山口雅代「自転車」[2024年07月19日(Fri)]
◆山口雅代詩集『ありとリボン』にはまだまだ味わいたい詩がたくさんある。
気持ちを少し戻して、もう一篇――
自転車 山口雅代
野はらへ出たら
けしきが まわる
頭の中を
風が はしる
心の ごみも
顔の ごみも
とれて しもうた
『新版 ありとリボン』(編集工房ノア、2023年)より
◆四年生の時の詩だ。
難病を抱えて生まれ、障がいについて書いた詩もあるが、どの詩も、こころが自由に弾んで言葉が生動している。
一例を挙げるなら、
「心の ごみも / 顔の ごみも」の二行。
理屈屋の大人は「顔の ごみも / 心の ごみも」と順序立てて書くかもしれない。
だがそれではことばは干物みたいになってしまう。
詩人はまだるっこしいやりかたとは無縁だ。
「頭」や「心」の中を風が吹いたという事実が真っ先にある。
だから顔のごみも吹き飛んで表情もすっかり変わらずにはいない。
読む者は、それを追いかけるようにして、野を、道を一緒に駆ける。