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文月悠光「この地の傷口を……」[2025年12月14日(Sun)]


この地の傷口を……   文月悠光


この地の傷口をいたわるように
風はなぞる。
そこに刻まれた
土地の履歴をたどっていく。
その書き出しは、わたしの名前。



 『パラレルワールドのようなもの』(思潮社、2022年)より

「波音はどこから」と題する四篇の連作の冒頭に置かれた序詩。

地震が続く日本海溝付近、それが地球の傷口であるなら、海の底にも海上をわたる風の息吹は届いていよう。

同様に、わたしのからだの奥深くの傷口をやわらかくなぞるように、わたしのまわりの風たちも、波打ち、揺れて我が身を護るようにまつわり、そうして時には辻風みたいに髪をなぶり、かと思うと、戯れだよ、と言いたげに頰をなでるだろう。


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