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黒田三郎「時代の囚人 V」[2024年11月19日(Tue)]

◆谷川俊太郎さん逝去。享年92。

だが、今は前二回に続き、黒田三郎の「時代の囚人」そのVを読んで置く。
先の敗戦時において黒田は26歳、谷川は13歳。友や身近な者を喪失した体験の違いは詩に現れずにいない。


時代の囚人  黒田三郎

V

奪われるものは奪われ
奪いかえされるものは奪いかえされる
野を埋める死屍と
死屍のかげに咲く野の花と

今はあなたの胸にあふれる喜びと
掌にきらめく自由
奪われぬ何があなたの胸にあり
奪われぬ何があなたの掌にあったのか
奪いかえされぬ何が

ああ 失われた日に
鉄格子のなかで
あなたはあなたに何を語ったか
停車場の群衆のなかで
あなたはあなたに何を語ったか
そしていまは
与えられた喜びと
自由のなかで
あなたはあなたに何を語るのか


現代詩文庫『黒田三郎詩集』(思潮社、1968年)より

◆「奪われ」、「奪いかえされ」がそれぞれ同語反復されるのは、そのどちらもが、全き運命であるかのように、そしてなおかつ全くの偶然によって起きるとしか思えない体験を経たからだろう。

生きのびたこと自体が運命と偶然の間を、いつちぎれるか分からないロープに宙づりにされたまま、右に振れ左に揺れた結果に過ぎない。

◆「停車場」は、出征の時だろうか、それとも生きて復員できた時だろうか。
群衆のなかに生きた「あなた」を見出した家族は幸いなるかな。
だが目当ての「あなた」を見つけることの叶わなかった妻や老親も群衆の中にいる。彼らの視線が注がれた「あなた」の後ろには別の「あなた」が、「奪われるべき」かつ「奪いかえされるべき者」としてピタリと貼り付いているのだ。


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