぐそばに家族がいることの安心は患者にとってどれほど大きいことか。

スタッフ交代の時間帯でもあったためか、複数の医師が同様の質問をする場面もあったが、念には念を入れているという姿勢が感じられて好ましい。

最終的な診断名を告げられてそのまま入院ということになったが、複数の病態が告げられ、その原因についても複数の可能性が説明された。
所見を絞り込むまでに多くのスタッフが見解を総合的に付き合わせて導いた診断であると納得できた。家族としては感謝しかない。

***

◆日本学術会議の任命拒否事件のおりだったか、当時のスガ首相が「総合的に判断した」というフレーズを倦むことなく繰り返していたことを思い出す。
その例に限らず、大臣や官僚の答弁で使用頻度が極めて高い表現であることは間違いない。
そうしてそのたびに、あーあ、逃げた、ごまかした、答えられない時の常套句だ、と思う。

★ちなみに今日の医師たちの誰一人、「総合的に」などという言葉は用いなかった。
観察した状態を説明し、どうしてそうなったか、考え得る理由にいたるまで、素人にわかることばで伝え、治療方針を文字に起こし、退院の目処を示しながら、仮に見通しに違う事態が生じた場合のプランBも伝えてくれることに、またまた感じ入った。
あとは退院の一日も早からんことを祈るのみ。


網谷厚子「A I レクイエム」[2026年01月14日(Wed)]



A I レクイエム  網谷厚子


さめざめと泣いている 顔を覗き込むと まん丸の目玉
の端から とめどなく水が流れている 脳内の貯蔵タン
クが 空っぽになったら ピタリと止んだ なぜ と聞
いても さくさく応えてくれない 人工皮膚は乾きやす
く 悲しみも晴れやすい お帰りなさい 行ってらっし
ゃい 今日何かありましたか それとなく気遣う きめ
細やかさもほどほどに 家人としては申し分のない分際
で あれ と言ってもすぐ持ってくる なんだつけ と
言ったら これですか と複数回答してくれる わたし
の脳を共有しているように ふわふわした 兎の着ぐる
みをかぶり ピョンピョンとわたしに抱っこされに来る
ときもある たぶん わたしが抱っこしたいと思ったか
らなのかもしれない パロからペッパー さらに アン
ドロイドへと A I ロボットは 人間に限りなく近づい
てくる 人間より人間らしい すでに人間を遙かに超え
た 完全無欠な相棒が わたしたちのすぐそばにやって
来る日も近い スーパーマンが宇宙人だったように わ
たしたちは やすやすと種の壁を超え バリアフリーへ
と 突き進んでいく 毎朝 お出かけ前の A I による
ニュースを公共放送で聞かされ A I のホーム放送で
電車に乗り込む 学校では タブレットのA I 教師を見
つめ 授業を受けている 子どもたち どんな質問をし
ても はぐらかすことなく 瞬時に答えてくれる優秀な
教師 要らなくなる職業が あれもこれも 増え続け
巷には 職を求める人で溢れる A I を修理する技術者
は 何人いても足りない 半導体が供給されている間
レアメタルがなくならない間 電気量が くまなく供給
されている間 地球に残された人間たちが 健康を保ち
続けられている間 A I ロボットの涙が乾いても わた
したちの涙は 乾くことがない


  『ひめ日和』(思潮社、2024年)より


◆ A I 大流行の当節、カスミを食べて生きているわけではない詩人もクラウドの世話になっていたりする。
煩わしい人間関係を感じないで済むなら、人間以上の理想的な相棒であるかも知れない。

◆縦書きの原詩を、上のように横書きで入力しながら眺めていると、「 A I 」 は「アイ」と読めることに気づく。略語の原義から離れて、「逢い」「相」などと文字が浮かんでくる。テクノロジーが新たな出逢いを生み、人生の相談相手にすらなってくれそうな、相棒としての A I ロボットだ。
「愛」や「哀」も分かち合えるかもしれない。
ひょっとして、こちらの寿命が尽きた時には、親兄弟よりもさめざめと哀しんでくれるかもしれないではないか。
もっとも、その時にこちらの涙はもはや干からびていて、主人の死を確かめてから「彼(彼女?)」も嘆くのを止め、動きを終えるだろう。少なくともそうプログラムしておかないと、おちおち死んでいられない――そんな気がする。




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