韓永男「秋菊」[2024年10月07日(Mon)]
秋菊 韓永男(ハンヨンナム)
涼しい秋風の中
野菊の中身が裂ける音を聞いてごらん
空は青いな
小川は澄んでいるな
野では熟す匂い
山では焼け焦げる匂い
時々 花の灼ける音に耳を傾けてごらん
チェロの音のような秋の香り
奥ゆかしい湖のような秋の歌
サクサクの果物の匂いの中
野菊の中身が裂ける音を聞いてごらん
柳春玉(りゅうしゅんぎょく)/南鉄心(ナムチョルシム)/林施ホ(リムシユン)訳
『韓永男詩集』(土曜美術社出版販売、2024年)
◆〈中国現代詩人文庫〉という詩集のシリーズが出た。これはその第1集。
韓永男(ハンヨンナム)[1967年生まれ]は、中国朝鮮族の詩人。
◆詩は、最少の言葉で世界の深奥に招じ入れる。
この詩では、「野菊の中身が裂ける音」がそれだ。
はたしてどんな音がするのだろうか。
同時にその音は、季節の香り・匂いと結びついているはずだ。
音が空気を震わせて聞く者を陶然とさせるように、匂いも空中にゆらめき広がりながら婉然と鼻腔にしみ入る。そんな時間に身を委ねたいと思わせる。