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長田弘『金色の二枚の落ち葉』[2025年11月17日(Mon)]


金色の二枚の落ち葉  長田弘


部屋の壁に、落ち葉を二枚、
額に入れて、二年前、絵のように飾った。
晩秋の郊外の森の道で拾って、持って帰った、
カエデとカツラの、きれいな落ち葉だ。
落ち葉は、いのち尽きた葉だ。
けれども、二枚の落ち葉は、かたちも、色合いも、
風合いも、まだすこしも損なわれていない。
時は過ぎゆくが、時の外に、落ち葉はとどまる。
ときどき目を上げて、壁の二枚の落ち葉を見つめる。
部屋に金色の日差しが入りこんでくる日は、
二枚の落ち葉は甦ったようにかがやく。
いまここに、何が、落ち葉をかがやかせるのか。
落ち葉の小さな神がかがやかせているのだと、
わたしは言う。小鳥屋のおじさんが、
遠い日に、幼いわたしに話してくれたみたいに。
万物すべて、小さな神とともに生きているんだ。
笑いながら、小鳥屋のおじさんは言った。
おじさんは左手がなかった。戦争に行って無くした。
でも、あるんだよ。そう言って、おじさんは
右手で、左手のあった場所を指さした。
この何もないところに、いまも
左手の小さな神がいる。
ツツーピー、ツッピー、四十雀が叫んだ。
わたしは、小鳥屋のおじさんにおそわった、
何もないところにいる小さな神の存在を信じている。
壁のカエデとカツラの落ち葉を見ると、思いだす。
この国の、昭和の戦争の後の、小さな町々には、
すべてのことを自分自身からまなび、
「視覚は偽るものだ」と言った
エペソスのヘラクレイトスのような人たちが、
まだいたのだ。子どもたちのすぐそばに。


   『奇跡 ー ミラクル ー 』(みすず書房2013年)より


◆何もないところに、見えない神がいる――なんと深いことばだろう。
わたしにもこの詩の小鳥屋のおじさんのような存在がいただろうか?

――居たはずなのに、すっかり忘れているような気がする。

そんなことを思っている晩秋のおだやかな一日。



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