
野木ともみ「今生の別れ」[2025年05月18日(Sun)]
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今生の別れ 野木ともみ
ひと頃親しくつきあった人が突然現れました。
闘いに行く
たたかう?
闘うことにした
なにと?
そのことを言いにきた
なぜわたしに?
わかってくれると思った
わからないよ
わたしたちは十代のある時期ある場所で
同じ種類の人間だと感じてつきあいました
共に描いた夢は実現せず別々の道を歩いてきました。
とにかく行く
ほんき?
行かなきゃならない
どうして?
どうしても
どうしても?
さよなら
さよなら
わたしたちは十代のある時期ある場所で
同じ種類の人間だと感ちがいしてつきあいました。
もともと違う種類の遠いその人は
わたしとの今生の別れを果たしたと同時に
わたしの頭蓋骨の中に飛びこみ
きれいに弾んで着地しました。
『その日も曇天で』(思潮社、2025年)より
◆「十代に/同じ種類の人間だと感じて/つきあっていた」人。
それが突然現れて「闘いに行く」と告げる。
いかにも唐突・一方的で、悪く言えば独りよがりで、よく言えば十代と変わらぬ純粋さで――。
しかもそれは「今生の別れを」告げるために来たのだ。
まるで出征する兵士のように。
別々の道を歩いてきたために完結しなかったもの、それは相手にとっても「わたし」にとっても「完結しない」ままだった。
あたかも灼けたアスファルトと一緒に溶けた飴のように全身に粘り着いて消化されず仕舞いだったもの、それが一気に完成するとは。
命終を悲しむいとまさえ与えないあっけなさを、ただ一瞬の驚きに凝結させた詩。