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若尾儀武『戦禍の際で、パンを焼く』24[2024年05月13日(Mon)]


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シャリンバイ

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戦禍の際(きわ)で、パンを焼く   若尾儀武

24

さあ はやくお逃げ
何処まで逃げても
お前は裏切り者でも卑怯者でもない
逃げることが戦うことと同じだということだってある
踏みにじられる麦畑
焼き尽くされるヒマワリ畑
不条理な侵攻が戦線を拡大する
猶予はない
南からの風がまだあるうちに
さぁ さ
はやくお行き

荷物は少なければ少ないほどいい
ただひとつ
土を一握り
布袋に詰めていくのを忘れてはいけないよ
おまえの小さなウクライナ
季節がくれば季節の花と実をつける

ん? わたしかい
わたしはここに残る
もう何処に行ってもここにいるのと同じだからね
それにここでなければできないこともあるしさ
ここ数ヶ月 めっきり人通りが絶えた
それでも
ひとり分 余分のパンを焼いて
来る人を待たにゃならんからね


若尾儀武『戦禍の際で、パンを焼く』(書肆 子午線、2023年)より



◆みなしごとなった子どもに別れを告げ、ほかの誰かに託そうとする老婆。
彼女は、ここに留まってパンを焼く、と言う。
それも「ひとり分 余分のパンを」だ。

それは誰のために焼くパンなのだろう?
同様に家族を失い、ここに逃げ延びて来る者?

あるいはこうも考えられないか?

――憔悴し重い足取りでやってきた「敵」?
それとも、眼に深い悲しみをたたえた救い主――



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