
中谷順子「ねぎ」[2025年01月07日(Tue)]
なかたに じゅんこ
ねぎ 中谷順子
葱は根木
根のヒゲの数だけ 茎脈を持っている
その数だけ水を吸い上げる 勢い良く
ああ 無駄なものなど何もない
白茎からほとばしる
瑞々しい つややかな あの弾力
そして それが
誰の目にもふれない暗い土の中で
ひっそりと行われているということ。
新・日本現代詩文庫『中谷順子詩集』(土曜美術社出版販売、2024年)より
◆野菜高騰のおりから、店頭に並ぶ彼らが神々しくさえ見えるこのごろ。
営々と土の中ではぐくんだものの恵みをいただく敬虔な気持ちになってよいはずなのに、世上の人心は殺伐さを増すばかりに思える。
人間は、獣はおろか、一本の葱にも及ばないのだった。