
岩木誠一郎「CALL」[2025年03月06日(Thu)]
CALL
岩木誠一郎
とても遠いところから
声が届く
こちらでは雪が降っています
もうずいぶん積もりました
その人の目に映るものを
思い浮かべようとすると
鳥の影がひとつ
森の方へ飛び去ってゆく
それはほんとうにあったことだろうか
野の果てのちいさなみずうみも
凍りはじめているらしい
丘を越えて行った狼の群れは
それからどうなったのか
物語のつづきを待つように
通り過ぎる風を聴いている
どこにもたどり着かないまま
音もなく切れて
閉ざされてゆく午後の
送電線のつめたさが耳に残る
『声の影』(思潮社、2024年)より
◆詩集名「声の影」が表現しているように、「声」はそれを発する我々の姿と同じく、輪郭を持ち、質量すら持っている。
「遠いところ」から届けられる「声」もまた同じ。だが、それが「どこにもたどり着かない」とすすると……