こまつ座『母と暮せば』[2024年08月29日(Thu)]
◆こまつ座・第150回(!)公演、『母と暮せば』を観る。
井上ひさしの名作『父と暮せば』から生まれ、映画+小説、さらに芝居として大きく育ったことに感嘆する。(作・畑澤聖悟、演出・栗山民也)
後半、原爆の熱線に身を焼かれ「熱(あつ)か、熱か」とのたうちまわる浩二(松下洸平)の姿に、ガザ、ウクライナの今を重ねて息を吞んだ人も多かったはずだ(芝居はそのように、心にかき立てられたイメージや感情を観客が共有する――というより、役者と観客とが相互に作用し合って時代の体験として記憶されるものがあり、それが未来をつくる。この芝居が繰り返し上演され、若い世代に共感を広げていることも、大きな変化として、今日つぶさに知ることが出来た)。
母・伸子(富田靖子)との二人芝居は、再び生きる歩みへと立ち上がる母と、それを見守る浩二の姿で静かに終わる。
劇中繰り返されるせりふ、「幸せは、生きとる人間のためにある」から導かれた、この芝居の結びだ。
拍手とスタンディング・オベーションが静かに豊かに劇場を満たして行く。心にしみる体験だった。
★終演後、ロビーには、『母と暮せば』の生みの親の一人である山田洋次監督が、こまつ座代表・井上麻矢さんたちと語らう姿があった。
映画版も改めて観たくなった。
坂本龍一氏の音楽とともに空へ空へと向かってゆく、あのエンディングもまた、映画として考え抜かれた結びのかたちだった。