大木惇夫「ふるさと」[2024年11月13日(Wed)]
◆鹿島茂が編んだアンソロジー『あの頃、あの詩を』(文春新書、2007年)は、千家元麿や山村暮鳥など、昨今の教科書からは姿を消した詩人たちの作品を載せており、確かに編者と読者の間に成立した言語空間を収めた「タイムカプセル」というべきものになっている。
そのトリをつとめているのは大木惇夫(1895-1977)である。
ふるさと 大木惇夫
朝かぜに
こほろぎ鳴けば、
ふるさとの
水晶山も
むらさきに冴えたらむ、
紫蘇むしる
母の手も
朝かぜに白からむ。
◆合唱曲『大地讃頌』の作詞者として知られる大木惇夫は広島の人だから、この詩の「水晶山」とは、広島県江田島の水晶山であろうか。
水晶に白や紫のものがあるように、詩にも、この二つの色が配されて一つの絵になっている。特に最後の連。
紫が帯びる気高さと釣り合うように、いっそう白さを際立たせる母の手――ふるさとの暮らしを思い浮かべながら、子として胸の裡に描く永遠の思慕の像。
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