金子光晴「冬眠」[2024年12月01日(Sun)]
横浜駅西口のイルミネーション。
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極月である。
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冬眠 金子光晴
眠れ。眠れ。眠れ。眠れ。
さめてはかない仮の世に
ねてくらすほどの快楽はない。
さめてはならぬ。さめてはならぬ。
きくこともなく、みることもなく、
人の得意も、失態も空ふく風、
うつりゆくものの哀れさも背(そがひ)に
盲目のごとく、眠るべし。
それこそ、『時』の上なきつかひて、
手も、足も、すべて眠りの槽のなか、
大いなる無知、痴(し)れたごとく、
生死も問はず、四大もなく、
ふせげ。めざめの床のうへ、
眠りの戸口におしよせて、
光りとともにみだれ入る、
世の鬼どもをゆるすまい。
(一九二五年)
*四大(しだい)……仏教で万物を構成するという地・水・火・風の四つの元素。
清岡卓行・編『金子光晴詩集』(岩波文庫、1991年)より
◆冬眠を常の生態としない人間が敢えてそれを行うのは、相応に理由も事情もあるからだろう。
ひたすら呪文のように「眠れ。眠れ。眠れ。眠れ。」と繰り返す冒頭からひたすら冬眠せよと自分に言い聞かす。
なぜかくも必死に冬眠しようとするのか、最終連で明らかになる。
――眠らせまいとする「世の鬼ども」がおのれを覚醒させずに置かないからだ。
たしかに。