
小池昌代「うごき」=「恩寵」[2025年06月06日(Fri)]
マサキの花。やがてオレンジの実をつけて割れる。
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うごき 小池昌代
雨があがったあとの
樹下の路上に
いっせいに小鳥が降り立つのを見た
こころのなかを
同時に涼しく降下するものの気配があり
わたしは
なぜ自分が
この瞬間を
見たのだろうとおもった
怒りのような感情で光っている
固い道の表面
それを鎮めるような
降りる、という小鳥らのうごきが
そのとき
空から
恩寵ということばを
静かに招くのを
見た
詩集〈夜明け前十分〉(思潮社、2001年)所収。
現代詩文庫『小池昌代詩集』(思潮社、2003年)によった。
◆しっとりした涼しさを含む空気を感じながら、それをもたらした小鳥たちを見ている「わたし」。
空間と時間が交叉する希有の地点に「わたし」は立っていて五感ぜんたいがゆっくりほぐされて行くのを感じている――その心持ちを「恩寵」と名づける心のたたずまい。
――その空間と時間の交点にいざなわれる読者自身もまた、この詩的体験を「恩寵」と名づけるしかない。