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今井好子「貝塚」[2024年10月24日(Thu)]

◆肩肘張らない、昭和のひとコマを――


貝塚  今井好子


通り抜けの出来ない
四軒並びの家だった
家の前の 細い道を
舗装するとなったとき

貝殻が出てきたんですよ
昔の貝塚かもしれません
大発見だったりして
工事のお兄さんは
嬉しそうに話していった

私はすぐに気がついた
母も 黙ってはいたが
気づいただろうか

子どもの頃
具の味噌汁を飲むと 母は
家の前の 道のくぼみに
貝殻を捨てていた
舗装していない道は
あちらにも こちらにも
くぼみがあった

祖父母も父も
母も私も弟も
みな口を突き出し
貝の殻から身をこそげとって
しゃくしゃくと
貝を食べた
貝汁の貝は
食べる人 それぞれを
魅了した

掘り起こされた貝を 調べれば
ハエとり紙を 天井から
何本も垂らしたように
ぶらあ ぶらあ
同じようなDNAの
らせんが 並ぶだろう

お兄さんには悪いが
大昔ではない
少し前の 昭和のわが家が
作り上げた貝塚だ



詩集『朝の裏側へ』(土曜美術社出版販売、2023年)より

◆貝汁、ここではアサリかシジミか知らないが、自分にとってはシジミ汁だ。その貝殻を地面のくぼみに埋めていたのは一緒。鶏を飼っていた時には、貝殻を石で砕いて、エサに混ぜたりもした。

◆ここでは貝汁を囲む家族の頭上に、天井から下がったハエ取りリボンが取り合わされている。

わが記憶の底から貝汁として鮮やかに浮かんで来るのは、逆に真冬だ。
――小学校のバス遠足だったのだろう、ついさっき雪の降る十三湖畔で見た白鳥たちが、昼食に出された湯気の立ち上るシジミ汁のお椀の中で泳いでいる、不思議な情景だ。



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