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若尾儀武『戦禍の際で、パンを焼く』40[2024年05月20日(Mon)]


戦禍の際(きわ)で、パンを焼く   若尾儀武

40

街道沿いの教会の地下室
板壁に日付と名前を書いた紙片がピン止めされている
司祭がいない
人もいない

3・7
アンドリー
誰がピン止めしたものか

異邦
わたしは線路沿いの公園のベンチに腰かけ
上り電車の窓に
下り電車の窓に
君を探している



若尾儀武『戦禍の際で、パンを焼く』(書肆 子午線、2023年)より


◆異邦の人間にも戦地の映像は届く。
避難民が黙したままの祈りを繰り返したはずの地下室に残されたアンドリーという名の人間――彼の生の軌跡を追い求める――断片とすら言えないメモを手がかりにして。

「わたし」に聞こえているのは砲撃ではなく、電車が通る音だ。
戦車のキャタピラではなく、すれ違う車輌の軋む音だ。

その電車の中に、夕陽を見やりながら疲れた横顔を見せているアンドリーが乗っているのだったら、私はホッと一息つけるかもしれないのだけれど。



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