◆インターネットがつながらなくなって、光回線の会社に対応を依頼しようと電話した。
ところが受け手はAI。音声ガイドに従って項目ごとに数字の1から4くらいまでを数字のキーでタップして行くだけで、どうにか修理受付の段階まで進んだ。
ところがその先がなかなか面倒。「はい」と「いいえ」で答えるやり方に移った。
設置してある機種についてローマ字の型名を幾つも並べたうえで、「以上の中にあてはまるものがありますか。『はい』か『いいえ』で答えてください。ではどうぞ。」と言ってきた。
◆AI音声とは別の会社を相手にやりとりしたことがあって、その時に、「聴き取れませんでした」と返って来ることが何回かあった。たとえば「『はい』か『いいえ』でお答えください。」と言われたときに、こちらが「そうです」とか「ちがいます」と答えた場合にAIは対応できないようで、そうした場合に「聴き取れませんでした」としゃべるように設定されているらしかった。要求されたとおり、「はい」もしくは「いいえ」のいずれかで返すしかないようなのだ。
その経験があるので、他の言い方をしてはマズイ、ということだけはボンクラ頭も学んでいた。
何とかいくつかの関門を抜けて行ったと思ったが、機種名を次々並べ立てたので焦った。予め画像で用意した機種記号がその中になかったので「いいえ」と答えた。だがその後に画像の機種名のシールの端に、薄く3つのローマ字が印刷されていたのを発見。AIが読み上げたリストにその3文字があったように思う。
「いいえ」と答えてしまった後、AIは「『いいえ』ですね。」と復唱したあとの反応が遅い。「はい」と答えるべきだったのではないか。慌てて「いや、間違えました、多分。」と付けくわえたが、かみ合わないメッセージが返って来るばかり。苦労して積み上げたものが音を立てて崩れていく気分だ。
電話を切ってやり直し。
間違ったルートに迷い込んだら目的地に着かないかも知れない、という恐怖はなかなかのものだ。
結局、つごう3回やり直す結果になった。AIという壁が立ち塞がっている感じ。
ようやく最終段階に到達し、こっちのスマホの番号を伝え、そこにショート・メッセージが届いて送られてきたURLにアクセスして必要なことを入力し先方の対応を待つ、という流れ。その後、1〜2時間を要したが、どうにかネットは再びつながった――やれやれ……。
◆しゃべり方は格段に滑らかになったAI音声だが、まだまだ融通が利かない。「はい/いいえ」しか受け付けないのは、言い換えればこの二つ以外の返答は許さない、と宣告しているに等しい。恐ろしく専断・独裁的ではないか。
一方、生身の人間の方はアイマイさを受け入れながら何とか解決につなげる。いいかげんで天邪鬼ですらあるが、へそ曲がりにかき乱されない限り、その方が過ごしやすい世界であるのははっきりしている。
◆ショートメッセージはスマホに二通届き、いずれも片言ではない日本語で、回線の不具合を修理した旨を報告し、それでも改善しない場合に備えていくつか試してみるべき方法を書き添えてもあった。
何をどのように直したのか書かれてはいないが、文字で送られて来た分、圧迫感はない。
ひょっとして、不具合を突き止めて修理するのも、作業の完了を告げるメールもAIが人間の代わりに全部こなしているのかも知れないが、AI音声に付き合わされ、聞き逃すまいと必死になるのよりよほど気が楽だったのはなぜだろう?