網谷厚子「搏動」[2026年01月12日(Mon)]
チンゲンサイの花だろうか。アブラナ科の野菜なのは確かだが。
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搏動 網谷厚子
道端で 突然泣き崩れた人がいる 泣き声は 幾本もの
棘となって わたしを突き刺す とめどなく流れる涙は
翡翠となって ころころ転がっていく 声はあげなくて
も わたしの眼から 溢れるものがある その人の震え
る肩を抱き さすりながら その人の悲しみを 分け合
えたら できることなら その深みへと続く 険しく凍
った道を ともに歩きたいと思う 空は遙か彼方まで透
き通り 何ごともなかったように輝いている 終わらな
い砲撃で 上から押し潰されたように こなごなに崩れ
た壁 家具 撃ち抜かれ ぐにゃりと折り曲がった足
落とし物のように 放置された屍 隠れようのない大地
で 宇宙からも捉えられる事実が なかったように伝え
られる 向こう側の刃の意図 破壊され尽くした 瓦礫
の中を 進軍する戦車の群 ドローンが獲物を探し 攻
撃する 一般市民 という無防備な標的 傷つき病んだ
人々の最後の砦にも 落とされる爆弾 徴兵され 鍬の
代わりに持たされる鉄砲 撃ち方も知らないのに 市民
も 女 子ども 老人たちも 兵士とともに 殺戮され
る 増え続ける 犠牲者たち 弱い者 武器を持たない
者の命が 奪われる理不尽 大災害で消える命を数えて
いる間に 何十 何百倍もの命が 惨たらしく 殺され
ていく現実に わたしたちは いつまで耐えられるだろ
う 残酷な映像を 見せ続けられる わたしたちの旅は
終わらない 戦争を止めさせられないばかりか 武器を
送り続ける大国の 罪 温室効果ガス削減にも本気で取
り組まない自国の 私腹を肥やす為政者の 怠慢 搾り
取られる税に喘いでいる 民 道端で わたしが倒れ
息絶えても 伝えられることはない 世界に張り巡らさ
れた蜘蛛の巣から 漏れていく 小さな命 声はなく
零れる涙は 乾いたアスファルトに 消える 伝えられ
ない 夥しい命が 報道の外側で 最期の搏動を打つ
祈りの鐘のように
網谷厚子『ひめ日和』(思潮社、2024年)より
◆冒頭、突然泣き崩れた人――内側から決潰したようにくずおれた人の慟哭――地上を覆う没義道の暴力がもたらしたものだ。
「わたしたちは いつまで耐えられるだろう」――このことばが鉛の銃弾のように我々を射抜く。
国会を開いたらすぐ解散、などと、アベ政治を繰り返して遊ぶな!



